7月19日(木)放送の木曜劇場『グッド・ドクター』(フジテレビ系列)2話。
1話では、そばにいた医師の手をどけてたった1人でこどもの怪我の応急処置をおこなった湊(山崎賢人)が、他の医師に助けを求めることを知った。湊を導いてくれたのは、恩人である司賀明(柄本明)だ。

社会や経済から孤立してしまう「未受診妊婦」の問題
2話で登場したのは、16歳で妊娠をし、学校で破水してしまったために救急搬送された菅原唯菜。演じたのは、ドラマ『幸色のワンルーム』(朝日放送テレビ)や映画『ミスミソウ』で主演を務めている山田杏奈だ。
唯菜が産んだ赤ちゃんは、低出生体重児。腸のほとんどが壊死状態で、壊死性腸炎になっていた。出産するまでそれがわからなかったのは、唯菜が妊娠してから病院にかかったことのない未受診妊婦だったからだ。
母子家庭で、母親が足を悪くして働けなくなってからは親子関係も悪くなっていた。家に帰りづらい日が増えた唯菜が頼ったのは、初めてできた恋人。待ち合わせのレストランにスーツで現れたところを見ると、成人男性なのだろう。
唯菜「『ずっと一緒にいよう』って言ってくれたのに、赤ちゃんができたって言ったら『おろしてほしい』って。連絡もつかなくなって……」
小さな産婦人科医院を舞台にしたドラマ『透明なゆりかご』(NHK)で、7月20日(金)放送の第1話に登場したのも未受診妊婦だった。
現実では、2013年には大阪府内だけでも285件の未受診妊婦が確認されたという報告がある。そのうち72名の赤ちゃんが、唯菜の赤ちゃんのような低出生体重児や、重症仮死などでNICUに入院している。大阪府だけでこの人数。全国ではどれほどなのか。
未受診の理由は、経済的問題や妊娠・出産、それに関する制度の知識不足のほか、社会的孤立などがあるそうだ(大阪産婦人科医会「未受診や飛び込みによる 出産等実態調査報告書」2014 より)。
悲しい妊娠・出産のテンプレートとして「未受診妊婦」「認知しない男」が使われることが定番になると、未受診妊婦に別のスティグマを背負わせてしまう可能性もある。その心配はありつつも、なかなか見えない社会問題を知る機会として、ドラマで扱う意義はあるだろう。
卑屈と絶望、人の生き様を身体1つで表現した黒沢あすか
赤ちゃんの壊死性腸炎の手術をするには、同意書へのサインが必要。それも、未成年の唯菜のものではなく、その保護者のサインがなければいけなかった。
唯菜の母親・真紀(黒沢あすか)は、赤ちゃんを里子に出すことを条件に承諾する。赤ちゃんと唯菜を離れ離れにさせることを非難しかけた医師の夏美(上野樹里)に、真紀は言う。
真紀「誰にどんな風に思われようが関係ないわ。こっちだって、生きるのに精いっぱいなのよ」
足が悪くて働けず、たった1,080円が払えず唯菜に中学3年間同じ上履きを履かせていたという。一日中横になっている様子を見ると、もしかすると生活保護で暮らしているのかもしれない。そんな真紀が、唯菜と赤ちゃんの2人を育てていくことはできない。
真紀は、身振り手振りではなく顎を突き出す仕草を使って人と話す。足が悪くなったせいか背骨は曲がり、16歳の唯菜と並ぶとときおりおばあさんに見える瞬間すらある。
積み重ねられた真紀の卑屈な生活と、先が見えず努力のしようもない希望のなさを、身体1つで表現した黒沢の演技力に息を飲んだ。

現時点で、日本版『グッド・ドクター』の弱い部分は、主要な登場人物の仕事以外の面が見えないことだ。
原作の韓国版では、1〜2話の時点で湊(韓国版:パク・シオン(チュウォン))と夏美(韓国版:チャ・ユンソ(ムン・チェウォン))の生活の様子を描いていた。
やや強引な感じはありつつも、早い段階でユンソがシオンを異性として意識するシーンがある。自立した大人の女性との恋愛を匂わせる。
また、ラブコメ的なドタバタ要素によって、2人が人間としてどんなチャーミングな面を持っているかを見せるメリハリがあった。
日本版では、湊と夏美が仕事のあとに焼き肉(おにぎり)を食べに行くシーンがある。でも話している内容も仕事の話だし、まだ仕事の延長線上という感じがしてしまう。
主要登場人物がなかなか見せない人柄や思いの部分を、黒沢あすかや山田杏奈のような力のあるゲスト俳優ががっつりと補填している印象だ。
描きたいのは自閉症のことなのか? 小児外科のことなのか? 病院の権力争いのことなのか? まだ要素がバラバラに感じられてしまう。せっかく用意されたさまざまな視点だ。湊と夏美の思いやチャーミングな面がさらに表れてくることで、より骨太のストーリーになっていくことを期待している。
次回、湊と高山(藤木直人)の関係に変化がありそうな第3話は、今夜10時から放送。
(むらたえりか)
※山崎賢人の「崎」は「たつざき」が正式表記
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▼放送情報▼
木曜劇場『グッド・ドクター』
フジテレビ系にて、毎週木曜よる10時〜放送 ※初回15分拡大
出演:山崎賢人、上野樹里、藤木直人、戸次重幸、中村ゆり、浜野謙太、板尾創路、柄本明、他
原作:『グッド・ドクター』(c)KBS(脚本:パク・ジェボム)
脚本:徳永友一(ドラマ『海月姫』、『僕たちがやりました』など)、大北はるか(ドラマ『刑事ゆがみ』、『好きな人がいること』など)
プロデュース: 藤野良太、金城綾香
協力プロデュース:西坂瑞城
演出: 金井紘(ドラマ『コンフィデンスマンJP』、『貴族探偵』など)、相沢秀幸(『隣の家族は青く見える』、『貴族探偵』など)
制作:フジテレビ
(c)フジテレビ
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