Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた
Slack Japanの溝口宗太郎氏(左)と越野昌平氏

ビジネスコラボーレーションハブ「Slack」は、他社サービスと連携できるなど非常に使い勝手がよく、日本でも2017年11月の日本語版リリース前からIT業界を中心に利用されていた。最近ではヤフーやDeNAといった大手企業も全社でSlackを導入するなど導入企業が広がっている。
2018年5月時点で日本国内のDAUは有償版15万ユーザー、トータルで約50万ユーザー(同社調べ)にものぼる。

スマダン編集部でもSlackを利用しているが、RSSをつなぎこんだり、タスク管理ツール「Trello」と連携したりしているくらいだ。Slackを使いこなしたいなら、中の人にテクニックを聞くべし。そう考え、Slack運営元の日本法人であるSlack Japanのシニアテクノロジーストラテジスト 溝口宗太郎氏とアカウントエグゼクティブ 越野昌平氏に、社内でSlackをどう使っているのか話を聞いた。


コミュニケーションにメールはほぼ使わない


Slackは本社のあるアメリカ以外にも、日本やイギリス、カナダ、オーストラリア、アイルランドに拠点をもつ。
Slack Japanは設立が昨年9月で、社員数はまだ約30人と少ない。海外の成長企業や国内ベンチャー企業が集まったビジネス支援施設の一角に居を構えているが、ラウンジが共有部分になっているなど、オフィスもかなりスリムだ。

Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた

同社はSlackを導入した企業の業務改善をサポートするのが主な業務で、社外とのやり取りにもメールをほぼ使わない。入社して1カ月半(取材当時)の越野氏は合計66件しかメールしていないそうだ。
今年3月入社の溝口氏も、もちろん社外のやりとりでメールを使うことはあるが、取材時点で未読メールの件数は10件のみ。
「前職を辞める際は未読メールが24,292件残っていました(笑)」(溝口氏)

誰でもチャンネルに参加し、チャンネルを作成できる


Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた
2ちゃんねる(現5ちゃんねる)風にいうと、ワークスペースは「板」。チャンネルは「スレ」のこと

実際のSlack社内でのチャット画面も見せてもらいながら、まずは社内における「ワークスペース」と「チャンネル」の基本ルールを教えてもらった。なお、Slack社内で導入しているSlackは企業向けの有償版「Enterprise Grid」だ。

全世界で約1300人いる社員全員がSlackを利用しているが、社員職種ごとにワークスペースを区切っているという。
「たとえば私は営業担当でして、『Sales & Customer Success』というワークスペースを主に使用しています」(越野氏)

ワークスペースは他にも、全社員向けのアナウンスとサポートを行う「Global」や、業務とは関係ないコミュニケーション専用の「Social」など複数ある。


「弊社では基本的に、Slackでのコミュニケーションは誰でも参加できるよう設定していまして、業務に必要だと判断した場合は、役割と異なるワークスペースやチャンネルでも自由に参加できます。例外として、個人情報や契約内容などが含まれるやりとりは、限られたメンバーしか見られないプライベートチャンネルで行っています」(越野氏)

また、新たにチャンネルを作成するのも自由だそうだ。
ただし、チャンネル作成にはガイドラインが設けられていて、チャンネル名で会話の目的が明示されてなければいけない。たとえばサンフランシスコ本社向けの共有事項を伝えることが目的のチャンネルは「#announcements-sf」という名前。

どんなチャンネルがあるか見せてもらった


Slack社では具体的にどんなチャンネルを作っているのか。特徴的なものをいくつか教えてもらった。
#sales:全世界の売上報告とノウハウを共有
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参加人数が856人! 投稿に付く絵文字の数もヤバい 画像提供:Slack Japan

全世界の営業担当者が売上を報告するチャンネル。

成果だけでなく、どんなアプローチをして売ったかノウハウも共有する。公開チャンネルなので、営業担当者だけでなく、全社員から「おめでとう」の絵文字やコメントが送られてくる。

