モスバーガーの客数が減っている! 不振の原因は何なのか?
画像はモスバーガー公式サイトのスクリーンショット

ファストフード業態が好調だ。業界の盟主マクドナルドの復活が全体を牽引した結果である。
そんな中、業界2位のモスバーガーが苦境に立たされている。
モスバーガーに、そしてハンバーガー業界に、一体何が起こっているのだろうか。


モスバーガーの始まりと名前の由来


モスバーガーが誕生したのは1972年のこと。
1970年にはケンタッキー・フライド・チキン日本第1号店がオープン。翌1971年にはマクドナルドの日本第1号店、さらに1972年にはロッテリア第1号店がオープンと、ファストフード文化の波が日本に押し寄せた中での出来事だ。
マクドナルド日本進出に触発された創業者の櫻田慧(さとし)氏は本場アメリカに渡り、現地を視察・調査。「ジャパンオリジナル」をコンセプトに、日本人の味覚に合わせて生まれたのが看板メニューの「モスバーガー」だ。
東武東上線成増駅前のショッピングセンターの地下、わずか2.8坪の敷地からのスタートだった。

モスバーガーの「MOS」は3つの単語からなるのは有名な話である。
MはMOUNTAIN(山)、OはOCEAN(海)、SはSUN(太陽)。
「山のように気高く堂々と、海のように深く広い心で、太陽のように燃え尽きることのない情熱をもって」という人間・自然への限りない愛情が、そこには込められている。


「緑モス」になった理由とは?


2004年度より、それまでの「赤モス」から「緑モス」へと大胆にイメージチェンジを図っているが、これには、ファストフードの気軽さとレストラン並みの高品質な商品やサービス、快適な空間を併せ持つファストカジュアル業態への転換があった。
店づくりのコンセプトは「安心・安全・環境」。それらを象徴する色として緑が採用されている。
95年ごろから、農薬や化学肥料に極力頼らない方法で栽培された野菜を積極的に使用しており、これらの健康志向への取り組みをより広くアピールする意味合いもあった。


初モノ尽くしの「テリヤキバーガー」&「ライスバーガー」


強い「和」へのこだわりは、日本の味を大切にしてきたモスバーガーならではのオリジナリティだ。
代表作は、誕生から1年余りの1973年に誕生した「テリヤキバーガー」。日本のチェーン店では初のお目見えとなる。
当時はハンバーガーのソースはケチャップがセオリーであり、それまでの概念を覆す和風ソースへの反響は絶大。知名度はもちろん、店舗店拡大の牽引役となった。
さらに、1987年には米のバンズ「ライスプレート」を使った世界初の「モスライスバーガー」が登場。つくねやきんぴらを始め、和の食材とのコラボレーションで新たなジャンルを確立している。



天ぷらやドーナツもハンバーガーに!?


このライスバーガー商品でひと際インパクトが強かったのが「モスライスバーガー海老の天ぷら」。
そのものズバリ、海老の天ぷらが2尾サンドされていて、食べごたえも十分だった。
こういった変わり種バーガーも得意とするモスバーガーだが、ミスタードーナツとの資本・業務提携により実現した「ドーナツバーガー」はその最たるものではないか。
ドーナツ型パティの穴の中にソースが入っており、食べるうちに味が変わる仕掛けもユニーク。
ミスドの主力商品「フレンチクルーラー」をバンズに使った異色のハンバーガーもあった。



客足が鈍るモス!? その不振の理由とは


業界トップのマクドナルドが過去最高益を実現。奇跡のV字回復を果たしたのに対し、業界2位のモスバーガーは業績の伸び悩みに直面しているのが実情だ。
ピーク時の2000年度には1,500店を超えた国内店舗数も、2018年6月末現在は1,333店舗(直営店39、フランチャイズ加盟店1,294)。
来客数は5年連続で前年比割れとなっている。(参照:モスバーガー公式サイト内月次情報)


低価格と高級路線のはざまで


その要因のひとつ、まずはライバル店の動向だ。
低価格帯のマクドナルドが復活したことで、「割安感がない」「クーポンがない」など、価格面がより強調されることに。
さらに、世界2位の規模ながら日本では伸び悩むバーガーキングも、チラシやアプリの販促でマクドナルドを上回る割引サービスを展開。急速にファンを拡大中だ。
2022年までに、出店数を現在の約100店舗から300店舗にまで拡大する意向を示しており、その影響は大きくなりそうだ。

