90年代を代表する格闘ゲームといえば「ストリートファイターII」だが、そのストIIを題材に『ストリートファイターII MOVIE』というアニメ映画が94年に上映されたことを覚えているだろうか。映画のことは覚えてなくとも、篠原涼子が歌った主題歌である「愛しさと切なさと心強さと」のことは覚えているだろう。
202万枚を売り上げた同曲は、当時の音楽シーンに大きな爪痕を残した。

アニメ版ストリートファイターII


ストIIは映画だけでなくアニメ版のOP・ED曲も実は神曲だったんだ
画像はAmazonより

映画『ストリートファイターII MOVIE』から遅れること約1年、95年には『ストリートファイターII V』というアニメがスタートした。底抜けに明るくよく喋るリュウ、女子高生設定の春麗など、ゲームとは大きくキャラクターの印象が異なる設定のアニメだった。

全29話と当時のアニメとしては話数が少なかったからか、中盤のグダグダっぷりに評価がわかれるところであったが、物語の締め方自体は評価する声が多い。

実は良曲だった『ストII V』の主題歌



そんなアニメ版では、映画版とは逆にその主題歌が話題になることはそう多くなかった。しかし、これがなかなかの名曲なのだ。
オープニングテーマの「風 吹いてる」、エンディングテーマの「cry」ともに歌ったのは同曲がデビュー曲となった黒田有紀というシンガーソングライター。
彼女はガールポップの新星として期待されながらも、デビュー翌年となる96年に結婚を機に引退している。

この2曲は、いずれも作詞・作曲がASKAだったということも注目だろう。特に「cry」はASKA自身もセルフカバーしており、10月17日に発売されたASKAのベストアルバム「Made in ASKA」にも収録されている。

CDの売り上げで見ると「愛しさと切なさと心強さと」の足元にも及ばない結果だったが、ストIIファンの一部においては、「風 吹いてる」「cry」の方を推す声のほうが大きい。映画とアニメでは視聴者層が違うということもあったのかもしれないが、同じモチーフの作品同士で、どちらも素晴らしい主題歌にもかかわらず、両者には大きな差ができてしまった。もし映画とアニメの主題歌が逆だったとしたら、それを歌った彼女たちの人生も大きく変わっていたのかもしれないと考えると、なんとも感慨深いものがある。


黒田有紀が引退してしまっている以上、この2曲を生で聴ける機会は失われてしまったが、昨今テレビでよく目にするようになったカラオケ番組に、この曲を持ち歌として歌い手が登場しないか筆者は心待ちにしている。

(空閑叉京/HEW)