「私は良一さんがとても好きでした。パパは陽だまりのような人でしたね。
あたたかくて、そばにいると時間がゆっくりと流れていくような……」

泣いた、泣いた。日本中が涙に包まれたと言っても過言ではない綾瀬はるか主演『義母と娘のブルース』第6話は、最終回と第1話がニコイチになったようなお話だった。視聴率はこれまで最高の13.9%。さっそく振り返ってみよう。
「義母と娘のブルース」ええっいきなりお通夜とか!泣いた、泣かされた、義母も娘も凄すぎ奇跡の6話
イラスト/まつもとりえこ

いきなり竹野内豊、死す!


ドラマ冒頭、小学校にいるみゆき(横溝菜帆)のもとに急な知らせが入る。そのわずか2カット後、部屋に横たえられた父・良一(竹野内豊)の姿が……! 枕元にはロウソクと線香。つまり、亡くなったってこと……? 喪服に身を包んだ亜希子(綾瀬はるか)も呆然とするしかない。そして、ドラマ開始わずか2分半でお葬式が始まってしまった……。前回、奇跡が起こりそうな終わり方だったのに!

ツイッターのタイムラインにも「お父さん本当に死んじゃったの?」「ちょっと待って、頭がついていなかいんですけど……」という戸惑いの声が多数見られたが、この急展開は原作どおり。原作では良一が「本当の家族になろう!」と宣言して亜希子とキスを交わし、写真館で結婚写真を撮ろうと提案した次のコマで亡くなっていた。読んでいて、思わず「えーっ!」と声が漏れたものだよ……。

涙を見せることなく、通夜の準備をテキパキと進めていく亜希子。世話焼きで人情家の下山(麻生祐未)は悲嘆に暮れるが、みゆきも涙を見せずに「大丈夫、慣れてるから」と一言。
みゆきは母も病気で亡くしていた。だから「慣れてる」のだ。一方、喪主としてつつがなく通夜を進め、一段落しても線香の番をしなければいけないと言う亜希子に、ついに下山の怒りが爆発する。

「バカなのかい、あんた! バカなのかい、キャリアウーマンってのは! あんたの役目はそんなことじゃないだろう!」
「そんなことではない……とは?」
「悲しむことだよ! みゆきちゃんと一緒に!」

それでも葬儀の進行を心配する亜希子に、下山は諭すように言う。

「みゆきちゃんの母親はあんたしかいないんだよ」

これらの下山のセリフはドラマオリジナルのもの。心を殺して葬儀に臨んでいた亜希子に感情の解放と母親の自覚を促すとともに、視聴者にもわかりやすく大声でドラマのポイントをマーキングする機能的で優れたセリフだった。さすが森下佳子。

「みやもっちゃん、起きろ!」で涙腺決壊


みゆきは一人で食器の後片付けをしていた。「しっかりしなきゃ」と言うみゆきは、亜希子がいなくなるものと思っていた。原作には「これからひとりで生きていかなきゃ」というセリフがある。小学生にはつらすぎるセリフだ。

亜希子はみゆきの姿を自分の過去と重ねる。亜希子も両親を亡くし、「しっかりしなきゃ」と思いながら生きてきた。
しかし、結果として人のぬくもりを知らないまま30歳を過ぎてしまった。だから、陽だまりのようなぬくもりを感じさせる良一と一緒になったのだ。

みゆきを後ろから抱き、言葉をかける亜希子。自分にもこれからどうすればいいかわからない。だから一緒にプランを打ち合わせしてくれないか……? 義母の不器用ながらも心のこもった言葉を聞き、みゆきは涙を流しながら亜希子を見る。

「おかあさん……!」

原作では全編を通して、この葬儀のシーンがクライマックスの一つになっている。前回のレビューで書いたとおり、亜希子と良一は第5話で「夫婦」になったが、亜希子とみゆきは仲良くなったものの、本当の意味での「親子」になっていなかった。2人が親子の絆を結ぶのが、良一の葬儀だったというわけだ。それにしても、子役の横溝菜帆の泣きの演技がすごかった。本当に大女優になりそうだ。