#announcements-global:全社に向けた発表
全社に向けた発表と、週次で最新の年間経常収益をはじめ、経営指標を全社員に分け隔てなく公開する。
そのため売上報告のための会議もない。うらやましすぎる。

#lounge-japanse:日本人社員向けの雑談チャンネル
Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた
画像提供:Slack Japan

Slack Japan内だけにかぎらず、各国のオフィスで働く日本人社員の交流チャンネル。

それぞれの拠点で起きたおもしろい出来事や流行を紹介しあっている。

#escape-the-room:入社後の研修で使用されるチュートリアルチャンネル
Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた
画像提供:Slack Japan

新たに入社した人は、勤務先がアメリカ以外でも必ずサンフランシスコの本社で1週間程度の研修を受けなくてはいけないという(越野氏いわく“ブートキャンプ”。Macbookも支給されるらしい)。その研修の一部として使用される。
BOTがSlack社内に関するさまざまなクイズを出題してくるので、他のチャンネルを見て答えを探し、回答する。
「出題内容は、たとえば『サンフランシスコ本社の◯◯が持っているペンの色は?』といったもので、やりながらオフィスの雰囲気が把握できるチュートリアルになっています」(越野氏)


絵文字を多用して視覚的にわかりやすく


同社では絵文字を積極的に活用していて、視覚的に伝わる効率的なコミュニケーションを促進している。たとえば、社内インフラ部門への問い合わせは、冒頭に3色の丸の絵文字をつけるルールになっている。
色の違いで緊急度を表していて、白は「通常レベル」、青は「なる早で対応してほしい」、赤は「急いで対応してほしい」という意味。
Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた
3色の丸の絵文字で緊急度を伝えやすくしている 画像提供:Slack Japan

また、特定の絵文字が付いたメッセージを別のチャンネルに自動転送できる「Reacji(リアク字)」という機能も活用している。社員からの備品購入などのリクエストに対して、対応者が目の絵文字を付けて対応完了したことを依頼者に通知しているという。

「Reacjiは社内のさまざまなヘルプチャンネルで利用されており、チャンネルによってはBOTを使って未対応のリクエストを毎日定期的に表示させるような仕組みも導入しています。これをメールでやってしまうと、件名が『Re:Re:Re:』みたいになりますよね(笑)。件名で何のメールだったか判断できない状況にならなくて済むと。
これは私も入社して驚いた点でした」(越野氏)
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写真では、Reacjiを日程調整に活用している 画像提供:Slack Japan

既存の絵文字だけでなく、社員が追加した「カスタム絵文字」も多用している。
「例えば重要度が低い情報には『FYI』のカスタム絵文字をつけています。反対に重要な場合はメンション(注:特定の相手に通知を送る)をつけています」(溝口氏)

ちなみにカスタム絵文字は誰でも自由に追加していいので、溝口氏はこっそりSlack Japan代表 佐々木聖治氏の顔写真で絵文字を作ったとか。

ここで気づいたのが、全員がSlackのプロフィール欄を記入し、顔写真を登録していることだ。文化の違いもあるだろうが、溝口氏によれば「経営者層との心理的距離が近く感じられる」そうだ。


Slackで飛び交う大量のメッセージをどう処理しているの?


最低でも3つのワークスペースで、日々さまざまなやり取りがされているのだから、大量に通知が送られて気が散ったり、メッセージを読むのが面倒だったりしないのだろうか? 対策も教えてもらった。
「頻ぱんに見ておきたいチャンネルは『stared(日本語版では『スター付き』)』にして、固定表示しています。通知は基本的にメンションがあった時だけくるように設定を変えていますね。残りの未読メッセージは『All Unread(日本語版では『全未読』)』を使って、時間があるときにまとめて目を通しています」(越野氏)

Slackに社内の情報を集約して、そこから必要な情報を選択するというのがSlackの正しい使い方のようだ。
「メールは情報を一方的に送りつけますが、Slackは自分から情報を取りに行くコミュニケーション手段です」と溝口氏。越野氏も、Slackを導入した企業をサポートする際は「Slackはムダなコミュニケーションを省いてシンプルにするツールです」と伝えているという。

