
見慣れた街がいきなり戦場に! おっさんと女子の逃避行はどうなる!
『ブッシュウィック』は、大学院生のルーシーが家族に彼氏を紹介するためにニューヨーク州・ブッシュウィックの地下鉄の駅に到着した場面から始まる。なぜか誰もいないホームを訝しみながら地上に出ると、そこはヘリが旋回し銃弾が飛び交う戦場になっていた! 爆発に巻き込まれて彼氏は死亡。見慣れた街では真っ黒い装備を身につけた兵士が、住民を無差別に射殺している。パニックになりつつも逃げ込んだ地下室でルーシーは暴漢に襲われ、あわやというところで謎の男スチュープに助けられる。
大混乱の中でも落ち着いて行動するスチュープ。ルーシーはそんな彼に半ば無理やり同行する。道中では謎の武装集団に銃撃されつつも、ひとまずルーシーの実家へと向かうことに。一体この武装集団は何者なのか。目的はなんなのか。そして戦場と化したブッシュウィックの街で、2人は生き残ることができるのか。
「ニューヨークがいきなり戦場に!」というアイデア一発を、とにかく強烈かつ低予算に料理しようという意欲がムンムンに漂う。
トンチで言えば、スチュープ役にデイヴ・バウティスタをキャスティングした点もそうである。なんせ元プロレスラーで格闘家だから、殴り合いのシーンの身のこなしが素人とは別次元。特に人間を担ぎ上げて叩きつける時に片手を相手の足の付け根にスッと滑り込ませる動きにはシビれた。それだけではなく、ルックスも声も演技も激シブ。去年の『ブレードランナー2049』以来の「渋い方のバウティスタ」が満腹になるまで楽しめる。
謎の武装集団に襲われたブッシュウィックでは、各地で市街戦が発生する。その主力となっているのがあちこちに潜伏しているストリートギャングと、彼らが溜め込んでいる銃であるという理屈もオタク大興奮のディテールだ。完全装備で固めた謎の軍隊VS地元のチンピラの銃撃戦に巻き込まれる女子大生とゴツいおっさん……。それが撮りたかったという気持ちはよくわかる。
そこはかとなく洋ゲーっぽい、『ブッシュウィック』の長回し芸
この『ブッシュウィック』最大のポイントが、本編がわずか10カットで撮影されているという点だ。とにかく長回しなのである。地下鉄から出て逃げ回って襲われそうになってスチュープと出会うまで1カット、というくらいのスパンなので、見てるこっちはその間ずっと息継ぎのタイミングがなく、緊張しっぱなし。「見慣れた故郷がいきなり戦場に!」というストーリーを盛り上げるのには効果的だったと思う。
長回しで有名な映画はいろいろと存在するが、それらに似ている部分とは別に『ブッシュウィック』の長回しは洋ゲーっぽい感触もある。そもそも最近のFPSなどはイベントに入らない限りプレイヤーの操作が続くから、「カットを割る」という感じが薄い。
更に言えば、『ブッシュウィック』での逃避行の最中に発生する「ゴミ箱を引きずって弾除けにする」「指示に従って傷の手当てをする」みたいなイベントは、なんだかクイックタイムイベントっぽい。□ボタンを長押しするとゴミ箱を引きずるモーションに入るバウティスタの姿が、おれには見える。「『コール・オブ・デューティ』みたいな演出の映画だな……」と思って見ていたら、劇中のある場面のセリフではっきりと『コール・オブ・デューティ』が出てきたのには、ついニコニコしてしまった。やっぱり意識してたのか……。
おっさんと女子の2人組がよくわかんない敵に襲われながら逃げ回る……というストーリーで言えば、ゲーム『ラスト・オブ・アス』に近い印象である。基本的にはエンターテイメントでありながら、意外に社会性のあるメッセージをぶちこんでくるところも似ている。
(しげる)
【作品データ】
「ブッシュウィック 武装都市」公式サイト
監督 ジョナサン・ミロ カリー・マーにオン
出演 デイヴ・バウティスタ ブリタニー・スノウ ほか
8月11日より上映中
STORY
故郷であるニューヨーク・ブッシュウィックに戻ってきた大学院生のルーシー。しかし、地下鉄から地上に出たところで謎の武装集団の襲撃に遭う。戦場となったブッシュウィックで寡黙な男スチュープと出会ったルーシーは、生き延びるための逃避行を始める