ASKA、観客に“明日への活力を与えた”コンサートツアーが終幕 「今がいちばんいい」/レポート

ASKAによる5年振りのコンサート『billboard classics ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018 -THE PRIDE-』が2018年12月23日の「LAST OF LAST IN SHIZUOKA」の公演を持って完遂。無事に幕を下ろした。
この日はASKAの実に5年ぶりとなった全国ツアーのファイナル。11月5日の東京・国際フォーラムホールAを皮切りに全国9都市11公演を当地の交響楽団とともにASKAが、自身やCHAGE and ASKA(以下 : C&A)の楽曲を歌ってきた、その最終地点であった。そんな公演の模様を、エキサイト独占で密着した。

この日は、一部ASKAの喉の不調も現れたが、それを集った観客が一緒に歌うことで完成へと導いた場面も印象深く残っている。

会場の両サイドにはバルコニー席も配し、クラシックやオペラ等の鑑賞に似合う同会場は、まさに今回のコンサートに最適。私も初日以来の観覧ではあったが、あの日とはまた違った融合を両者が魅せ、ASKAも譜割や間合い、フレキシブルな自由度も含め、より「歌」を伝えるのみならず、むしろそこに含まれた感情や想い、情景や原風景をより伝えているように映った。

クラシックコンサートの独特の場内BGMが一切無いなか、遠くから管弦楽団の音出しが聞こえる。うちベルが鳴ると無音と静寂がしばし。開演時刻を10分程すぎた辺りで、まずは交響楽団のメンバーが現れる。間を空けてヴァイオリニストが登場。そのヴァイオリンに合わせてみなが調弦を始める。ゆっくり照明が落ち、このツアーの全指揮を担った藤原いくろうが指揮者として登場。
プレリュードとしてオーケストラアレンジされたC&Aの「On Your Mark」が雄々しい船出のように優雅に厳かに気高く滑り出していく。これからの大航海へと想いを馳せる聴衆。帆に風が満ちるなか、ひときわ大きな拍手に迎えられASKAが登場。

ゆっくりお辞儀をし、間をおき、小野かほりのパーカッションによる打音とアジアテイストのエキゾチックな旋律が現れる。オープニングは「熱風」(C&A)が飾った。マイクスタンドを大切に包み込むように握り歌うASKA。ゆったりしながらも力強い同曲の<船は熱い風を受け/何処までも翔けてゆく>のフレーズがことさらリアリティを増す。ASKAの歌も初日より確実に歌唱や表現、感情移入、そして交響楽団との同化を魅せている。その融合は、どこか「安心してその上を自由に揺蕩(たゆた)っているが如し」。そして、力強さに対して艶やかさが現れたのは「Man and Woman」(C&A)であった。ウィスパーを交えて贈られた同曲。<時は裏切らない>のフレーズが信憑性を増させる。
歌を、体全体を使い伝えるASKA。交響楽団の演奏も優雅さと気品を保ちながらも情景を広げていくように場内の隅々にまで染み渡っていく。

「名古屋で(このコンサートスタイルが)出来なかったことが心残りだったが、隣の県になるがどうしても実現したかった」とASKA。「終わって会場を出る際には、みなさん同じ温度であったら嬉しいです」と続ける。澤近泰輔によるピアノの奏でとともに、ソロ楽曲から彼の代名詞の一曲とも称せる「はじまりはいつも雨」が歌い出される。これまでの荘厳さに対してこちらは優しく柔らかい気持ちにさせてくれる歌い方。どこか良い想い出を振り返るように響く。そしてソロ曲「同じ時代を」では後半、ASKAのハミングと共に演奏もエモーショナルさを帯び、その生命力を場内に溢れさせる。また、躍動感が場内に呼び込まれたのは「迷宮のReplicant」(C&A)の際であった。この曲は長いアウトロが各人の心の余白を埋め、各位が物語を広げていくように惹き込まれている場面も印象深い。

コンサート内容との調和を意識した和み溢れるASKAのMC中に、はたと気づいた。初日はMCの度に場内からのASKAへの声掛けや呼びかけもかなりあった。
しかしこの日はほぼお客さんから声はかからず。それが凄くコンサートの主旨との調和を見せていた。そこにこのツアーに際するマナーが育まれていたのだ。

ソロ最新作からの「しゃぼん」では、夢はあるかい? と何度も自分に問いかけてられるように響く楽曲とともに、ピチカートを交えたチェロやハープ等の弦楽器のうえ管楽器隊が乗り楽曲が場内に広がっていく。

