
「大人になんてなりたくな〜い! 僕らはトイザらスキッズ♪」こんな歌を聞いた覚えはないだろうか? 日本で人気のおもちゃ店「トイザらス」のCMソングだ。日本人にとって馴染みのあるトイザらス。その生みの親である米トイザラスが破産した、というニュースに衝撃を受けた人も多いはずだ。
日本の店舗の閉鎖や撤退も心配されたが、それは免れた。ではなぜ米トイザラスは破綻したのだろうか。日本のトイザらスは本当に大丈夫なのだろうか。ここで検証してみよう。
米トイザラス消滅の経緯
アメリカのトイザラスはどのようにの終わりを迎えたのだろうか。まずその経緯を振り返っておこう。
2017年9月に連邦破産法11条申請
アメリカのトイザラス(Toys "R" Us)経営破たんのニュースが伝えられたのは、2017年9月のこと。日本の民事再生法にあたる連邦破産法11条の適用を裁判所に申請したのだ。その負債総額は約50億ドル(約5500億円)と言われている。
米トイザラスは1948年、ワシントンにおいてチャールズ・ラザラス氏が子ども用家具店をオープンしたことがそのルーツだ。その後おもちゃなどを扱い、店名も「Toys "R" Us」と改めて事業を拡大。1980~90年代には急成長を遂げた。
2005年には投資ファンドに買収され非公開企業となり、その後は好調なように見えた。だが近年は業績不振が続き、2017年度第1四半期には約178億円の最終赤字を計上。また約440億円の債務の支払い期限を2018年に控え、2017年9月に経営破たんした。
スポンサー探すも難航、破産へ
トイザラスは連邦破産法11条の適用申請後、一部の店舗の閉鎖を進め、事業再生に向けてスポンサーを探していた。だがその年、稼ぎどきであるクリスマス商戦で大苦戦。結局どこからも支援を受けられず、事業の継続を断念。
2018年3月、残る米国内735店舗を全て閉鎖し、事業を精算すると発表した。
当時3万人以上いた従業員の生活や取引先の業績にも大きな影響を与えるなど、その余波は大きかった。
アメリカの店舗閉店、ハワイも
閉鎖店舗はアメリカ国内、つまり本土だけでなくハワイも含まれる。ハワイにはオアフ島に3店舗(パールリッジセンター、アラモアナセンター、ウインドワードモール)、マウイ島に1店舗の計4店舗のトイザラス・ベビーザラスがあったが、いずれも2018年5月14日までに閉店した。
ハワイを旅行する日本人にとっては、アメリカのおもちゃを買える場所として人気があったため、惜しむ声も多かった。
またその他の店舗についても、2018年6月29日までの閉店が決まった。
アメリカでは大規模閉店セール、本社の備品も
閉店を前に、全米のトイザラスで大規模な閉店セールが行われた。店内商品最大全品30%オフなど大掛かりに行われ、閉店の前までに棚がすっからかんの状態になった店舗も多い。
またニュージャージー州ウェインにあるトイザラス本社では、備品のパソコンから椅子、マスコットキャラクターの「ジェフリー」までもが売り出された。
そうして6月29日までに全ての店舗が閉店し、トイザラスは創業から70年の歴史に幕を下ろした。
米トイザラス破産の背景・理由
アメリカで超有名な玩具店であったトイザラスは、なぜ破産に追い込まれてしまったのだろうか。そこには複合的な要因が絡んでいるようだ。
Amazonとの戦いに敗れた
トイザラスの業績が低迷した大きな理由の一つと言われているが、インターネット通販大手アマゾンに客を奪われたというものだ。店頭から通販へと客が流れているのは日本でも同じだ。だが、トイザラスはこの対応が遅れた。
当初、トイザラスはアマゾンで唯一の玩具販売業者となる契約を結んでいた。期間は2000年から10年間。だがやがてアマゾンは別の業者も扱うようになるなどしたため、期間満了前の2004年に契約を終了した。
玩具販売のノウハウを手に入れたアマゾンは、その後も巨大化していった。一方でトイザラスも自社サイトを立ち上げたが、対策が遅れたほか、サイトがユーザーフレンドリーでないなどの理由から、客はなかなか集まらなかった。
量販店との戦いに敗れた
米トイザラスが客を奪われたのは、アマゾンにだけではなかったようだ。小売大手のウォルマートやターゲットは、店舗内で食品のほかに洋服やおもちゃも販売している。おもちゃ以外もなんでも揃うその便利さや買いやすさ、また価格面から客が流れてしまった。「わざわざトイザラスに行く」理由がなくなってしまったのだ。
またスマートフォンやタブレットのアプリでゲームをする人たちが増えたことも、逆風となった。
重くのしかかった負債
そしてもう一つ、経営の大きな足枷となったとされているのが負債だ。トイザラスは2005年、相手の資産や収益を担保にして資金調達する「レバレッジド・バイアウト(LBO)」というスキームで投資ファンドに買収された。その際に多額の負債を負うことになってしまった。
返済利子だけで、なんと年間約450億円も払っていたという。そのため必要な事業への投資が進まず、客離れが進むという悪循環に陥ってしまった。
米トイザラス破綻で日本のトイザらスはどうなる?
