あのイコライザーが、ロバート・マッコールさんが帰ってきた! 演技力が高すぎて出てくるだけで若干面白くなってしまっているデンゼル・ワシントンを再度迎えた『イコライザー2』は、内省アクションでありつつ監督の信仰告白でもあるという、一筋縄でいかない内容でありました。
「イコライザー2」に込められた「デンゼルは神」。これはフークアの信仰告白か

この世の悪を勝手に成敗! ボストンの必殺仕事人"イコライザー"とは


『イコライザー』は元々、1985年から1989年にかけて製作され、日本では『ザ・シークレット・ハンター(原題は『Equalizer』)』として放送されていたテレビドラマの映画版である。前作が作られたのは2014年。
主役のロバート・マッコールを演じたのはデンゼル・ワシントンだ。このデンゼル、演技力は最高なのだが特に動ける俳優というわけではない。しかも撮影当時は還暦になるかならないかという歳である。しかし『イコライザー』では「怖い顔のデンゼルが職場のホームセンターで金槌を手に取る→しばらく経ってからスッキリした感じのデンゼルが金槌についたなんらかの汚れを拭き取り、売り場に戻す」みたいな方法でデンゼルの戦いを表現していた。演技力の化身デンゼルは「アクションそれ自体を描かずにアクションを表現する」という境地に到達したのである。

前作『イコライザー』は、アクション映画としてはかなり異色の作品だ。主人公マッコールさんは世話好きで人懐っこいホームセンターの店員で、妻とは死別している。彼は毎晩決まったダイナーで本を読み、そこで知り合った年若いコールガールが暴行を受けたことで売春の元締めのロシアン・マフィアを皆殺しにする。マッコールさんは元CIAのベテラン工作員だったのだ! 報復に動き出すロシアンマフィアたちと、それを情け容赦なく殺戮する人間ファイナル・デスティネーションと化したマッコールさん。

このバトルを描いたのが前作『イコライザー』なのだが、この映画はとにかくテンションの上下動が激しいというか、終始ノリがちょっと変である。人懐っこい笑顔を浮かべているのに、その直後完全に「無」の表情になるデンゼル。やたら不穏で立ち上がりに時間がかかる映画の前半。
かと思うとタンカーが大爆発し、クライマックスでは降りしきるスプリンクラーの水を浴びながらデンゼルが工具で人間を殺しまくる……。ちゃんと真面目に作られた映画だし、マッコールさんが読んでいる『老人と海』を絡めた読み解きもできるにはできるのだが、それと同じくらいデンゼル・アクションのインパクトや工具で死ぬロシアン・マフィアの印象が強い。この破天荒さとデンゼルの強すぎる存在感が一部で絶大な支持を受けたのである。

前作『イコライザー』のラストでマッコールさんは「今後は人助けのために自分のスキルを使っていこう」と腹をくくり、晴れてイコライザー(均一化・平等化する者、不公平を正す者)が誕生した。『イコライザー2』はその後の物語である。『2』は完全に無印『イコライザー』を見ている前提で話が進むので、是非とも前作を見てから映画館に行ってほしい。

よりウェットかつ内省的になった『イコライザー2』


さて、『2』である。現在もボストンに住んでいるマッコールさんは以前の職場だったホームセンターをやめたらしく、「リフト」というUberみたいな配車サービスで働いている。そんな生活の一方で、マッコールさんは周囲の困っている人々をその実力でもって助けて回る活動も密かに続けている。しかし、遠く離れたブリュッセルで発生したある事件が、マッコールさんの生活にも大きな影響を及ぼすことになる。

マッコールさんは前作以来「これからは人助けでやっていこう」と気持ちが固まっている。その結果、自分のタクシーに偶然乗せられたデートレイプの被害者から自宅アパートの花壇にされたいたずら、ギャングの世界に引き摺り込まれそうになっている同じアパートに住む画家志望の青年まで、とにかく「目に入る範囲のこの世の不公平ほぼ全部にグイグイ介入するおっさん」に超進化。しかし前作でも印象的だったストップウォッチ起動シーンや読書(今回読んでいるのは『失われた時を求めて』である)はそのまま継承。
マッコールさんの日常パートにボリュームが割かれるため立ち上がりに時間がかかる構成も前作同様だ。

