アニメ『BANANA FISH』(→公式サイト)。
「第10話 バビロンに帰る」が今日9月6日(木)25:05より、フジテレビ”ノイタミナ”ほかで放送。
Amazon Prime Videoで毎話フジテレビ放送開始1時間後より配信予定。
今回はアッシュが拷問されていた部屋が原作より凝った構造になっており、ディノや議員や軍人らが桟敷席から見物できるように。悪趣味度大幅アップ(原作では隠しカメラで見ているだけだった)。

部屋の扉には、天使のオブジェが飾られていた。
薬物バナナフィッシュによって正気を失い、エイジを襲っていたショーターは、それを見て目に光が戻る。
この流れは原作にはない。放映された時、原作既読ファンは「そうきたか!」とびっくり。
ツイートは伸びに伸び、放映後トレンド上位に「ショーター」「ANGELEYES」の文字が並んだ。
「バナナフィッシュ」翡翠の瞳に絶望を映して、少年は親友に銃口を向けた9話
吉田秋生「BANANA FISH」9巻表紙。9話が放映されたあとファンは阿鼻叫喚。Twitterのトレンド上位に「ショーター」が入り続けた

ショーターを救った天使


「ANGEL EYES」は、「バナナフィッシュ」のアナザーストーリー。少年刑務所時代のアッシュとショーターの出会いを描いた作品だ(読む場合は小学館文庫「Banana fish another story」が一番入手しやすい)。
作中でショーターが、姉がくれたクリスマスカードに描かれていた天使の姿に、アッシュが似ていると言って仲を深めるシーンがある。

薬の力に振り回されていたショーターは、アッシュの叫び声を聞き、天使のオブジェを見て、正気を取り戻したという演出。
たった一瞬だけれども、刑務所時代からショーターがずっと、アッシュを大切に思い続けてきたのがわかる、インパクトのあるカットになった。

もっとも隠し味的なシーンなので、原作未読者でも特に気にしないで見られるさり気なさも、演出としてうまい。

「人の心をあやつろうとするな!」


「ANGEL EYES」序盤。ショーターは飄々とした、それでいて仁義を貫く、男前な性格。
一方アッシュは、一切笑わず冷酷な目をした、感情を無くしたような少年だった。
同室になったショーターはアッシュに興味を持ち始める。なかばおせっかい混じりで、危ういアッシュを見守る。

今でも人を信じずすぐに牙をむく山猫のようなアッシュだが、この頃は誰一人信じていなかったので(男娼をしており、児童ポルノ映像を撮られていたのだから、そりゃそうだ)非常にピリピリしている。

アッシュが心を揺さぶられたのは、自分のことを真剣に考えて、ショーターが叱ってくれた時だった。
同じ刑務所の人間を娼婦のようにたぶらかしていたアッシュを、ショーターは叱責する。
「人の気持をもてあそぶな!! 人の心をあやつろうとするな! そんなことをすれば─おまえは本当の悪魔になってしまう!!」
アッシュはこれを聞いて涙を流す。
心に蓋をしていた彼が、自分の素直な感情を出し始めたのはここからだ。

殴るなとか暴れるなではなく、心をあやつろうとするな、相手の尊厳を弄ぶな、というのがショーターの信念。
これは本編でも同じだ。
だから月龍の人を騙す立ち回り方に、彼は真剣な怒りを見せた。
心を守ることを重視した彼が、薬物バナナフィッシュの「心をあやつる」効能に真っ先にやられるというのは、残酷な話。

もっとも、ショーターやエイジの生死は、ディノやオーサーにしてみたら割とどうでもいいもの。
すべては「アッシュを苦しませる」ためのやり口だ。

なお「ANGEL EYES」は特典としてCDドラマ化されるそうだ。このタイミングで出してくるとは。まるでショーターの鎮魂歌。買います。
「バナナフィッシュ」翡翠の瞳に絶望を映して、少年は親友に銃口を向けた9話
「BANANA FISH」BD BOX1。特典に「AENGEL EYES」のドラマCD付き。2クールのこの作品は、6話入りBOXが4つ出る形式になっています

被虐の美


9話は少年たちに救いがなさすぎて(というか真に救いがないのは次の回あたりだと思う!)しんどい展開続き。
と同時に、少年たちの「被虐の美」が極まるのがこのあたりだ。

スーツに身を包んだアッシュは、身体的な乱暴を繰り返された。両手縛りで吊るした拷問的姿、嗜虐心をそそる絵面。

身体的な痛みより、ショーターが壊されていくのを見る、精神的苦痛の方が、彼を激しく傷つけていく。
エイブラハムに「もし生き残っても一生悪夢に悩まされ続けるんだ。お前の兄のように」と言われた時のアッシュの愕然とした顔は、今までに人に見せなかったものだ。
ショーターに銃を撃つ瞬間入る、アッシュの絶望の瞳。
原作にはない演出。悲壮感がグッと強くなった。

スーツ姿でディナーにきたアッシュを見てディノは「美しい…」と感嘆していた。「実に美しい。生まれながらの貴族のようだ」
この状況でわざわざスーツ姿にしてアッシュを迎え入れるディノ、お人形さん的フェチズムが大炸裂。
彼が性的にも精神的にも虐げ続けた少年。アッシュに異様に執着するディノの心理は、この作品の描く「少年性」を象徴する思想のひとつの形だ。

非常に複雑でねじくれた心理だが、共感できる人は多かったようで、連載当時ディノは人気キャラだったそうだ。

ところで、ディノが月龍とエイジをひんむいてベッドに招いた時は、未遂だった様子。
まあ彼の趣味だとは思うけれども、ここでエイジが性的暴行をくわえられていたら…。
アッシュへの精神攻撃が徹底しすぎていて、感心してしまう。アッシュの希望への道、全部塞ぐ気満々です。

(たまごまご)
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