連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第16週「抱きしめたい!」第95回 7月20日(金)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:田中健二

95話はこんな話


出会って6日で結婚を決めてしまったため、鈴愛(永野芽郁)は涼次(間宮祥太朗)のことをほとんど知らなかった。結婚してから彼の意外な面を知ってしまう。


だめんず


現実世界では日本列島が危険な暑さにさらされている中、「半分、青い。」では呑気に三おば・光江(キムラ緑子)、麦(麻生祐未)、めあり(須藤理彩)が素麺と水茄子を食べている場面からはじまった。
素麺、パスタ・・・と麺を食べていることの多い三おばだが、もしや麺とイケメン(間宮、斎藤工)にかけているのではと思ったら、メンはメンでも「だ“めん”ず」だった。

母屋にやってきた鈴愛。涼次に絶対開けていけないと言われた箱を開けると、入っていたのは未完成の台本の数々。おもしろいけど、一作も完成したものがないことを訝しむ鈴愛に、読書感想文でさえ最後まで書いたことがない、私が書いていた、と麦。
あの子は「昔から三日坊主」「夢は大きい」「言う時は本気」と光江。
「夢に夢みるタイプ」とめあり。
鈴愛は涼次が「だめんず」だったと知ってショックを受ける。

責任とってよ


場面変わって、岐阜。喫茶ともしび。
にわかに菜生(奈緒)とブッチャー(矢本悠馬)が急接近。
「責任とってよ」と物騒なことを菜生が言うものだからドッキリしたら、東山動物園でコアラを見ただけだった。それは「愛の証」と言うのだとか。
職場のノルマが達成できなくて心が弱っている時、ついついブッチャーに心がよろめいてしまったらしい。

ブッチャーはいい人なのでたちまち菜生にプロポーズする。
すると菜生はたちまち表情が変わり、おしゃれ木田原の改装資金が必要だとか言い出すちゃっかりぶり。
律(佐藤健)も涼次もブッチャーもすぐに結婚を口に出す。でもいるのだ、急に「結婚」と言うタイプの人たちは。彼らは様々な問題も抱えてはいるがたいてい根はいい人なんだと思う。

かたつむりの視線に見せかけて


だめでもいい人な涼次は元住吉と撮休前だからと羽根を伸ばし、夜中に酔っ払って帰って来る。
中島みゆきの、ドラマ「家なき子」の(94年)の主題歌「空ときみのあいだに」を歌うふたり。
これは犬の目線だと元住吉は解釈し、四つん這いでわんわん言っていると鈴愛に水をかけられる。
「半分、青い。」95話「この世に生きるただゆっくりと前に進むしかない私たち自身の虚無」
「家なき子 VOL.1 」VHS バップ

猫か犬のように「あっちへころころこっちへころころ」すると涼次のことを言う光江に、鈴愛は不安になる(女性のもとへあっちへこっちへころころされたらたまらない)。

95話は、帽子ブランド・ラッコノアタマ(たぶんCA4LAのもじり)、「家なき子」、「だめんず」と流行のキーワードがいろいろ出てきたり、田舎者はピンクのマンションに住みたいと思うらしいという謎の定義が出てきたり、涼次が結婚資金を元住吉の映画の製作費に使ってしまったことは元住吉には内緒だったが鈴愛が暴露してしまったり、めありが往年のトレンディドラマのがさつ系ヒロインふうに寝ぼけて胸をはだけて元住吉の前に現れたり・・・と話題に事欠かない回だったが、最も重要なのは、おちゃらけのパレードの中にするっと潜り込ませた麦の台詞だろう。

「かたつむりの視線に見せかけて それはこの世に生きる ただゆっくりと前に進むしかない私たち自身の虚無。でも少し前進」
この台詞を聞いたとき私は雷に打たれたような気がした。

このニーチェのような考え方こそが「半分、青い。」を表しているのではないか。
鈴愛が恋も仕事もうまくいかず、急いで結婚したもののどうやら前途多難であり、ドラマの主人公として明確な進歩や成功や幸福がない。それは“ただゆっくりと前に進むしかない私たち自身の虚無“そのものに思える。それでも時間とともに進んではいて、ただその様をおもしろおかしく描いているのが「半分、青い。」なのではないだろうか。できれば、ふつーにカタルシスがほしいと望む人も少なくないと思うが、もう少し様子見で。

麦と元住吉が、お似合いに見えた。
(木俣冬)
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