本当なら喧嘩するはずのリズムが同居する「ア・プリオリ」もミセスの核のひとつ/インタビュー後編

――【Mrs. GREEN APPLE】インタビュー前編より

すごく開けたタイアップのある曲のなかで、こういう部分を出していくのもいいかなって

──そして映画の挿入歌でもある『点描の唄』は、井上苑子さんとのデュエット曲ですね。

大森:台本のこの部分で流れるんだけど、曲で主人公の想いが伝わっていたらセリフはなくしてもいいっていうような、すごいことを言われまして。
でも主人公2人の気持ちが絡み合っていく、すごく大事なシーンで流れる曲なので、そんなことある?って思ったんですけど(笑)。それを意識して男の子と女の子の2人の気持ちを表現する曲にして、ここにセリフが入ったらいいなあっていうところに間奏を入れておいたんですね。そしたら本当にその通りになっていて、嬉しかったですねえ。でも僕、デュエットは「Log」という曲でもやってるんですけど、恋の歌をデュエットするのは初めてで。

──キーの低い井上さんのボーカルが、すごくいいですね。

大森:元気な女の子っていうパブリックイメージがある苑子ちゃんが、憂いをまとった楽曲を歌ったら、どういう顔を見せるんだろうなあと思ったんです。
だから低めの声で囁くように歌ってもらって。そしたらすごく素敵に歌ってくれて。

──そういう意外さもありつつ、人って心の底にある大事なことを伝えようとするとき、自然と声が低くなると思うので。キーひとつで、そういうリアリティも表現しているところがすごいなあと。

若井:ホントにそうですね。声は低くなりますよね。


大森:たしかにそうですね、今気がつきました(笑)。

本当なら喧嘩するはずのリズムが同居する「ア・プリオリ」もミセスの核のひとつ/インタビュー後編
藤澤涼架(Key)

──また温かさとクールさが同居しているアレンジも素敵で。

藤澤:バンドとしても男女間のことをストレートに表現する楽曲は初めてなんですよね。だから歌詞の切り替わりとか、苑子さんの歌声や息遣いを頭に置いて演奏していったんですけど、できあがった音源は自分がイメージしていた以上のものがいっぱい詰まっていて。本当に素敵だな、ありがたいなって思いました。

若井:ギターに関しては、背景になるような弾き方はあえてしないで、曲に寄り添うように大事に大事に録っていきました。


山中:ドラムは、打ち込みのドラムと生ドラムを重ねているんです。お互いが気持ちを抑えようとしている部分は歌を前に出して、楽器隊は表に出ないようにしていて。曲の後半で気持ちが溢れていくにつれて楽器も出ていくというか。そういうバランスが上手くとれたように思います。

高野:この曲ではコントラバスをストリングスと一緒に録ったんですけど。電子系のリズムと生楽器の温かさが重なって、新しい聴こえ方ができるバラードになったかなって。

大森:いい曲というより残る曲にしたいと思ったので。だからドラムとかもドライにドライにっていうのを、けっこう意識しましたね。

山中:なので曲がどんどん盛りあがっていっても、ひたすら気持ちを抑えて曲に寄り添うように演奏することを心がけました。

──後半部分のボーカルの掛け合いもいいですね。言葉にならない想いをやりとりしているようで。

大森:俳優さんたちのセリフがない状態で話が進む点描シーンに使われる曲なので、歌詞として言葉を落とし込まないとと思って。
そういう役割で映画を盛り上げられたらいいなと思ったんですよね。

本当なら喧嘩するはずのリズムが同居する「ア・プリオリ」もミセスの核のひとつ/インタビュー後編
高野清宗(Ba)

──この曲の歌詞は文語調の日本語も、ものすごく印象的ですね。

大森:ちょっと古語っぽいというか。

──日常会話で<好いている>って言わないですもんね。

大森:言わないですね。でも最初に出てきた歌詞が<私は貴方を好いている>で、そこから広げていった歌詞なんです。
例えば「私はあなたのことが好き」っていうと、ちょっとストレートすぎちゃうのかなと思って。<好いている>っていうのは自分の状態を表現している言葉だと思うし、それがすごく大事になっているシーンなので。だからどうしたっていう話は、このなかでも歌ってないんです。私はあなたのことを好いているし、僕もあなたのことを好いているっていう、お互いに自分の気持ちがちゃんとわかっている、それが何より大事なシーンだと思って、こういう歌詞にしました。

──すごく綺麗な日本語ですよね。

大森:嬉しい。すごく嬉しいです。

──ラスト「ア・プリオリ」は、また違うベクトルで皆さんらしい曲ですね。

大森:はい。今回は原点回帰っていうテーマがあったので、こういうちょっと哲学的というか啓発的というか陰湿というか、そういう部分も僕らの核のひとつなので。

──これはこれで原点回帰。

大森:そうですね。17歳、18歳の頃はこういう曲ばっかり作っていたんですけど、成人してから、こういう曲は作ってなかったので。久々に書いたら面白いかもと思って。

本当なら喧嘩するはずのリズムが同居する「ア・プリオリ」もミセスの核のひとつ/インタビュー後編

──どうですか、久々にそういう切り口で書いてみて。

大森:楽しかったですね、っていうとだいぶサイコ野郎になりますけど(笑)。でも自分のなかに流れている血というか、切っても切り離せないものだと思うので。すごく開けたタイアップのある曲のなかで、こういう部分を出していくのもいいかなって。どっちもミセス、どっちも大森っていうところを届けられたらなあと。

──今回のなかで一番バンド色が強い曲かもしれないですね。

藤澤:そう思いました、まさにバンド!っていう曲だなあって。

高野:16ビートの跳ねたシャッフルのリズムの曲なので。リズムとしては3曲のなかで一番カッコいいフレーズのある曲ですよね。

山中:それも頭で考えるんじゃなくて耳で聴いた、このビートが気持ちいいよねっていうのを共有しながら演奏しているので。よりバンド感が出ているのかもしれないです。また、その16ビートのフレーズを演奏するうえで、シンセだけが3連で鳴っているところが気持ち悪くて、カッコいいんですけど(笑)。

藤澤:ただ激しい曲で終わらせたくないっていうのは、みんなのなかにあったので。「激しい曲!」ってならないように弾きました。

大森:本当なら喧嘩するはずのリズムが同居しまくってるんで。

若井:またこの曲では、本来はストリングスがやっているようなことをギターでやるみたいな。かなり苦戦しましたけど、最終的にはうまく落とし込めたなって。

本当なら喧嘩するはずのリズムが同居する「ア・プリオリ」もミセスの核のひとつ/インタビュー後編

──ところで今はツアー真っ最中ですが、手応えはどうですか。

大森:今回のツアーはアルバムで表現したエンターテインメントということを掘り下げた、やりたかったことがやっと実現化できたライブなので。もうホントに楽しいですね。

──即日完売となった幕張メッセのファイナル2daysですが、ライブの内容はツアー本編と同じですか。

大森:最後の2日間はちょっとパワーアップして。その2日の内容もそれぞれちょっと変えるつもりでいます。

──えっ、そうなんですか! 今さら遅いですけど、両方行ったほうがよかったんですね。

一同:あははははは。

大森:でもどちらに来ても面白いと思います。そういう2日間にしようと思ってますので、楽しみにしていてください。っていうか自分たちが一番楽しみにしてるんですけどね(笑)。

――【Mrs. GREEN APPLE】マイ旬へ