米トイザラス破たんのニュースに驚いた人も多いだろう。「日本からトイザらスがなくなってしまう」と心配の声もあがったが、それはなかった。
日本1号店出店からのあゆみ
米トイザラスが日本の茨城県に1号店をオープンさせたのは1991年のこと。翌年には奈良県の橿原、神奈川県の相模原と次々と店舗をオープンさせ、商品数の多さや価格で支持を広げていった。2018年現在、日本ではトイザらス、ベビーザらス合わせて約160店舗を展開している。
なお日本では「ラ」をひらがなにする「トイザらス」という名称が使われている。
親会社はアジア事業を管轄する会社
米トイザラス破たんの影響が心配されたが「日本トイザらス」は、トイザらスのアジア地域を管轄する合弁会社「トイザらス・アジア・リミテッド」の傘下にある。つまり別の法人であるためその影響を受けず、日本のトイザらスは今も通常通り営業を続けている。

日本のトイザらスへの影響は限定的
では日本のトイザらスの業績はどうなのだろうか。日本トイザらスの2018年1月決算では、売上高は約1394億円。会計処理の方法が変わったため、前期比0.7%減となっているが、事実上は増加しているという。黒字も続いており、今のところ業績に心配はなさそうだ。
日本トイザらスは何が違う? 影響は本当にゼロなのか
日本のトイザらスは米国と違って好調だ。そこには日本オリジナルの仕組みがある。
日本のトイザらスの使いやすさ
日本では店舗で商品を見て、店内の端末からオンラインで注文できる「ストア・オーダー・システム」が採用されている。また逆にオンラインで注文し、店舗やコンビニで品物を受け取ることもできる。店舗とオンラインの融合を進め、顧客の利便性をアップさせている。
また店舗内のおもちゃを実際に使って遊べるプレイテーブルを増やしたり、棚を低くして買い物をしやすくしたりするなど、店舗の改革も進めている。新規出店も発表しており、米本社とは違う道を歩んでいる。
激安ベビーカーが人気
日本のトイザらスでは、おもちゃはもちろん人気だが、実はオリジナルのベビーカーも熱い支持を受けている。ベビーカーは値段が高いものが多いが、車に積んでおいたり、旅行用にしたりする場合は、安いもので十分という意見が多い。
トイザらスのオリジナルベビーカーは2999円からと破格。そのため2台目、3台目のベビーカーとして根強い人気がある。
アジア事業の売却によって今後影響も
米トイザラスと別法人とはいえ、影響は全くないとは言えない。アジア事業は現在売却先を探している状況で、すでに複数の企業から手が上がっているという。売却額は1070億円以上になる見込みだ。
日本のトイザらスは今のところ通常通り営業されているが、今後「トイザらス」の名称が変わったり、運営方針に何かしらの変化が起きたりする可能性は十分ある。
まとめ
アメリカのおもちゃ販売で巨人とみられてきたトイザラス。時代の変化に乗り遅れ、負債に苦しみ、ついにその終わりの時を迎えてしまった。
日本でも店頭販売からネット通販への流れが止まらない。トイザラス破産から学ぶことは多そうだ。