最初に言っておくが、『シュガー・ラッシュ:オンライン』はモテなくてダサくてずっとインターネットやってるおっさんが見るべき映画である。かわいい見た目やディズニーのブランドに騙されてはいけない。

「シュガー・ラッシュ:オンライン」はネットで失敗しないための教則映画、モテないネット漬けおっさん必見

続編だけど、「なんとなくキャラは知ってるくらいのノリで見てOK!


前作『シュガー・ラッシュ』は、レトロなアーケードゲームを題材にした作品だった。各ゲームの筐体の中にはゲーム内のキャラクターたちが全員住んでいて、プレイヤーの指示に合わせてゲームを"演じる"ことでゲームセンターの営業を維持している。ゲームセンター内の筐体はつながっており、キャラクターたちは互いのゲームの世界を行き来することができる。

主人公ラルフはリトワクズ・アーケードというゲームセンターに置かれた「フィックス・イット・フェリックス」というゲームの悪役で、プレイヤーキャラクターであるフェリックスがビルを修理しようとするのをレンガを落として邪魔するのが仕事だった。もう一人の主人公が、お菓子の国を舞台にした女の子向けレースゲーム「シュガー・ラッシュ」のキャラクター、ヴァネロペ。バグを抱えたキャラクターとしてゲーム内でつまはじきにされていたが、前作『シュガー・ラッシュ』でラルフと出会い、自らに秘められた秘密を解明。ゲーム世界の危機を切り抜け、ラルフとは親友となっている。


という背景があるにはあるのだが、続編『シュガー・ラッシュ:オンライン』はなんとなく「このラルフとヴァネロペってキャラ、見たことあるな……」くらいのノリで見に行っても全然大丈夫。なんせ話の舞台が一気にゲーセンを飛び越え、タイトルになっているゲーム「シュガー・ラッシュ」すらほとんど関係なくなるのだ。

「シュガー・ラッシュ」廃棄の危機! インターネットで部品を探せ!


前作で親友となったラルフとヴァネロペ。しかし好奇心旺盛なヴァネロペは展開が読める「シュガー・ラッシュ」のレースに飽きており、より刺激的な生活を求めていた。一方ラルフは今の暮らしに満足しているが、ヴァネロペのためにゲーム内に新コースを作ってやることに。しかしこれが原因となって『シュガー・ラッシュ』の筐体が破損。修理できなければ筐体ごと廃棄ということになってしまう。


しかし、ゲーセンの客と店主リトワクとの会話から、ラルフとヴァネロペは「イーベイ」という場所に替えの部品が売っていることを知る。「イーベイ」はどうやらインターネットという場所にあるらしい。折しもゲーセンには新しくWi-Fiのルーターが接続され、2人は勇んでインターネットの世界へと飛び込む。

ラルフとヴァネロペが行き着いた先は、今まで見たこともないような広大なネットワークだった。そこら中に大量のアカウントが動き回り、巨大なサービスが稼働している。ショッピングモールのような「イーベイ」でスペアの部品を見つけた2人はよくわかってないまま数字を連呼して筐体の部品を落札するが、その結果2万ドル以上を支払うことに。
金を稼ぐため、ラルフとヴァネロペは危険な街で改造車がレースをするオンラインゲームに参加し、そこでNPCの女性ドライバーキャラであるシャンクと出会う。

「インターネットを全て擬人化して再現する」という、どう考えても無謀な挑戦に挑んだ本作。その結果、「ディズニーの予算とセンスと技術力でもって、インターネットあるあるが全力で映像化される」という映画に仕上がっている。看板を抱え「ゲームやらない?」とか「人妻から連絡がきてるよ?」とか通行人のアカウントに話しかけるポップアップ広告の擬人化や、インターネット最下層の廃墟に転がるジオシティーズの看板、とにかく猫と赤ん坊の動画ばっかりお気に入りにするネットユーザーたちと、性格悪めのネット描写が満載だ。特に途中に出てくる「業務中に死んだ目で猫動画を見てるおっさん」には思わず「おれじゃん……」と口をついて出そうになった。

そんなネットの中でラルフとヴァネロペは金を稼がなくてはならない。
その結果たどり着いたのが、「動画サイトに面白い動画をアップして、そのリアクションを換金する」という方法である。で、これをネットユーザーが「なんかレトロゲームのキャラが出てる面白い動画だ〜」と言いつつ「いいね!」とボタンを押すのだ。しかしそもそもラルフは自律して動くゲームのキャラクターのプログラムである。それが勝手にネットに進入して勝手にネット上で動画を生成し、挙げ句の果てに動画サイトで大金を稼いでいるわけで、冷静に考えれば起こっている事態はほとんどサイバーパンクSFだ。ディズニーが作った、広大なネットワークを舞台にした最新のSF映画。それが『シュガー・ラッシュ:オンライン』なのである。