でもリアルコミュニケーションも大事


全社レベルでSlackを活発に利用しているなら、出社しても誰も一言も発せず、オフィスがシーンとしているのでは? と思ってしまうが、実はそんなことはないらしい。むしろ、対面でのリアルなコミュニケーションも大事にしているというのだ。

「弊社は、基本的に朝は会社に来ようというおもしろいカルチャーなのです。社是が『Work hard and go home』でして、要するに『勤務時間中は一生懸命働いて、終わったらさっさと帰ろう』ということです。デジタルツールの会社で、デジタルツールを使いこなしているからこそ、人間同士の温かいコミュニケーションも重要と考えています。執務室ではジョークがしょっちゅう飛び交っていますよ(笑)」(溝口氏)

社内の親睦を深める制度もあって、Slack Japanでは毎週木曜に一緒にランチを食べる「ウィークリーチームランチ」を開催。毎週金曜には夕方から社内でお酒を飲む「ハッピーアワー」があって、その流れで一緒に飲みに行くこともあるそう。



Slackのオススメ機能


Slackの大きな特徴が、アプリを入れることで他サービスと連携できること。溝口氏と越野氏が実際に使っているオススメのアプリについても聞いた。

●Googleドライブ連携
Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた

自分のGoogleドライブと連携することで、
・ドライブにアップロードされているファイルの共有URLを貼り付けるとサマリーが表示される
・誰かがファイルを自分と共有した、ファイルにコメントが付いたといった場合に更新情報が通知される。
・ドキュメント、スプレッドシート、プレゼンテーションに投稿されたコメントに対して、Slackのスレッド機能から直接返信コメントが打てる。
といった操作がSlackから直接できる。

●Zoom
高品質なビデオチャットが売りのツール。アプリ連携をすることでSlack上から立ち上げることができる。Slackにもビデオチャット機能があるが、社内ではZoomもよく使われているという。
「弊社では、その分野で一番優れたものがあればそれを使おうという文化があります」(溝口氏)

●NIKKEI
Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた

日本経済新聞が開発したSlack用のbotアプリ。
・朝刊・夕刊の1面記事のサマリーを配信
・人気急上昇ワード上位5つが表示され、気になるワードのボタンを推すと関連記事を提示してくれる
・キーワードを登録しておくと、関連した最新記事が送られてくる
といった機能がある。


「これを知っていると通だな」というテクニックは?


最後に、「これを知っていたら通だな」と思うSlackのテクニックを教えてもらった。
●クイックスイッチャー
キーボードの操作だけで見ているチャンネル・DMを切り替えることができる機能(Windows版ではctrl+K、Mac版ではcommand+Kで開く)。Windows/Mac版アプリであれば、ワークスペースの切り替えも可能。

●メールの転送
転送用のメールアドレスを取得して、自分宛てにメールを転送することもできる。
また、有償版限定だが、メールアプリと連携させることで、特定のチャンネルに自動転送できる。実際に見せてもらったところ、メールに付いていた添付ファイルも一緒に転送されていた。メールのフィルタ機能は有償版利用者も意外と知らないらしい。

ちなみにテクニックではないが、知っていると通なものの一つとしてリリースノートも挙げてくれた。
英語版のリリースノートは、見てもらうための工夫として文面にユーモアを加えるのが通例で、日本語版もそれにならっている。確認してみると「重複通知だけに…重ねてお詫び申しあげます」といった日本語独特の表現がところどころに見受けられる。
これは1人の日本人翻訳スタッフがすべて考えているとのこと。未読メッセージをすべて読み終えると「お疲れさまでした。はいアメちゃん!」「みどく メッセージを やっつけた。 かしこさが 1ポイント あがった!」などと表示されるのも、同じ翻訳スタッフによるものだそうだ。
Slackの使い方をSlackの中の人に聞いてみた

(茶柱達也)