『シェイクシャック』『カールスジュニア』『ウマミバーガー』などの海外高級バーガー店の日本進出もあって、1,000円以上の価格帯の「プレミアムバーガー」市場も好調の一途。高級バーガーを提供するカフェなどの業態が地方にも拡大している。
これにより、モスバーガーが誇る商品クオリティの高さや、健康志向が相対的に低下したともいえる状況なのだ。

モスバーガーの創業当時からのこだわりのひとつ、「できたての美味しさの提供」のための注文を受けてから作る「アフターオーダー方式」も、低価格帯と高級路線の間の立ち位置からすると、待ち時間が長いことへの不満ばかりが目立ってしまうのが痛い。


迫り来るフレッシュネスバーガーの脅威


同じく日本発で、後発のフレッシュネスバーガーの躍進もモスバーガーのシェアを奪う一因だ。
モスバーガーより少し高めの価格帯ながら、国産野菜など素材へのこだわりを始め、美味しさと安心の追求、徹底したサービスはモスバーガー以上ともいえる。
フレッシュネスバーガーは、2016年末に焼肉チェーン店の牛角などを傘下に持つ、外食チェーン大手のコロワイド(正確には子会社のレインズ)が買収。2020年までに、現在の約160店舗から400店舗まで拡大を図るという。
牛角の成功を始めフランチャイズ戦略に定評があるだけに、今後さらに大きな脅威となることは間違いない。
モスバーガーの客数が減っている! 不振の原因は何なのか?
画像はフレッシュネスバーガー公式サイトのスクリーンショット


健康志向のアピール不足も原因か?


乱立するライバル店に比べ、モスバーガーのアピールが不十分な感が否めない点も大きい。
特に、ツイッターやインスタグラムなどSNSにおいて。
テレビCMでの露出も大事だが、メインの客層となる若者たちへの訴求の弱さもジワジワと影響していると思われる。

モスバーガーが健康志向を売りに一人勝ちだった時代は今や昔。プレミアムバーガー市場はもちろん、同価格帯のライバルたちも手を変え品を変え、新たな話題を提供している。
フレッシュネスバーガーは今年に入って、欧米で注目されているトレンド「ヘルシーファット」に注目。これは、無理に脂肪・脂質を避けるよりは、むしろ上手に取り入れようとする美容・健康法であり、いわばジャンクとヘルシーを両立するような考え方で、若い女性を中心に大きな注目を集めていきそうな気配。
ネット全盛で消費者の興味のサイクルが加速する中、王道の健康志向を追求するならば徹底したアピールを根気よく続けていく必要があるのではないか。
それは、同じく健康志向を打ち出すサブウェイが、この4年間で170店舗も閉鎖したことと無縁ではないはずだ。


過去のピンチは創業者のスキャンダラスな死から始まった!?


過去にもモスバーガーは苦境に立たされたことがある。
1997年、創業者である櫻田慧(さとし)社長がくも膜下出血により60歳の若さで急死。元オリンピック選手でタレントの愛人宅で死亡したとの噂が流れるスキャンダルだった。
真偽はともかく、強烈なカリスマを持つリーダーを失ったことで、モスバーガーは1999年3月期に創業以来初の減収減益に陥ってしまう。
しかし、その低迷の因子はすでに80年代後半にあったのかも知れない。
マクドナルドが駅前を始めとする利便性の高い一等地に大型店を出店するのに対し、モスバーガーは主に郊外の二等地に小型店を出店するのが特徴。味に対する絶対の自信があるからこその戦略だ。
しかし急成長を遂げる中、一等地戦略に走り、調理時間短縮のグリルを導入するなどマクドナルドに追随してしまったのだ。
自らのアイデンティティを失ったことが失速の原因だったのである。
もっとも、その後は前述の「緑モス」化を始めとする独自路線の追求により、「堅実な2番手」をキープしてきたわけだが。

モスバーガーにとって、いわば2度目となる今回の苦境。
時代は変わり、ファミレス化が進む大手回転寿司チェーン店や、サービス・品揃えの向上が著しいコンビニエンスストアともシェアの奪い合いの様相。
モスバーガーはこの難局とどう向き合うのか。今後の動向に注目である。
(バーグマン田形)
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