邪悪な笑顔のおっさんと目が死んでいるおっさんプレゼンツ、地獄のお仕事ムービー第二弾! 『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』は、ミリタリー的ディテールとかっこいい乗り物と中間管理職の悲哀と容赦ない暴力に彩られた、ベニチオ・デル・トロ夢小説といった趣の映画である。どんな趣だよ。

帰ってきたメキシコ地獄めぐり「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」暴力ヘリ車列そしてデル・トロ夢小説

今度は戦争だ! カルテルのボスの娘を誘拐せよ!


前作『ボーダーライン』は、アメリカ国内での捜査しか担当したことがない女性FBI捜査官が、悪いジョシュ・ブローリンと目が死にきっているベニチオ・デル・トロに連れられて、情け容赦ないメキシコ麻薬戦争の地獄めぐりに付き合わされる様子を描いた作品だ。全編異常な緊張感に満ちた血も涙もない展開と茫漠とした米墨国境の風景、そしてニヤニヤしながらえげつない手を使うジョシュ・ブローリン演じる工作員マットと、ドンヨリした目つきでカルテルを始末するデル・トロ演じる復讐鬼アレハンドロの異様さが大変楽しい一本である。

で、『ソルジャーズ・デイ』は前作の直接的な続編ではないが、世界観を同じくする作品である。監督はドゥニ・ヴィルヌーヴから、本作がハリウッドデビュー作であるイタリア人監督ステファノ・ソッリマに交代。前作で重苦しい音楽を作っていたヨハン・ヨハンソンは本当に惜しくも亡くなってしまったが、脚本は前作と同じテイラー・シェリダンという布陣である。

物語は夜中、米墨国境地帯を徒歩で越えようとする不法入国者たちを、アメリカ側のヘリが捉えた場面から始まる。国境警備隊がメキシコ人たちを逮捕しようとした矢先、そのうちの一人が自爆する。時を同じくしてアメリカ国内のショッピングモールでもテロリストによる自爆事件が発生。15人の死者を出してしまう。

テロリストがイエメン系だったことを掴んだCIAの工作員マット・グレイヴァーは、東アフリカで彼らを運んだという海賊を尋問。ソマリア沖からメキシコというルートを辿ってテロリストがアメリカ国内に入ったことが判明する。現在麻薬カルテルにとって最重要の商品は、アメリカ国内へと入りたがる不法移民。そのカルテルの手によってテロリストは運ばれたのだ。
事態を重く見た政府はメキシコのカルテルをテロ組織に認定、国防長官直々に「なんでもあり」の対処が命じられる。

マットは旧知の仲である元メキシコの検事で、現在は暗殺者のアレハンドロに協力を要請。巨大カルテルのボスであるカルロス・レイエスの娘イサベルを、レイエスに敵対するマタモロス・カルテルの仕業に見せかけて誘拐し、メキシコ国内のカルテルに抗争を発生させて共倒れを狙う。誘拐は成功したかに見えたが、イサベラの移送中に買収されたメキシコの警官たちが裏切り、イサベラは逃げ出してしまう。イサベラの行方を一人追うアレハンドロ。しかしメキシコの警官とマットのチームが交戦したことが問題視され、作戦は思わぬ方向へと転がっていく。

そもそも、メキシコ国内においてカルテルとそれ以外との区別をつけるのは難しい。カルテルは警察内部にも普通の市民の中にも政府にも根深く食い込んでおり、「カルテルだけを排除する」というのは至難の技だ。しかしアメリカ国内でのテロの片棒を担いだ以上、アメリカ政府としてはカルテルを放っておくわけにはいかない。だから作戦開始前、マットは「やる以上は汚い手も使うことになる」と散々警告する。ガチでやるとどうなるかわからないけど、その覚悟はあるんですか、と確認をとるのだ。「いいよ」と言われたので、現場の兵隊たちは「今度は戦争だ!」と景気良く非合法の作戦に突っ込んでいく。


しかし、実際やってみたらカルテルではなくカルテルに買収された警官と撃ち合うことになっちゃって、「聞いてないよ〜」と偉い人に怒られちゃったわけである。サラリーマンやってると、こういうこと割とあるよね……という状況だ。「だから散々言ったじゃん!」とブチ切れるマット。マットは今回もド頭から前作同様のサンダル履きで現れ、とんでもない尋問(一瞬ウォーターサーバーのタンクを映して「おっ、前回と同じ水責めかな?」というフェイントが入る)のパワープレイで魅せてくれるが、なんだかんだ言ってこの人も現場の取りまとめ役。要は中間管理職なのだ。

