第2章に突入した綾瀬はるか主演の火曜ドラマ『義母と娘のブルース』。先々週放送された第7話ではついに視聴率15.1%を記録! 朝ドラと大河ドラマを除いた今クールのドラマ視聴率では堂々第1位である。
つくづく特別編成で1週空いてしまったのが惜しいが、今夜の第8話を前に第7話をおさらいしておこう。
待ってました「義母と娘のブルース」吹き荒れるバカの麦田旋風で視聴率15%超え!今夜から最終章
イラスト/まつもとりえこ

「どうしようもないバカ店長」麦田章


夫・良一(竹野内豊)が病で亡くなるという悲劇に見舞われた元キャリアウーマンの亜希子(綾瀬はるか)だったが、9年後の第2章では良一の連れ子・みゆき(上白石萌歌)がおバカ娘に成長。そんなみゆきに働く後ろ姿を見せたいと再就職先に選んだのが、パン屋「ベーカリー麦田」だった。

しかし、ここの店長・麦田章(佐藤健)はまごうことなきバカ。TBS公式の告知文にも「どうしようもないバカ店長」と書かれていた。バカ店長……。

朝なのにパンを焼きもせず、開店準備を心配する亜希子に「そんなの余裕ッスよ!」と言い放ってシャッターを開ける「てやっ!」っという顔とポーズがすでにバカっぽい。いつも首を前に突き出し、肩をいからせ気味にして、眉間にしわを寄せ続ける。一挙手一投足がバカっぽいのだが、憎めないバカというか、子どもっぽいバカというか。「大変だろ、ここのトンチキ」とものすごく短い言葉で麦田の正体を言い表す下山(麻生祐未)の表現力が素晴らしい。

このままでは間違いなく潰れるベーカリー麦田を再建するため、「ベーカリー麦田の財務分析および売り上げ目標についてのご提案」というプレゼン資料をつくり上げる亜希子。A4用紙にデカデカと「(売上目標)5万円」やら「いつでも焼き立て作戦」と書くなど、クライアントの脳ミソに即した内容になっているあたりが優秀。ふてくされたり、言い逃れしようとする麦田に資料を読ませるため、「18ペィジ!」「20ペィジ!」「行きなさい!」と大声を出す亜希子。
子どもっぽいバカに言うことを聞かせるには強い口調が必要だということも熟知しているようだ。

百戦錬磨のキャリアウーマン・亜希子の交渉術


結果を示し、おだて、その気にさせる。バカなりにどんどんやる気になっていく麦田を見ていくのは気持ちがいい。麦田のバカっぽさをダラダラと見せられると視聴者に不快感が残るが、テンポよくバカのネガティブさをポジティブさに反転させていく脚本と演出が上手い。もちろん不快に見せない佐藤健の演技力も必要不可欠だろう。

しかし、順調に上昇していたベーカリー麦田の売り上げが徐々に下降していく。原因はリピート率の低さ。あんパンだけは抜群の美味しさだが、それ以外のパンがパッとしなかったのだ。実はあんパンは麦田が父親からレシピを教わったもの。しかし、それ以外のレシピは教わっていなかった。

「お言葉ですが、店長が輝けないのは、才能の問題でも場所の問題でもないと思います。“だからやめる”が最大の要因かと」

痛いところを突かれた麦田は、唐突に亜希子に対して「クビ」を宣告する。「クビ」だけでは陰湿に見えるが、その後も手を振り上げながら「クビ! クビ!」と繰り返すことで子どもっぽさが強調されていた。


クビを宣告された亜希子だが、いささかの動揺も見せずにベーカリー麦田を後にする。交渉に関しては百戦錬磨の亜希子は、相手を一方的に従わせたり、相手に一方的に従うばかりが交渉ではないことを知っている。なぜなら、交渉は目的ではなく、より良い結果をもたらすための「手段」だからだ。目標は「より良い結果」であり、そのためには相手と対等な立場でいなければいけない。そのためには席を蹴る強さも必要なのだ。

結局、麦田は亜希子の提言を受け入れ、パンの改良を始める。

優秀な母を持つ娘の悩み


「すごすぎて、ため息が出ちゃいます」

亜希子のパワフルさを「ブルドーザー」と表現するみゆき。早朝営業まで始めて売上目標を達成する一方、家事も完璧にこなし、「塾友と自習室に行く」と言うみゆき(と大樹/井之脇海)のためにお弁当までつくる亜希子を見て、徐々に劣等感にさいなまれるようになる。