冴えないおっさんの身の処し方はラルフに学べ


物語の中盤、ヴァネロペは危険なオンラインレースゲームで戦う女性ドライバー、シャンクと出会う。ゲーセンと違って何が起こるかわからないレースと、革ジャンにブラックジーンズで全身を固めたシャンクに心を奪われたヴァネロペ。無事に「シュガー・ラッシュ」の筐体が修理されたとして自分は果たしてそこに戻りたいのかと、ヴァネロペは迷うことになる。

シャンク、そしてシャンクがラルフとヴァネロペに紹介するイエスというキャラクターがとてもいい。イエスは動画投稿サイトのコアとなるプログラムで、刈り上げた頭とハードなファッションが特徴の女性(と言っていいかよくわからないが)キャラである。シャンクとイエスはどちらも「かっこよく自分の仕事をするキャラクター」として地に足がついた描写がされており、片田舎のゲーセンから出てきただけのヴァネロペが憧れる対象として説得力がある。


更に言えば、この映画では「ディズニーのWebサイトで仕事をしている」という設定で歴代ディズニープリンセスが総登場する。「ガラスの靴を酒瓶のように叩き割って即座に武器にするシンデレラ」は予告の段階でも話題となったが、全員で「なんか水に自分の顔が映るとつい歌っちゃうんだよね〜」「なんか曲も流れてくるじゃん?」「わかる〜」みたいなガールズトークを始めたりもする。そんなイケてる集団の中にヴァネロペも放り込まれるのだ。そりゃ「こっちでやってけるんだったら、それがいいな」と思いもするだろう。

一方、置いてけぼりにされてしまったのがラルフである。ラルフは変化を望まないキャラクターだ。だから用事を済ませたらとっととインターネットから戻って、自分の根城のゲーセンで落ち着いて暮らしたいと考えている。

考えてもみてほしい。むさ苦しくて冴えない悪役の自分が変わるきっかけになってくれた大親友の女の子が、ステップアップして自分の手の届かない(ような気がする)ところへ行ってしまおうとしている。邪魔はしない方がいいのはわかっている。だけど、どうしたって寂しいものは寂しいし、よくわからないけどなんだかちょっと腹も立ってくる。どうしてこんなことになったんだ……インターネットにさえ来なければ……!

このラルフのウジウジ感は、インターネットで女性アカウントに粘着する冴えないおっさんの戯画として、ディズニーが投げられるギリギリのラインを狙った球ではないだろうか。そして、そう思って見た時、この映画の原題(ネタバレ気味なので興味のある人は自分で調べてください)が圧倒的な意味を持って立ち上がってくるのである。わかる、わかるぞラルフ! お前はおれかラルフ! 悩みだったらおれが聞くぞラルフ!!

つまるところこの映画には、「おっさんは、インターネットでどう振る舞ったら若い女子に嫌われず、また足を引っ張らないか」というヒントが無数に散りばめられている。だからこそ、『シュガー・ラッシュ:オンライン』は、ラルフのようにムサくて出不精で友達もあんまりいなくて「またこいつら猫と赤ん坊の動画ばっか見て喜んでるよ……」とネットを見ては悪態をつくおっさんが見るべき映画だ。多分、この映画で描かれているネット像は数年で古びるだろう。しかし、モテないおっさん向けの教則ビデオとしてのパワーは、恐らく不変である。

おれも含め、気をつけていたっていつ自分が若者や女子の足を引っ張るかはわからない。しかしそんな時でもこの映画を見ておけば、ラルフが「やめておけよ……」と山ちゃんの声で話しかけてくれることだろう。繰り返すが、モテないおっさんほど見ておくべき一本である。
(しげる)

【作品データ】
「シュガー・ラッシュ:オンライン」公式サイト
監督 リッチ・ムーア
声の出演 ジョン・C・ライリー サラ・シルヴァーマン ガル・ガドット タラジ・P・ヘンソン ほか
12月21日より全国ロードショー

STORY
ヴァネロペが暮らしているアーケードゲーム「シュガー・ラッシュ」の筐体が壊れ、ラルフとヴァネロペは代わりの部品を探すためにインターネットの世界へ足を踏み入れることに。eBayで部品を落札した2人は、購入資金を貯めるために奮闘するはめになる