「お役所」と呼ばれる仕事を変えていきたい 経済産業省デジタル化への挑戦

スマホを改札にかざして電車に乗ったり、電子チケットを購入したり、生活のなかでデジタル化が日々進んでいる。しかし、日本の行政機関の中枢である霞が関に一歩踏み入れば、特有の「紙文化」がいまだに横行している。
霞ヶ関の働き方が変わらない影響は、職員だけでなく、補助金申請などを行う企業も被ることになる。
そこで経済産業省(以下、経産省)は自らを変えるために、デジタル技術を徹底活用するデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)を推進して行政サービスを簡単・便利にすることを目的とした省内横断の新たな組織「デジタル・トランスフォーメーションオフィス」を設置した。
霞ヶ関での業務デジタル化の旗振り役を担う同省の、商務情報政策局総務課情報プロジェクト室室長 中野美夏氏に話を聞いた。


「お役所」と呼ばれる仕事や手続きを変えていきたい


――まず、経産省の推進するDXの概要を教えてください。
中野美夏氏(以下、中野) 弊省は民間企業に対してIT化やデジタル化を訴えていますが、そもそも自分たちができているのか?という素朴な疑問がDXの出発点でした。たとえば、国に補助金を申請する際には、何十ページにもわたるマニュアルに目を通さなければならないなどの意見が寄せられます。
我々役人は、紙ベースで書類を整理しています。ところが、その立場を離れると、職員もスマートフォンを使ってネットにアクセスし便利な生活を享受しているにもかかわらず、仕事では活かせていません。そこで、まずは国民・事業者にとって便利な行政サービスの提供と、それをオペレーションする職員の働き方を見直し、効率的・効果的に業務を推進していきます。

――具体的には。
中野 オペレーションUI/UXの視点では、1回入力したらワンストップ・ワンスオンリーで済むような行政サービスを提供していきます。また、コミュニケーションツールを増やし、効率的なバックオフィス業務を実現して職員の働き方も改善していきたいです。
データに基づく政策も立案していきます。
一括りに中小企業といってもさまざまなニーズがあります。それに対して各社の好みに応じて、オススメの行政サービスが提案されるようなアイディアも考えています。通販でよくある、個人の好みに応じてオススメのサービスや本を紹介するイメージです。また、必要な資料を民間企業へダイレクトにお届けする仕組みも検討しています。
ほかの行政機関、民間企業などとも連携して経産省以外でも活用されることを期待しています。「お役所」と呼ばれる仕事や手続きを変えていきたいです。


400万社の中小企業に浸透できているのか


「お役所」と呼ばれる仕事を変えていきたい 経済産業省デジタル化への挑戦

――行政サービスはワンストップでできないかという声が中小企業からありますが。
中野 法人デジタルプラットフォームの構築を目指しています。事業者の認証(ログイン)と電子申請のシステムを2018年度中に開発します。それを省内でデータ連携し、順次オープンにしていこうという仕組みです。
たとえば補助金申請システムでは、現在公募の部分のみを電子化していますが、事後の手続きまで一つのシステムで行えるようにしていきます。中小企業はいろいろな補助金を申請していますが、これまでは一つ一つ申請していました。
今後はワンストップ・ワンスオンリーで済ませ、審査の手続きや処理も効率化します。これも2019年度から弊省で実用化し、他省庁にも普及していきたいと思っています。

中小企業庁のデジタル化も進めます。行政手続きのワンストップ・ワンスオンリー化に加えて、中小企業向けの支援情報、支援機関の検索アプリなどを制作しています。

――補助金支援等の効果検証が可能になりますね。
中野 各種補助金などの政策による支援を受けた企業群と、受けていない類似の企業群の業績や成長への寄与度合いなどを比較できるようになります。データが集まると施策の検証もでき、新しい行政サービスを発案できます。
こうした施策により、中小企業向けの支援策やそれに対する申請の裾野が広がるのではないかと考えています。従来の紙による申請に慣れている企業からすれば、今までのやり方でも大して困っていないかもしれませんが、400万社ある中小企業に浸透できているのかという問題意識を持っています。一貫したデジタル化によってわかりやすい支援を拡大したいです。各省庁にも広げてもらうよう情報提供していきます。

――霞ヶ関の働き方が変わるとみんな創造的な働き方になりますね。

中野 働き方を効率化していけば、民間企業と意見交換し、海外視察に行って見聞を広めるなどもっと創造的な仕事ができると思っている職員は決して少なくありません。もちろん、職員の残業が減ることは、ワークライフバランスの観点からも重要です。

――経産省での働き方はいかがでしょうか。
中野 あくまで一般的な話ですが、日中は打ち合わせやメールでの返信などをして、自分の仕事がなかなかできません。夜に自分の仕事を行うとなると、帰りは遅くなります。ペーパーレス化自体が目的ではありませんが、さまざまな情報を集めて政策にしていく場合、デジタル化され整理・集約されている方がアクセスしやすいです。働き方が変わっていくことを期待しています。
――ありがとうございました。
(長井雄一朗)
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