新幹線が大好きな速杉ハヤトをはじめとする子供たちが、E5系はやぶさN700Aのぞみなど実在の新幹線をモデルにした変形ロボット「シンカリオン」を運転し、謎の敵・キトラルザスと戦うテレビアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』。TBS系で2018年1月に放送がスタートした直後から、ハヤトら「シンカリオン運転士」と世代の近い子供たちだけでなく、大人のアニメファンからも大きな注目を集めてきた。

「新幹線変形ロボ シンカリオン」渡辺信也P「リミッターを超えた〈好き〉は人の気持ちを動かす」
2018年4月からTBS系、毎週土曜、朝7:00に放送されているテレビアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』。製作委員会にはジェイアール東日本が参加し、JR各社も協力。実在する新幹線がそのままの形や名前で登場する

放送も4クール目に突入し、「幻の新幹線」と呼ばれ人気も高いドクターイエローのシンカリオンも登場。そして、ハヤトは、キトラルザスと戦うだけではなく、お互いを分かり合うための「対話」を模索し始めるなど、物語も急展開を見せている。
そこで、『シンカリオン』のアニメ化企画スタート時からプロデューサーを務めているTBSアニメ事業部の渡辺信也プロデューサーにインタビュー。企画立ち上げ時のエピソードから、今後の見どころまでを語ってもらった。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」渡辺信也P「リミッターを超えた〈好き〉は人の気持ちを動かす」
渡辺信也(わたなべしんや)/TBS入社後、バラエティ制作部、編成部を経て、映画・アニメ事業部へ。『劇場版MOZU』『トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察』などでもプロデューサーを担当

現実と空想が地続きになっているところに、すごく夢がある


──渡辺さんは、いつ頃から『新幹線変形ロボ シンカリオン』の企画に関わり、プロデューサーとして、どのような役割を担当しているのか教えて下さい。

渡辺 『シンカリオン』は元々、ジェイアール東日本企画さん、小学館集英社プロダクションさん、タカラトミーさんの3社で展開していた企画で、WEBでPVを展開したり、プラレールなどの関連玩具も人気を博していました。それを原案にしたテレビアニメ化のお話を有難いことにウチ(TBS)に頂いたんです。
今、『シンカリオン』を放送している土曜の朝7時の枠は、『カミワザ・ワンダ』『トミカハイパーレスキュー ドライブヘッド 機動救急警察』と2作品続けて、タカラトミーさんと一緒に作って来たので、そのご縁もあってのことだと思いますが、僕らも原案のPVを拝見したとき「ぜひTBSで『シンカリオン』のアニメをやりたい」と一目ぼれしたので、成立して本当に嬉しかったです。立ち上げ以来、僕は放送するテレビ局のプロデューサーとしてシナリオ打ち合わせに毎回参加し、どういう話にしていくかを脚本家・監督・プロデューサー陣・スタッフたちと話し合っています。あとは、このアニメがテレビ番組として広く受け入れてもらえるように、宣伝担当のスタッフたちと一緒にいろいろと知恵を出していく。そういう役割のプロデューサーです。

──『シンカリオン』という企画のどこに、ぜひアニメ化したいと思うくらいの魅力を感じたのですか?

渡辺 ご存知のように、『シンカリオン』は、現実に走行している新幹線がロボットに変形することが一番の特徴ですよね。その現実とフィクションが地続きになっているところに、すごく夢があると思いました。
新幹線のように誰もが知っている現実のものをアニメに出すのは、なかなか許可が頂けなかったりで、面白いことを思いついたとしても実現できないことが多いんですよ。でも『シンカリオン』に関しては、元々の原案企画時代からジェイアール東日本企画さんがJR各社との調整をされていたので、こんな奇跡が実現しているんですね。