模試の結果もかんばしくなく、落ち込むみゆきに志望校選びのアドバイスをする亜希子。しかし、亜希子の言葉を聞いて、みゆきの気持ちはますます暗くなる。

「……うん、そうだね。亜希子さんの娘なら、そうするんだろうね」
「ぇ?」
「亜希子さんに本当の娘がいたら、そういう風に学校を選ぶんだろうね」

百戦錬磨のキャリアウーマンも娘には弱い。亜希子の「ぇ?」という返事は今まで聞いたことのないような弱々しく曖昧なトーンだった。


「でもさ、こっちは勝手に思っちゃうんだよ。亜希子さんってすごいな。私、どっこも似てないな。きっと期待はずれだよね、ごめん。すんごい大事に育ててくれてるのに、バカでごめん。たった一人の娘が私みたいなので本当ごめん、って」

亜希子はみゆきに返す言葉もない。みゆきに声をかけるのは大輝だ。

「亜希子さんはそういうこと(勉強)じゃなくて、みゆきの生まれ持ったいいところを大事にしてほしい、って思ってるんじゃないかな? パパみたいに優しかったり、人を和ませる力があったりさ」

亜希子と同じように壁に頭をぶつけるみゆきを羽交い締めにする大輝。中身はさておき、2人の姿は亜希子と良一を見ているよう。ちなみにツイッターなどで「高校生のみゆきが嫌い」「小学生のみゆき帰ってきて」という視聴者の声をちらほら見かけるが、「けなげで賢い良い子」しか好きになれない人たちっているんだなぁ、と思う。高校生のみゆきだってけなげで優しい良い子だよ(賢くはないけど)。

隅っこまでアンコのつまったドラマ


子どもが親の愛情と期待に押しつぶされてしまう構図は、血がつながっているか、つながっていないかとは関係なく、普遍的に見られるものだ。
実際、麦田がそうだった。優れたパン職人の父を持ちながら、息子の自分はバカでトンチキ。麦田はそのプレッシャーでグレたようなものだった。

「血つながってるのに似てないって、逃げ場ないわけですよ。良かったッスよ、血つながってなくて、宮本さん。これ、つながってたらグレててもおかしくないッスよ」

麦田の言葉に亜希子は涙を流す。義母と娘の関係は非常にデリケートなものだ。周囲だって気を遣っただろうし、誰よりも亜希子が数倍、数十倍気を遣ってきたはず。しかし、目の前にいる麦田は乱雑な言葉で「親子なんてすべて同じ」と言っているのだ。

家族や親子に関して、血がつながっているから万事OKというわけではないということは、さまざまなドラマや映画で描かれてきた。だが、血がつながっていないほうがむしろ上手くいくなんてこともない。血がつながっていようがいまいが、家族や親子がうまくやっていくにはたくさんの愛情や理解や行動が必要になる。


「血がつながらないことを理由にしてはいけませんね」

と言うときの綾瀬はるかの表情がすさまじく良い。これを見て、麦田はドキッとする。この後に出てくる「うなじ」のくだりは付け足しに過ぎない(麦田はバカなので「うなじ」という記号的なものを見て初めて自分の気持ちに気づいたということなのだろう。これが胸だと露骨すぎる)。

麦田と亜希子が話しているところへやってくるみゆきと大輝。無意味にエラそうにしている麦田を引き離す大輝が素晴らしい。土下座をしあうところは(予想はついていたけど)ああ、親子だなぁ、って感じ。ここからドラマは亜希子、みゆき、麦田、大輝の4人の物語になる。「避妊」と「避難」の聞き間違い、「愛死照流」のパンなど最後までネタを入れ続けて視聴者をくすぐり続けるところも憎い。つくづく隅っこまでアンコが詰まったドラマだと思う。

本日放送の第8話からは「最終章」。えー、早いよ! と思わせるドラマは良いドラマ。
今夜10時から。
(大山くまお)

【作品データ】
『義母と娘のブルース』
原作:桜沢鈴『義母と娘のブルース』
脚本:森下佳子
音楽:高見優、信澤宣明
演出:平川雄一朗、中前勇児
プロデュース:飯田和孝、中井芳彦、大形美佑葵
※各話、放送後にTVerにて配信
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