第25週「君といたい!」第146回 9月18日(火)放送より
脚本:北川悦吏子 演出:宇佐川隆史 田中健二

半分、青い。 メモリアルブック
146話はこんな話
2010年11月、鈴愛(永野芽郁)と律(佐藤健)のそよ風の扇風機は試作品第三号の段階にまで進んだ。
正人(中村倫也)は鈴愛に「おれとやり直す気はない?」と聞く。
試作品第三号
鈴愛と律は、正人と津曲(有田哲平)と恵子(小西真奈美)を前に、試作品第三号をお披露目。
こういう専門的な話を知識レベルが様々な不特定多数の視聴者に聞かせることはとても難しく、演出の工夫のしどころになる。こういう場面の見せ方がうまいのは堤幸彦監督。わざと言葉を間違えたり、あえて登場人物を眠らせてしまったり、アクセントを挿入しながら進める。説明をちゃんと聞けば情報として得るものがありながら、説明に興味のない者には別の物語を提供する工夫が大事だ。
結局、津曲と恵子は、なんかそよ風じゃないと感じてしまう。まだまだ扇風機の完成には程遠い。
でも律たちの姿を見て津曲は自分も商品開発したい気持ちになっていた。
そんな矢先、息子の修次郎(荒木飛羽)がオフィスに訪ねて来て、津曲はつい、律の語った開発話をさも自分の発明のように語ってしまう。
その様子を鈴愛に見られてしまい・・・。
鈴愛と律ーーとくに律が、親でありながら親らしさがあまり描かれていない分、津曲が一般的にわかりやすい親心(子どもにはいい顔を見せたいとか)を演じていて、ホッとする。
「仕返しだ あのときの」
鈴愛と律は諦めることなく研究開発を続ける。
佐藤健は頭のいい人の役が似合う。眼球が大きく、その動きはまるで脳みその生き生きした動きに直結しているように見える。
することなくカフェでご飯を食べる正人と鈴愛。
銀行への融資の依頼は鈴愛の仕事。鈴愛もそういう事務的なことができるようになったらしい。
忙しいからか、カンちゃん(山崎莉里那)の面倒は三叔母たちに見てもらうことが多いようで「カンちゃんとられてまいそうで不安や・・・」と鈴愛は心配顔。
それを聞いて「カンちゃんお母さんのこと大好きだ」と正人は励ます。
ふいに正人は「涼ちゃんさんにはもう気持ちないの?」「だったらおれとやり直す気ない?」と言い出す。
だが鈴愛は「悪い男だねえ 相変わらず」と冷静に返し、「鈴愛ちゃん大人になったね 大人の女の発言だ」と正人は感心する。
東京に出てきたばかりの初心な頃、正人との恋に空回りして傷ついた鈴愛だったが、男の身勝手に、一呼吸おいて対処する耐性がついた。
「危うい空気がくる感じとか楽しみたい感じもわかる」「もう40だからね 賢くもなるよ」とまで。
伊達にしばらく漫画を描いてきたわけではない。恋の駆け引きなども漫画を描きながら学んだのだろう。
「仕返しだ あのときの」と正人をこっぴどく振って見せる。
朝ドラだし、ほのぼのと可愛らしく描いてあるが、ひどい目に合った男にはいつか見返したい女ごころ。
時代や男に負けない女は朝ドラの見どころのひとつ。意外なところで朝ドラっぽさを出して来た。
この大人の女の機微は山口智子あたりで見たかったかも。
「振られるのがこわいから」
正人がいつだって本気じゃないこともわかっているし、もっとわかっているのは、鈴愛にとって誰が一番大切か。どんなに年をとって、いろんなことを知って、汚れちまっても、そんな変わった自分より、その人の前では変わらないでいられる相手が鈴愛には大切。
正人「なんでそんな恋になるのを遠ざけるの」
鈴愛「振られるのがこわいから」
傍若無人でがさつな鈴愛だが、幼い頃、母を思って泣かずに我慢したり、悲しみをこらえてゾートロープを作ったりするような、繊細で純粋な心がいつまでもある。律といるときだけそういうきれいなままの自分でいられるのだろう。彼が結婚したときの壊れっぷりは相当のものだった(漫画が描けなくなるくらい)から、あんなことがまた起こるくらいならいまのままでいいという震える心が痛ましい。
宝ものの引き出しには、鈴愛のそういうきれいなところだけ仕舞われている。
「気分落ちたとき 幸せな気分になる」
前にも書いたが、このドラマにはどうしてもアンデルセンの「沼の王の娘」を思い出してしまうのだ。呪いによって昼間はきれいだけど残忍なお姫様、夜はこころの優しいカエルになってしまうお姫様のお話。
ふたつがうまく溶け合えばいいのに、分かれてしまっているから苦しい。どっちの面が好きとか嫌いとかいう問題ではなく、このうまく溶け合ってない不安定さ、自分でコントロールできない様が見ていて苦しいのだ。
これまたアンデルセンの「えんどう豆の上に寝たお姫さま」を例にすると、布団を何枚も敷いた下にえんどう豆があることに気づく人と気づかない人の違いとでも言おうか。
この違和感に耐えることが生きるということなのか。生きるとはなんて辛いんだ! 修行か!
ともあれ、カンちゃんの猫の服がかわいい。鈴愛は着たきり雀なのに。子どもにはかわいい服を着せてあげようという親心か。三叔母が着せてくれているのか。
(木俣冬)