前述のように今回のマッコールさんは最初からイコライザーである。その立場で近隣トラブルを暴力的に解決しまくるため、なんだかオープンワールドゲームの主人公っぽく見えてくる。「近所のおばさん」とか「画家志望のマイルズ」みたいなNPCに話しかけると「花壇にいたずらされて困ってるのよ」みたいなセリフが挟まって、そのままサイドクエストが発生する……そんな感じに見えるのだ。加えて今回は、ロシアン・マフィア誅殺祭りだった前作に比べるとストーリーの内容が内省的かつウェット。マッコールさんの過去の掘り下げが重要なポイントとなっている。前作の面白暴力コレクション的な雰囲気は鳴りを潜めており、シリーズ第二作でありながら別ジャンルの映画と言いたいくらいである。

結論は、「デンゼルは神」です!


しかしそれにしても、やはりデンゼルの佇まいは凄まじい。単にパソコンで調べ物をしているだけなのに「この人は今めちゃくちゃ怒っている」というのが伝わってくるし、戦う前に状況を確認するときの完全に表情が消えたマッコールさんは超怖い。

さらに言えば、『イコライザー2』のマッコールさんは普通の人間の領分を完全に超えている。なんせ最初からイコライザーとして腹をくくっているので、悪人を前にして「今ここでシバかれる痛みか改心する心の痛みか、好きな方を選べ」と真顔で言い放ち、場合によっては「いつもは選択肢を示すが、今日はなしだ」と問答無用でボコボコにする。しかも往往にして相手をそのまま殺してしまう。
ボコるか殺すか、それとも別の選択肢を与えるか、全てを自分の胸先三寸で決定してしまい、相手には自由を与えない。しかも他人の生殺与奪を完全に握って全く動じないのである。おれだったら「相手を生かしても殺してもいい」っていう状況には、やっぱりビビると思う。

つまり『イコライザー』シリーズのデンゼルは、劇中に登場する人間たち全員から完全に飛び抜けた存在であり、ほとんど神のごとき万能の男である。周囲の人間を生かすも殺すも自由自在、負傷することもあるけど基本的に行動不能になったりはしない。しかも根本が世話好きのおじさんだから、他人の生活にグイグイ介入する。ほぼ神のごとき全能の存在が他人の生活に介入してくるのだ。怖い。

重要なのは、監督のアントワーン・フークアが世界有数のデンゼル大好き人間であるということだ。2001年の『トレーニング・デイ』以来何度もデンゼルを起用してきたフークア。特に『マグニフィセント・セブン』の時のほとんど夢女子のようなデンゼル起用プロセスはネットでも話題になった。そんな人間が撮ったデンゼル主演アクションの続編で、神のごとき扱いを受けている……。
つまり『イコライザー2』は、フークアが「やはりデンゼルは神」と言い切ってしまった映画なのだ。世界中に向かって自らの信仰を告白した男、それがフークアなのである。

もう監督にここまで過激な信仰告白をカマされると、こちらとしては「そうか! 末長くお幸せに!」としか言いようがない。最強かつ孤独な男の内省の旅を描いた作品であるとともに、世界有数の面白いノロケ。それが『イコライザー2』なのである。
(しげる)

【作品データ】
「イコライザー2」公式サイト
監督 アントワーン・フークア
出演 デンゼル・ワシントン メリッサ・レオ ペドロ・パスカル アシュトン・サンダース ビル・プルマン ほか
9月5日より全国ロードショー

STORY
ボストンで配車サービスの運転手として働くロバート・マッコールしかし、その裏の顔は法で裁けぬ悪を裁く"イコライザー"だった。表と裏の顔を使って平穏に生活するマッコールだが、ブリュッセルで起こったある事件をきっかけにした新たな危機に直面する
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