
バツイチ子持ちのおっさんが縮む! 異色のヒーロー、アントマン
アントマンはちょっと変わったヒーローである。その能力は「特殊なスーツの力によって、自身の体をめちゃくちゃ小さくしたり、すごく大きくしたりできる」というものだ。例えば敵の銃弾が当たりそうになった瞬間に体を小さくしてかわしたり、羽アリに乗って空を飛んだり、機械装置の隙間に潜り込んで中から壊したり……と、この能力は使い道次第でいくらでも応用が効く。蟻のようにちっちゃくなるからアントマン。そのまんまといえばそのまんまなネーミングである。
現在マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)作品に登場するアントマン、本名スコット・ラングは2代目。初代はハンク・ピムという天才科学者で、この人が作ったのが着用者の体の大きさを自在に拡大縮小できるアントマンスーツ。時代は冷戦下、初代アントマンことピム博士は妻のジャネットと共に特殊工作を行っていたが、任務中のトラブルから妻が行方不明(装置の暴走で無限に小さくなってしまい、量子レベルの大きさになってしまった)になってしまい、娘ホープとはそれ以来不仲に……。
時が経って現れたのがスコットだ。彼は元泥棒かつ元エンジニアという変わった経歴の持ち主。結婚を機に裏稼業からは足を洗ったが、勤務先の不正が許せず会社から金を強奪、被害にあった顧客に返金し逮捕されてしまう。3年の服役を経て出所したものの世間の風は元受刑者には冷たく、結局泥棒稼業に逆戻り。
しかし、それはピム博士の狙い通りだった。かつての弟子であるダレン・クロスが人体縮小技術を悪用しようとしていることを知ったピムは、老いた自分に代わってダレンの野望を打ち砕く人物を探していたのである。ピムの頼みを渋々聞き入れたスコットはアントマンとなり、ダレンと戦うことに……というのが第一作『アントマン』のストーリー。犯罪コメディ的要素と「人がめちゃくちゃ小さくなると、風呂とか子供部屋とかがとんでもない危険だらけの空間になる」というアイデアが絶妙に噛み合った傑作である。
しかしその後、アントマンことスコットは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でキャプテン・アメリカ側に参加、巨大化して大暴れし(元々スコットはキャップのファンだった)、その後当局に身柄を拘束されている。『アントマン&ワスプ』は、結局その後どうなっちゃったの……というところからスタートする作品だ。
今度の敵は姿を消す女戦士! 三つ巴の量子研究所争奪戦
前作のラストでホープに改良型のアントマンスーツを渡し、新ヒーロー"ワスプ"として活動することを承認したピム博士。このスーツと「通った物が量子レベルに小さくなるトンネル」を使って、いよいよジェニファーを探しに行くつもりだ。ジェニファーの居所はつかめず、最後の一手が欠けていた。
一方、スコットは娘のキャシーとめちゃくちゃ遊んでいた。なんせ『シビル・ウォー』の一件以来自宅謹慎を命じられているので、やることがないのである。かつての泥棒のスキルを活かしてルイスら犯罪者仲間と警備会社を立ち上げ、一応カタギの仕事を始めてもいる。しかし、アントマンスーツを着用してのヒーロー活動は自粛中。しかもスーツを勝手に使ったということでピム親子とは疎遠になっていた。
そんなスコットは、ある日奇妙な白昼夢を見る。その夢にジャネットのメッセージが込められていることに気づいたスコットはピムに連絡をとり、久しぶりに会うことに。険悪な空気ながら、妻であり母であるジャネットを救出できるかもしれないことを喜ぶピム親子。しかし、装置を作るための部品が欠けていたため、やむなくブラックマーケットのディーラーであるバーチから部品を入手することに。
バーチはバーチで、ピムの量子研究所の技術を強奪することを目論んでいたことから、取引は難航。さらにそこに、体を自在に消してどんなものでもすり抜ける白づくめのスーツを着た女"ゴースト"が現れる。
「量子研究所を取り合う」と書いたが、これは文字通り、物理的に取り合う。というのも、ピムは自身の技術を使って研究所を小型のトランク程度の大きさに縮めて持ち歩いているので、悪い奴が本当に「研究所を渡せ!」と迫ってくるのである。このギミックからもわかるように、『アントマン&ワスプ』では「物が大きくなる/小さくなる」という単純な現象がアクションと噛み合っている。「羽虫のような大きさになって敵の乗っている車に入っていき、車内で人間大になって殴り合い、また素早く小さくなって敵に同士討ちさせる」というような、トリッキーなアクションは大きな見所だ。
また、新ヒーローのワスプは「物のサイズを自在に変更できる光線」を発射できる上に自分の羽根で飛べるようになっており、これによってアクションのバリエーションが増えたのも楽しい。予告にもあった「放り投げたキティちゃんのペッツディスペンサーを巨大化して敵のバイクにぶつける」みたいな攻撃は序の口。拡大縮小を用いたトンチの効いたアクションをこれでもかとぶつけてくる。お腹いっぱいである。
横綱相撲のホームコメディなので、誰が見ても大丈夫です
主人公スコットは、よ〜〜く考えるとけっこうハタ迷惑なおっさんだ。
このスコットの存在感からわかる通り、『アントマン』シリーズはなんともホンワカした作品である。マイケル・ペーニャ演じるルイスのほとんどコントのような喋りや、絶対的な悪人が登場しない点、殺伐とした要素のなさなど、ファミリームービーとして満点の出来。もうなんというか、登場人物が全員キュートなのだ。マイケル・ダグラスでさえキュートである。例外はない。
1本の映画として見ればほぼ満点のファミリームービーなのだが、『アントマン&ワスプ』はMCUという巨大なシリーズのうちの一本だ。そう思って見ると、正直ちょっと解せない部分もある。特に「親と子」を巡るストーリーは『アイアンマン2』以来シリーズ中でかなりの回数反復されているテーマでもあり、「またかよ〜」という気持ちにもなった(アメコミの悪役は新しく登場させようと思うと出自に関してそこそこ長い説明が必要な奴が多いため、2時間の映画にまとめようと思うとそういう話が増えるのはわかる)。正直、脚本に粗もある。
MCU作品は一本ごとにスーパーヒーロー映画と別ジャンルの要素を掛け合わせてくることが多い。それで言えば『アントマン&ワスプ』は「スーパーヒーロー映画×ホームコメディ」という組み合わせだったし、要素同士の噛み合わせの見事さで言えば、横綱相撲のような安定感である。前作『アントマン』とあわせて、家族みんなで見てほしい作品だ。
(しげる)
【作品データ】
「アントマン&ワスプ」公式サイト
監督 ペイトン・リード
出演 ポール・ラッド エヴァンジェリン・リリー マイケル・ダグラス マイケル・ペーニャ ハンナ・ジョン・カメン ほか
8月31日より全国順次ロードショー
STORY
ドイツでの戦いで自宅に軟禁されているアントマンことスコット・ラング。一方、ハンク・ピムとホープの親子は行方不明となった母親をなんとか探し出そうとしていた。しかし、ピムの量子研究所の技術を狙うヴィラン"ゴースト"と、ブラックマーケットの武器商人が彼らに襲いかかる