この日もクラシックコンサートのマナーに従い間に20分間の休憩が挟まれた。これもコンサート内容が厳かで緊張感と集中力を擁する分、ホッと出来るひと時でもあった。
ASKA、観客に“明日への活力を与えた”コンサートツアーが終幕 「今がいちばんいい」/レポート

その休憩を挟み中盤戦では、かつての自分と今の自分を重ね合わせるかのような近作からの曲たちが続いた。ヴァイオリンとピアノによるイントロの導きから「FUKUOKA」に入ると、ノスタルジックさを交えた穏やかな時間の流れを感じ、出自の地でのASKA少年をオーバーラップさせ、対して、東京に出てきた際の想い出語りを交え伝えられた「未来の人よ」では、あの時に見た空の高さを思い起こさせ、同時に今後へと想いを馳せさせた。またスリリングさも擁した「修羅を行く」では、赤いライトに浮かび上がるステージにて、ASKAの情熱的なブルースハープが場内を惹き込み、歌にも熱が帯びていく。同曲では交響楽団をバックにしても、いわゆるグループ感を醸し出せる発見もあった。

加え、厳かに感情たっぷりに歌われた「MIDNIGHT 2CALL」。中東戦争時のニュースのなか、自身の無力さを感じ、それが歌と化した「君が愛を語れ」では、どこまでも続き、広がっていくアウトロにグイグイ惹き込まれていく自分が居た。
そしてそこを抜け優雅に現れたのは「月が近づけば少しはましだろう」。同曲の際には、この日最もソウルフルに感情たっぷりに歌われる光景を見た。

そんななか一転、聴き覚えのある旋律が明るく場内を活気づかせる。「YAH YAH YAH」だ。みるみる活力と生命力が場内に漲り、みなが拳を天に力強く突き上げる。会場も一緒に合わせて大合唱。同曲を完成させていく。正直この曲の際、ASKAの喉は不調そうであった。しかし場内の歌声がそれを見事にフォロー。一緒に楽曲の補完へと導いた。そして本編ラストは「PRIDE」。<心の鍵を壊されても失くせないものがある>のフレーズに込めた気概こそが今、そしてASKAの置かれている状況に対しての返答ようにも響き、それを保ち、抱き、誇り、大切にし、例え声が出にくくともそれでも歌う姿にて、それを体現してくれているかのようにも映った。

ASKA、観客に“明日への活力を与えた”コンサートツアーが終幕 「今がいちばんいい」/レポート

アンコール。他会場では2曲であったが、この日は3曲。各々違ったタイプが歌われ、それはどれも次へと向かい、我々に明日への活力を与えてくれ、明るい希望がしっかりと見て取れるものばかりであった。エレガントに響いた「SAY YES」が、更なるドラマティックさと厳かさと荘厳さを帯びて響かせれば、常に前回を超える活動、前回を超える楽曲や作品を贈り出してきたASKAの活動の縮図であり信条のような「今がいちばんいい」、また、初日に「最近できた新曲が凄くいい。ちょっとみなさん驚くと思う。自分の中でも最高傑作なので早く聴いてもらいたい」と語り、あの日は披露されなかったものの、それをいち早く聴いてもらいたい気持ちから、この最終日になんとか間に合わせ、その際の誓いを果たしてくれた新曲「歌になりたい」の際には、作品にも参加するパリ木の十字架少年合唱団も映像と歌声で共演。そこに交響楽団の素晴らしい演奏も融合し、合唱団のピュアな歌声とASKAのこれからも強く生きていくとの想いが込もった歌、そして壮大で生命力溢れる交響楽団の演奏が奇跡的なコラボレーションを魅せ、神聖なる永遠性を感じた。

最後は深々とお辞儀をしてステージを去りつつも、鳴りやまないカーテンコールに何度も挨拶に登場してくれたASKA。まさしくこれからを感じさせてくれる、「今がいちばんいい」を身体中に満たしてもらい、帰路につくことが出来た。そして最後に、ASKAが満場に真摯な気持ちを込めて伝えた、「みなさん長い間待っていてくれてどうもありがとう!」の言葉。あれが今でも耳から離れてくれない。

なお、2019年2月6日からは自身のバンド・ツアー、2019年6月にはアジアツアーの開催を予定している。


取材・文/池田スカオ和宏

<セットリスト>
プレリュード On Your Mark
1.熱風
2.Man&Woman
3.はじまりはいつも雨
4.同じ時代を
5.迷宮のReplicant
6.しゃぼん
7.FUKUOKA
8.未来の人よ
9.修羅を行く
10.MIDNIGHT 2CALL
11.君が愛を語れ
12.月が近づけば少しはましだろう
13.YAH YAH YAH
14.PRIDE
Encore
En-1.SAY YES
En-2.今がいちばんいい
En-3.歌になりたい