唯一無二のヒップホップ・バンド韻シストが音楽シーンに刻んできた足跡/インタビュー前編

韻シスト/8月1日にアルバム『IN-FINITY』をリリース


祝・結成20周年。唯一無二のヒップホップ・バンドとして、大きなリスペクトを集めつつ、Chara、PUSHIMら多くのアーティストとのコラボなどを通して、彼らがこの国の音楽シーンに刻んできた足跡は、とても大きく深いものだ。
最新アルバム『IN-FINITY』は、そんな彼らの20周年記念作として、これまで以上に楽曲のバラエティと完成度にこだわって作り上げた傑作だ。アルバム制作を通じて感じた、20年間変わらないもの、そして新たに見つけた可能性について、BASI(MC)とTAKU(Gt)が語ってくれた。
(取材・文/宮本英夫)

計画して作り上げることの楽しさを憶えたのが、今回のアルバム

――ヒップホップ・バンドを20年間、第一線で続けること。偉業だと思います。

BASI:どうやら20年ってすごいらしいぞということに、3年前ぐらいに気づいたんですよ。「バンド何年やってんの?」「まあ、20年ぐらいですかね」「え、すごいな!」みたいな。
それで17年目ぐらいから、あやかれじゃないけど、言うといたほうがいいかなと。

TAKU:(笑)

BASI:かといって、そこにすごいエネルギーを注いだか?といったらそうでもなくて。20周年やからこのアルバム、というよりは、「韻シストの8枚目はどんなもんにしようか」ということでしたね。今回は。

TAKU:20年だから、というのはなかったですね。

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BASI:さすがに、大阪・なんばHatchの3days(6月15~17日)は、20周年でなんちゃらと言ってましたけど。
作品に持ってくることはなかったですね。

TAKU:でもあるとしたら、1月にブルーノート公演をやらせていただいた時に、スーツを作って、バンドとしての成人式みたいなことを言ってたことが、自分の中で印象に残っていて。それからアルバム制作に入ったので、今後はもうちょっと大人なものをやっていこうという気持ちは、個人的にはありましたね。

――それは具体的に、どんな音にしようと?

TAKU:今までは思いつき一本勝負みたいな感じで、それこそが芸術だという風潮がありまして。でも今回初めての試みとして、レゲエの曲、ロックを感じる曲、パーティーの曲、ヒップホップを感じてもらう曲とか、それを“枝”と呼んでたんですけど。『IN-FINITY』というアルバムの幹があったとして、どういう枝(曲)が必要か?ということで考えていきましたね。
そこまで明確に考えたのは初めてで、たぶん今までは、それをやるのはダサいという思いがどこかにあったんですよ。特に若い時はバリバリにあったと思うんで。経験豊富な方が「君らにはこういう曲が合っている」と言ってくれてるのに、それをやること自体がサブいみたいな、意味不明のパンク精神が(笑)。
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――ああー。わかる。

TAKU:それは必要なことやとは思うんですけど、もうそういうことを言う年でもなければ、キャリアでもなくなってきているということが、自分たちをものすごくフランクにさせてくれてるなと感じていたので。
だったら先に枠を作って、そこに投げ込んでみようと。

――そもそも、誰が言いだしたプランですか。

TAKU:僕です。

BASI:最初はいつも通りに、インスピレーションで作り始めたんですよ。ちょうどアルバムの頭4曲がそうなんですけど、「時代」「Don't worry」「踊るtonight」「GOOD FEEL」は、事務所に行って、デモを聴いて、「このトラックにこの言葉を乗せたい」と思うものを、バババッと4曲ぐらい作ったもので。

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TAKU:ただ「GOOD FEEL」も、全然変わりましたね。
もっとソウルフルな感じで、もっとファンクっぽかったのを……。

BASI:それをレゲエにしようと。

TAKU:レゲエの枝が、まだ埋まってなかったので。

BASI:作業を中断して、TAKUがホワイトボードを持ってきて、真ん中に『IN-FINITY』の樹を描いて、枝を描いて、「ここにパーティーものがもうあるから、このままだとパーティーが2個に増えるから、だったらレゲエにしましょう」と。その時にみんなの意識が、「今回はこういう作り方なんや」って、固まったんですね。

TAKU:今までは、誰かがそういうことを言ったら、「真面目か!」っていうのが絶対あったと思う。

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BASI:もっとタチ悪いの言うたら、「よし、OK!」って言っときながら、まったく逆のことをやる(笑)。

TAKU:だから、今回言い出すのは、ちょっと勇気が要りましたよ。

BASHI:めっちゃ要ったと思う。でもそれが、一石を投じたんですね。出来上がったら、トータルで聴きやすい、バランスのいいものになったので。

TAKU:BASIさんが今回の取材でよく言ってるんですけど、「幕の内弁当を作ろう」というコンセプトに、そこから変わったので。デモの段階だと、「シャケ、多くない?」みたいな。

――それだとシャケ弁当になってしまう(笑)。

BASI:今までの作り方だと、1日5曲録ったりするんですよ。その中で3つがシャケかもしれないし、「それは今回やめよう」と。浮かんだものはいっぱいあるけど、シャケは1個でいいから、あとは肉じゃがと揚げ物にしましょうというTAKUの言葉が、ストンと来たんですよ。

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――素晴らしいプロデューサーです。

TAKU:計画して作り上げることの楽しさを憶えたのが、今回のアルバムですね。さっきも言ったように、ミュージシャンとして「真面目か!」と言われることを恐れていたところがあったんですよ。でも今は、「はい、真面目です!」みたいな感じで行ってもいいんじゃないかと。ヒップホップとか、ブラックカルチャーって、不良が絶対的有利みたいな、謎の風潮があるじゃないですか。

――ああー。ありますね。

TAKU:ミュージシャン=不良有利説というのを、僕は唱えてるんですけど(笑)。僕、不良じゃない立場として、「ええなー」と思うこともあるんですよ。でも自分が元ヤンのふりとか、やっぱり合わへんし、すぐメッキがはがれるし。そう考えたら、不良が有利なわけやなくて、「リアル有利やな」というふうに感じて、リアルを表現するから、不良が有利に感じるというだけで。

BASI:なるほどな。

TAKU:だから、元不良ぶるとか、リアルぶるものは、すぐ消えちゃうんやろうし。リアルが有利やなと考えた時に、自分のリアルは何か?といったら、「ここはAマイナーやなくて、Aマイナーセブンスのほうが歌詞に合う気がするんですよね」とか、たとえ「真面目か!」と言われても、それが自分のリアリティやなということが、やっと言えるようになったというか。
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BASI:よくぞたどり着いた哲学やな。たしかにそうかも。

TAKU:やってみないと、わからないんですよね。ヒップホップで、なぜ不良が有利に見えているのかが。

BASI:そいつの本質を、純度100%で出せばいい。

TAKU:そうなんですよね。チンくん(鎮座dopeness)とか、狂ってるぶってるわけじゃなくて、頭の中がああなってる(笑)。Rickie-Gとかもそうやけど、「それ、マジで思うてんねんな」みたいな感じというか。

――韻シストは、そっちの方向ではないけれど。

TAKU:マジで思ってることを出せば、フルスイングできるなという感覚があって。今回、自分の思うフルスイングというのは、「韻シストのパーティーを見に来てる子らにしたら、1曲レゲエ調のものがあったらいいし、ファンクにラップが乗ってるような、僕が韻シストに入る前に聴いていたような曲が欲しいし」とか、それが「Old school-lovin'」だったりするし。

――【韻シスト】インタビュー後編へ
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※応募締め切り:8月7日(火)