そんな中間管理職の危ない現場仕事に関しては、今回もシビれるディテールが満載。イサベラの乗る車を襲撃する際、襲撃チームのメンバーが上腕にプラスチック製ハンドカフ(電気コードをまとめるバンドを大きくした感じの器具である)を巻いた状態で車から飛び降り、ボディガードに銃を突きつけながら素早く拘束したのには「なるほどああやるのか〜!」と唸ってしまった。それ以外にもヘリの中で発砲する役目のスナイパーの銃だけに機内に薬莢が飛び散らないよう薬莢受けが取り付けられていたりとか、どんな状態になっても銃の薬室だけはチェックするアレハンドロとか、「わかってるな〜!」と声をあげたくなる部分だらけ。ディテールだけで3杯はメシが食える。

特に今回素晴らしかったのは乗り物、特にヘリに関する描写だ。前作でも車列を組んで疾走するシボレー・タホが印象的だったが、『ソルジャーズ・デイ』でも荒野を獣じみた走り方で駆けるハンヴィーやシボレー・シルバラードは健在。「いかついクルマが車列を組んで高速走行してると嬉しい!」という気持ちを存分に味わえる。
しかし米墨国境は広大な荒地なので、車での移動には限界がある。そのためアメリカ側は最初から最後まで、ここぞという時にはヘリを投入するのだ。

途中で挟まる空軍基地の場面では滑走路の脇にずら〜っと並び、荒っぽい仕事の時にはブラックホークが超低空をすっ飛ぶ。特に車に向かって高度を落としてくるブラックホークを地上から見たカットは怖さとカッコよさがごちゃ混ぜになっており、今年のヘリ登場シーンではぶっちぎりのベスト。これぞアメリカ軍のエアパワー。ヘリに乗ってる怖いおじさんの群れには勝てないのだ……。

ベニチオ・デル・トロ夢女子必見、メキシコ子連れ狼の死闘


中間管理職のマットと並ぶ『ボーダーライン』シリーズのもう一人の主役が、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロだ。元メキシコの検事で、カルテルに妻と娘を殺されて以来、何が何でもカルテルを皆殺しにすることを誓った男である。ものすごくつらい経緯で家族を失ったことが前作で明かされており、そのせいで目がずっと死んでいる。

そんなアレハンドロが、『ソルジャーズ・デイ』ではメキシコの荒野をゆく子連れ狼と化す。なんせ連れて歩くのは自分の家族を殺した憎きカルテルの親玉の娘だ。作戦のため、そして自らの信念のため、誰が敵に回るかわからないメキシコで孤軍奮闘する。


前作も見方によっては「新入り女性捜査官の逆ハーレム状態映画(ただし出てくるのは全員ボディアーマーをつけた髭面の怖いおっさん)」と言えないこともなかったが、『ソルジャーズ・デイ』はかなりデルトロ夢女子感のある筋書きだ。なんせ「金持ち女子校に通う勝気なヒロイン(ヤクザの一人娘)が、ある日いきなり目が死んでいるベニチオ・デル・トロにさらわれる」「最初は険悪だったけど、銃撃戦の最中にデル・トロが助けに来てくれる」「デル・トロの意外な一面も見られて、2人は徐々にお互いを理解し……」的なストーリーなのだ。目が死んでいるおじさんのことが好きな人には、正直たまらないのではないだろうか。

しかし舞台はメキシコであり、相手はカルテルである。当然ながら、夢とか言ってる暇はない。大体、30部屋ある豪邸に住むカルテルのボスの娘と言っても、学校の送り迎えにも厳重な警護がつくんだから何も楽しくなさそうだ。こういう「望んでこの立場に生まれたわけじゃないけど、それでもここはメキシコだからこういうふうにしか生きられない」という人間のやるせなさを容赦無く描くのが、『ボーダーライン』シリーズの真骨頂である。

こういう映画なので、鉄砲や乗り物や銃撃戦のディテールに大興奮しつつ、最後にはやるせない気持ちで劇場を後にすることになる。しかしこれは、癖になるやるせなさだ。しかも聞くところによれば、どうやら3本目も作る用意があるらしい。こうなったら3本だけと言わず、無限に作り続けてほしいと思っている。
(しげる)

【作品データ】
「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」公式サイト
監督 ステファノ・ソッリマ
出演 ベニチオ・デル・トロ ジョシュ・ブローリン イザベラ・モナー マシュー・モディーン ほか
11月16日より全国ロードショー

STORY
メキシコ国境を突破して入国したテロリストにより、アメリカ国内でテロが発生。
CIA工作員マットは政府からの密命を受け、メキシコのカルテルに内紛を起こさせようとする。手始めに旧知の暗殺者アレハンドロと共にカルテルのボスの娘を誘拐したが、彼らの作戦は思いもよらない方向へと転がっていく
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