──その後、アニメ化の企画を進める中、渡辺さんが特に大事にしたことを教えて下さい。

渡辺 さっきの話と重なりますが、フィクションの話ではあっても、ベースのところは現実と地続きであるということは、すごく大事にしたいと思いました。例えば、子供たちが東京駅で新幹線を見たときに「この新幹線もシンカリオンに変形するのかもしれない!」と思ったり、大宮の鉄道博物館に行ったときに「ここの地下に超進化研究所があるんだ!」と想像できたりするワクワク感といいますか。そういうイメージを持ちながらアニメを観てもらった方が、絶対に楽しいと思うんですよね。
そういったリアリティの保持については、アニメの制作現場の方々もすごく意識して下さっていて、新幹線や駅などのデザインも、現実の世界と同じものをアニメの中に丁寧に再現して下さっています。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」渡辺信也P「リミッターを超えた〈好き〉は人の気持ちを動かす」
シンカリオンを作り出した新幹線超進化研究所の東日本指令室大宮支部は、鉄道博物館の地下に存在。速杉ハヤトの父ホクトは新幹線超進化研究所の指導長だったが、ハヤトには鉄道博物館の職員だと伝えていた

「新幹線が好き」という気持ちの熱量が人の気持ちも動かしていく


──放送スタート後、渡辺さんが『シンカリオン』の人気を実感した瞬間があれば教えて下さい。

渡辺 やっぱりイベントの時ですね。夏休みにTBS社屋前の赤坂サカスで、シンカリオンと記念撮影や握手ができるグリーティングイベントをやった時には、すごい数の親子連れの方が並んで下さって嬉しかったです。同じく夏休みに上映した『ドライブヘッド』の映画(『映画ドライブヘッド〜トミカハイパーレスキュー 機動救急警察〜』)にはゲストでシンカリオンも出たので、2体一緒にショッピングセンターなどでのイベントを行ったのですが、シンカリオンが登場した時の子供たちの熱狂ぶりがすごいんですよ。その光景には本当に感動しましたね。あと、『シンカリオン』は、TBS社内で「ウチの子も観てるよ」と声をかけられる率がすごく高くて、そんな声にも勇気づけられています。


──本作には、主人公の速杉ハヤト&シンカリオンE5はやぶさの他にも、数多くのシンカリオンと個性豊かな運転士たちが登場します。どのシンカリオンに、どのような運転士が乗るのか、というアイデアに関しては、スムーズに固まっていったのでしょうか? それとも、かなり紆余曲折もあったのでしょうか?

渡辺 シリーズ構成の下山(健人)さんの中では最初からある程度のアイデアが固まっていたのかもしれませんが、僕の感覚としては、シナリオ打ち合わせで一つ一つのお話を作りながら、キャラクター作りも進めていった感じです。その中でも、最初の3人、速杉ハヤト、男鹿アキタ、大門山ツラヌキに関しては、わりとすんなり「こういう子が良いよね」という感じでキャラクターが固まっていた気がします。

──主人公のハヤトは、どのような男の子としてイメージされて誕生したキャラクターなのでしょうか?

渡辺 ハヤト君は新幹線オタクなので、例え話には必ず新幹線の話が出てくる、といったキャラクター設定は最初の方からありました。でも、彼の「新幹線が好き」という気持ちの熱量が、いろいろな人の気持ちも動かしていくという展開は、まさにシナリオ打ちの中で生まれてきたもの。それによって、ハヤト君の主人公としてのキャラクター性の厚みがどんどん膨らんでいって、よりチャーミングになっていったと思います。

「新幹線変形ロボ シンカリオン」渡辺信也P「リミッターを超えた〈好き〉は人の気持ちを動かす」
シンカリオンとの適合率が非常に高いハヤト。しかし、周囲の大人に強制されることはなく、自らの意志で運転士となった。戦いや仲間との交流を経てさらに成長し、他の運転士たちからも一目置かれる存在となっている

──アキタやツラヌキたちも、最初はシンカリオンの運転士になることを断りましたが、ハヤトとの交流を通してシンカリオンに乗る決意をしました。

渡辺 普通の「好き」ではなくて、あるリミッターを超えた「好き」だと、人の気持ちを動かすこともできるんですよね。しかも、ハヤト君の場合、その過剰ともいえる「好き」に嫌な感じが全然無くて。これだけ熱く言われたらしょうがないなって感じで、一人また一人と、気持ちを揺さぶられていく。その対象も、最初は運転士の少年たちでしたが、その後は新幹線超進化研究所のスタッフの大人たち。そして今では敵たちも、ハヤト君の「好き」という気持ちによって心が動きそうになってきている。
そんなハヤト君たちを観ていると「好き」という感情は本当に素晴らしいものだなと改めて感じました。それは、『シンカリオン』が放っているメッセージの中でも、特に大事なものの一つじゃないかなと思います。

3年後に観返したらどういう気持ちになるのかも大事


──4クール目に突入している現在、ハヤトたちは、敵として戦ってきたキトラルザスのエージェントとも、対話をして分かり合うことができないかと模索しています。この大きなテーマを含んだ展開は、企画初期からイメージされていたものですか?