その後、感情の堰が切れた亜希子は涙が止まらなくなる。ちょっと落ち着いたと思ったら、葬儀の出棺で良一の上司・笠原(浅野和之)が笑顔で「おい、みやもっちゃん、起きろ! 会社行くぞー!」と語りかけるのを聞いてまた大号泣。
涙腺決壊とはこのことだ。笠原のセリフで泣いたという視聴者も多かったと思うが、綾瀬はるかのすさまじい泣きの演技にもらい泣きした人も少なくなかっただろう。

第1話ではみゆきのお迎えをわざと遅らせたことで、視聴者から「最低!」「糞すぎ」などと罵詈雑言を浴びた良一だったが、エピソードを重ねるにつれ、肩の力の抜けた竹野内豊の好演もあいまって視聴者から非常に愛されるキャラクターとなった。出演はたった5話だが、「良一ロス」という言葉もさえ見かけたほどだ。

良一は人の善意を根本から信頼する性善説の塊のような男だった。赤の他人である亜希子にみゆきの今後を託したものも、亜希子の善意を信じていたからに他ならない。みゆきと目線を合わせるように、前屈みで笑顔を見せている遺影も印象的だった。

葬儀を終えて、日常生活に戻る亜希子とみゆき。思わず3人分の朝食を用意してしまう亜希子には、いつの間にか普通の人の表情が戻っていた。「そ、そうですか?」「あんなに泣いたからですかね?」と声のトーンはこれまでと一緒なのに、目や口元が明らかに違う。綾瀬はるかの精緻な演技力に感嘆するしかない。

アクセル全開で泣かせに走った第6話だが、それでもドラマは湿っぽくなりすぎず、生活費の心配をするみゆきに貯金通帳を見せて「趣味なし男なし休みなしのキャリアウーマンの貯金を舐めないでください」とギャグを入れるあたりもぬかりない。


そして9年の時間が流れ、高校3年生のみゆき(上白石萌歌)が登場! カバンを遠くからみゆきの自転車のカゴに投げ入れる綾瀬はるかはジャッキー・チェンの後継者か。ここまで約25分、一度もCMを入れなかったTBSの本気も十分に感じる。乗っているドラマはこういうことができるんだよなぁ。

おバカに成長した高3のみゆきと完全にバカの麦田登場!


高校3年生になったみゆきは、見事なおバカに育っていた。あのしっかり者だったみゆきがなぜ……!? やはりボンヤリした良一の血を強く受け継いでいるということなのだろうか? 原作では九九さえ間違え、亜希子が「こればっかりはどうにもできなかったわね…」と嘆くシーンがある。ちょっと甘やかしすぎたんじゃないの? 亜希子さん。

そんなみゆきを陰から見守る男がいた。良一の葬儀の直後、転校してしまった大樹(井之脇海)だ。小学生の頃、「二度と話しかけないで!」とみゆきにキレられた大樹だが、それ以降、本当に話しかけていなかったということになる。もちろん、みゆきは大樹のことに気づいていない。みゆきを守ろうと痴漢の手を掴んでいた大樹を見て、「尊いものを見た!」と喜ぶみゆきよ……。

大学受験を控えて、テストの点数も悪く、将来の見通しも何も持たず、ボンヤリとしたことしか言わないみゆきを見て、温かく見守ってきた亜希子にも危機感が芽生える。
働くこと、仕事の尊さをみゆきに教えるにはどうすればいいか? 偶然買ったアンパンをムシャムシャ食べながら、亜希子の脳裏にビジョンが見えはじめる。そうだ、自分の経営手腕で潰れかかっているこのパン屋を立て直してみせよう! パン屋の主は元ヤンキーで職を転々としていた麦田章(佐藤健)……! 一方、みゆきの前に大樹も名乗り出た。

というわけで、パン屋・麦田ベーカリーを舞台に、亜希子、みゆき、麦田、大樹の4人の物語が展開する『義母と娘のブルース』第2章。今度はどんなドラマが待ち構えているのだろうか? 今夜第7話は夜10時から。
(大山くまお)

【作品データ】
『義母と娘のブルース』
原作:桜沢鈴『義母と娘のブルース』
脚本:森下佳子
音楽:高見優、信澤宣明
演出:平川雄一朗、中前勇児
プロデュース:飯田和孝、中井芳彦、大形美佑葵
※各話、放送後にTVerにて配信
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