スイスでトレンディに出会い、日本でトレンディに再会した瀧沢完治(佐々木蔵之介)と目黒栞(黒木瞳)。
ふたりの恋がビミョーに進展していく中、完治の妻・真璃子(中山美穂)にも恋心が芽生える。

いつまでもトレンディを引きずってるんじゃないよ
中高年の「大人な恋愛」を描く弘兼憲史の漫画『黄昏流星群』が原作となる本ドラマ。
原作でこのエピソードが描かれたのは1995年。バブルとトレンディの残り香が漂う時代に、そういった若者の恋愛とは一線を画した、おじさん・おばさんの恋愛を生々しく描いたのが新しかった。
しかし、そんな『黄昏流星群』を現代に持ってきたことによって、バブル&トレンディにガッツリひたっていた世代がアラフィフになってからの恋愛を描いているのが本作だ。
どうも「大人な恋愛」というよりは、80〜90年代のトレンディ・ドラマをいまだに引きずっている、痛いおじさん・おばさんの恋愛に見えてしまう。
「銀行員にとって不倫は御法度」ということでこれまで自分を律してきた完治。母親の介護で自分の人生を犠牲にしてきたため、結婚経験のない栞。
一周回って高校生のようなピュアな恋愛に……というのも分からなくもないのだが、
「隣に誰かいてくれたらなって思わなくもないです、いつもじゃなくって、時々でいいから」
「ハーイ。じゃあ、ボクでよかったらいさせてください。いつもじゃなくて時々でいいですから」
アラフィフ、アラカンの男女が何言ってるのよ。
君たち、まだ恋愛ドラマの主人公気分かと(まあ、そうなんだけど)。いつまでも「東京では誰もがラブストーリーの主人公になる」(ドラマ『東京ラブストーリー』のキャッチコピー)気分でいるんじゃないぞ。
そういえば、主人公の名前がどちらも「完治」だが……。
彼女の母親をたぶらかす藤井流星が怖い!
完治と栞が、トレンディをこじらせた恋愛を育む中、完治の妻・真璃子(中山美穂)は、ある意味現代型のもっとヤバイ恋心を芽生えさせる。
庭先で指をバラのトゲに刺してしまい、娘の彼氏・日野春輝(藤井流星)に手当をしてもらったことで、久々に感じるドキドキに戸惑う真璃子。
「母もハーブが大好きで、よく育てているんです」
「母か……。この子にとっては、私もお母さんみたいなものだ。何をバカみたいにドキドキしてたんだ」
そりゃ「お母さんみたいなもの」だろう。娘の彼氏なんだもん!
「優しいのよね。ただ転んだおばあちゃんに手を差し伸べたのと同じ事よね」
それ以外に、どんな意図を感じ取っていたんだ、母!
コレがミポリンだから藤井流星くんに発情していても絵面的にギリギリ成立しているけど、若い娘さんたちよ、アラフィフの母親が自分の彼氏に発情していたらと考えて見なさいな。恐怖でしかないでしょ!?
しかし、それ以上にヤバイのは彼女の母親に、色気をふりまく春輝の方だろう。
彼女の両親にはじめてあいさつに行くというシチュエーションで、彼女の母親がちょっとトゲで怪我したからって、突然腕をグッとつかんで手当とかできないよ。
その上、彼女が帰ってくる前に家に上がり込み、母親とふたりでトーク。そんなハートの強い男は存在するのだろうか。
さらには帰り際、彼女が間近にいるにも関わらず、妙に色気のある目で母・真璃子を見つめる。
天然なのか意図してなのか、今のところ分からないが、どちらにしてもデンジャラスな男だ。
真璃子、春輝の恋愛は原作にはないオリジナル・エピソード。
フジテレビ的には『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』みたいに「禁断の恋ブーム再び!」を目指してぶっ込んできたエピソードなのかも知れないが、娘の彼氏と……というのはさすがに禁断にもほどがある。
今後、こちらの恋も進展しちゃうのだろうか。
ミポリンの厄介さ
春輝にドキドキしつつも、夫である完治の浮気を疑い、過剰にイライラしてしまうのも真璃子のヤバイところだ。
会社から届いた荷物の中に「お世話になりました」とメッセージの添えられたプレゼントを見つけ、勝手に開封。中身がネクタイピンだったことにブチ切れる。
「お世話になりましたってどういうこと!?」
「ああ、それはもう何でもないんだよ」
「何でもないわけないでしょ!」
これまで家庭を顧みなかった夫が、出張と嘘をついてスイス旅行に行ったりと、色々あったせいで心のバランスを崩しているのかも知れないが、それにしても厄介!
完治が、銀行の支店長を辞めさせられたことを知らないにしても、女子行員が退職するタイミングで「お世話になりました」とプレゼントを贈るなんてことも考えられるだろうし、こんなことで責め立てられるのは完治としてもキツイところだろう。
出世コースから外れた銀行内ではみんなからシカト状態だし、出向先でも露骨に疎外されている。
さらに妻が面倒くさいことになっているということで、ロクなことのない日々の中、唯一の救いとして、栞とのトレンディな恋愛にのめり込んでいってしまうのだろう。
もう、本仮屋ユイカを応援したい
アラフィフのおじさん・おばさんたちが、何だか共感しづらい恋愛模様を展開している中、心を奪われてしまったのが、篠田薫(本仮屋ユイカ)の完治に対する気持ちだ。
これまで、完治に対してかなり露骨なアピールを繰り返してきた薫。
完治が支店長だった頃は、権力者にたいしての媚びなのかと思っていたのだが、支店長を辞めることになって以降も、他の行員たちが完治を露骨に無視する中、薫だけは変わらぬ気遣いを見せていた。
第2話の最後では、完治がとっくに銀行から出向させられているとも知らずに、「支店長の妻」顔をして銀行を訪れてしまった真璃子と薫が対峙する。
「奥様は、ご存知ありませんでしたか?」
アプローチをかけていた男の妻と会ってしまった気まずさと、真璃子が出向の件を知らなかったという驚き、そしてちょっとした優越感を滲ませる表情がたまらなくいい!
完治×栞×真璃子の三角関係に、薫まで入ってくるとは考えづらいが、今のところ、ドラマの中で唯一感情移入できるキャラクター。今後もストーリーに絡んできてもらいたいところだ。
(イラストと文/北村ヂン)
【配信サイト】
・FOD
・TVer
『黄昏流星群〜人生折り返し、恋をした〜』(フジテレビ)
原作:弘兼憲史『黄昏流星群』(小学館刊)
脚本:浅野妙子
演出:平野眞、林徹、森脇智延
主題歌:平井堅「half on me」(アリオラジャパン)
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:高田雄貴 (フジテレビ)
製作著作:フジテレビ