渡辺 「他者をどう受け入れるか」というテーマが見えてきたのも、シナリオ作りを重ねていきながらだったと思います。結果として、作品の中でも非常に大きなテーマの一つになっていきました。序盤に運転士を増やしていくお話でも、子供たちなりに他者をどう仲間にしていくか、ということが描かれていましたよね。運転士の親である大人たちも、最初はそんな危険なことに自分の子供を関わらせて良いのだろうかと悩むのですが、ある程度は子供自身の意志に任せる方が良いのではという形で、その思いを受け入れていく。そして今は、ハヤトたちや超進化研究所の大人たち、一部のエージェントたちが「それぞれの立場での正義とは?」「何が本当に正しいことなんだろうか?」ということに思いを巡らせている。相手が何を考えているのか、もっと耳を傾けなくてはいけないんじゃないか、という気持ちになっている。その展開は、すごく素敵だなと思っています。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」渡辺信也P「リミッターを超えた〈好き〉は人の気持ちを動かす」
格闘技が苦手だったハヤトは、中学生運転士の清洲リュウジに空手を教わる。それは、敵を倒すためではなく、「戦い」という「言葉の無い対話」で力を示すことで、エージェントたちとの対話のきっかけを作るためだった

──非常に深いテーマですが、子供たちにどの程度、理解してもらえるのかというバランスの調整は難しそうな気がします。

渡辺 正直、ここまで深いドラマになっていくと、シンカリオンのプラレール(玩具)で遊んでくれているような未就学の子供たちには、伝えたいことのすべてが伝わってはいないかもしれません。でも、ギリギリまでついてきてほしい。そのために、シリーズ構成の下山さんは、ハヤトたちの日常エピソードとして、手巻き寿司パーティの話や夏休みの旅行の話といった、子供たちが楽しんで観られる場面を意識して描いてくれています。子供たちが親しみやすい入口を用意した上で、その先に熱いバトルだったり、人間ドラマだったりが広がっていくという計算をしてくれてるんですね。そこまでやった上で、各話のメッセージがどこまで伝わっているかは、視聴者の年齢によっても変わってくるとは思いますが……。でも、こういった作品ってリアルタイムの感覚はもちろん大事ですが、例えば、3年後に観返したらどういう気持ちになるのだろう、ということも大事だと思うんです。僕らも、子供の頃に観たロボットアニメを大人になって観返したら、「こんなに深い話だったんだ!」って思ったりするじゃないですか。

──たしかに、自分も子供の頃は『機動戦士ガンダム』などを観て、「モビルスーツ、格好いいなー」としか思っていませんでした(笑)。

渡辺 そういうものですよね(笑)。それは、様々なメディアで繰り返し見ることの出来る映像作品の良いところだし、今『シンカリオン』を観てくれている子供たちにも、きっとそういう時が来るはず。3年後、5年後に観返してくれた時、今とは違う感じ方をしてくれたら良いなと思っています。だからこそ、あまり子供向けに偏り過ぎず、大人の視聴にも耐えうる内容にしようという意識は、最初からスタッフみんなにあったと思います。

──『シンカリオン』は、親子で楽しんで欲しいという狙いもあったのでしょうか?

渡辺 それはすごくありました。第1話でハヤトと父親のホクトとの間に様々な葛藤があったのちに想いが一致し、ハヤトがシンカリオンに乗るに至る過程を丁寧に描いていますが、そんなやり取りから、テレビの前の親子にも色々なことを考えてくれたら嬉しいなあと思っていました。夏休みの海水浴の回(第29話)では、すごく心配性なアキタ君のお母さんが出てくるのですが、「息子はこんなことをやっていたんだ」というのを理解した上で、子供の背中を押して送り出す。そういう親子の関係もきちんと描くことは強く意識しています。
(丸本大輔)

(後編に続く)
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS