脚本は『ラヴソング』『刑事ゆがみ』などの倉光泰子と三浦駿斗、演出はPerfumeや星野源などのミュージックビデオで知られる関和亮が務める。関にとってプライムタイムのドラマ演出は今回が初。
第1話はまさかのSMAP公開謝罪をもとにしたストーリーだった。昨今のアイドルに関する諸問題も想起させるものにもなっている。初回視聴率は9.3%。

こんなに違う! 泉里香の扱い
まず、ドラマ冒頭でテレビ局の女性記者・東堂(泉里香)への政治家によるセクハラ問題をスムーズに片付ける氷見江(竹内結子)。彼女は法律事務所の危機管理専門弁護士である。氷見はその後も東堂と持ちつ持たれつの関係を続ける。両者ともしたたかだ。
政治家によるテレビ局の女性記者へのセクハラは、昨年の財務省・福田淳一事務次官(当時)によるセクハラ問題がモチーフだろう。現実は世の男性から「ハニートラップではないか」と女性記者へのバッシングが巻き起こったが、ドラマの中では問題が表に出ることなく、セクハラを行った側だけが痛みを引き受ける形で示談となった。
泉里香といえば『SUITS スーツ』の第1話の冒頭にもパワハラ被害者として登場したが、パワハラは狂言で実は産業スパイだったというオチがついていた。同じフジテレビの弁護士ドラマでも、女性への見方がこんなに違うのかと驚かざるを得ない。
国民的アイドルグループを縛る巨額違約金
新たな依頼人はミナトテレビのプロデューサー、深川(宇野祥平)。彼の番組に出演する国民的女性アイドルグループ、フォレストが大炎上していたのだ。
きっかけは放送中にメンバーでリーダーの杏里(馬場ふみか)がセンターの桃子(中村ゆりか)を突き飛ばして暴言を吐いたこと。フォレストの4人は冠番組『フォレスタ』で公開謝罪することになっていた。そこで氷見ら危機管理のプロたちが雇われた。
きっかけこそ違えど、誰もが国民的アイドルSMAPが『SMAP×SMAP』で公開謝罪を行ったことを想起する筋立てだろう(ちなみに『フォレスタ』の放送時間も『スマスマ』と同じ夜10時から)。杏里は「誰に謝るんですか?」と謝罪を拒否するが、これは正論。だが、それでもアイドルたちは謝らなければいけない状況に追い込まれる。最近ではNGT48の山口真帆が暴行事件の被害者だというのに公演で謝罪をさせられて問題となった。運営側が人前に出てきたのはその後のことである。
アイドルたちは違約金でも縛られている。
苦しむアイドルと、アイドルを商品としか考えない運営(芸能事務所)、すぐに手のひらを返すファンと世間、視聴率がすべてのクライアント。その中間地点にいるのがテレビ局のスタッフということになる。依頼人の深川が言う。
「ウチみたいな局のプロデューサーは、番組作るんじゃなくて忖度が仕事なんです」
フジテレビのテレビマンたちの贖罪
リーダーの杏里はグループを今すぐ解散したがっていた。なりたくてなったアイドル。成功するまでにさまざまな苦労を積んできた。だが、誰かが作り上げた虚像に自分をはめ込み続けることに限界を感じていた。逃げ出した杏里を保護した氷見のパートナー、与田(水川あさみ)はこう語りかける。「あなたたちの苦しみを理解する大人が少なすぎたのかも」。
事件の真相を知っていると思われた元マネージャーの海老原(水野智則)は氷見にこう言う。
騒動の核心はメンバーの桃子だった。「小さい頃から何か違うって。でも誰にも言えなくて、ずっと隠してました」。彼女の違和感は自分の性に対するものだった。メンバーはそれを理解し、マネージャーの海老原は彼女のためにグループを脱退させようとしたが、訴えは事務所社長の森尾(小木茂光)にひねり潰された。
「まわりのイメージを裏切ったらいけないっていうのはわかってました。でも、身体と気持ちのコントロールができなくて」
炎上は杏里がわざと起こしたもの。グループ内の諸問題をリークしてのはメンバーのゆず季(『カメラを止めるな!』の秋山ゆずき)だった。彼女たちは意図的に騒ぎを起こして、事務所をクビになろうとしていた。それが精一杯の抵抗の方法だった。
「このまままわりのイメージに合わせて抑圧されながら生きていくほうが波風は立たないでしょうね。
収録の予定だった『フォレスタ』は緊急生放送に。「もうやるしかないですよ」と歩きはじめた深川の歩みからはテレビマンの血の静かな沸騰を感じる。氷見は周到にテレビマンたちに話を持ちかけていた。生放送で彼女たちのラストステージを演出するのだ。テレビマンたちがフォレストの決意を支持するところでちょっと泣けた。
カメラに向かって謝罪を終えた後、桃子はまっすぐ見据えてこう言う。
「私たちは自分たちの未来を、自分たちの意思で決定し、前進していくことに決めました」
事務所社長の森尾に対しては、政治家への贈賄の証拠を氷見が掴んでいた(政治記者・東堂の協力による)。この証拠を世に出さない代わりに、フォレストに違約金を課さないという取引である。フォレストの解散は世間の支持を集め、深川の仕事も社長に認められた。騒動と炎上を収めて一丁上がりである。
結論を言うと、第1話は「あのときこうだった良かったのに」という視聴者と作り手の願望を詰め込んだ一種の平行世界ドラマだった。「本当はこうしたかった!」というテレビマンの本音と反省、贖罪と言ってもいいかもしれない。
バカリズムが演出するシスターフッド
「世の中の30代半ばの働く女のイメージは違うんだよ。こう何か、さみしくて、乾いてて、すさんでるの。そのイメージを崩そうとすると、“年齢に抗おうとする痛い女”っつって叩かれるの」
「なんか腹立つ~」
『QUEEN』は竹内結子の単独ヒロインものかと思いきや、水川あさみとの純然たるバディ(相棒)ものだった。上記の会話のとおり、ふたりは抜群に息の合ったところを見せている。2人の活躍がなければ事件も解決しない。
法律事務所のボンボンの副社長・鈴木を演じるバカリズムが出演だけでなく“キャラクター監修”を務めているのがミソ。日本では聞き慣れないポジションだが、バカリズム自身は「法律事務所内でのちょっとしたやり取りが笑えるように手を加えたりしました。緩急の“緩”の部分。観てる方は、どこをどうしてるか意外と気付かないはず」と語っている(お笑いナタリー 1月9日)。氷見と与田のバディ感、真野(斉藤由貴)も含めた女3人のシスターフッド感(最後、小包を開けるところでは抱き合っていた)は、高い評価を得たバカリズムの脚本作『架空OL日記』の延長と言えるだろう。
演出に関しては、トリッキーさはなく、落ち着いた印象。画角へのこだわりと抑え気味の色調、服装や小道具に凝ることで、画面に格調と奥行きを与えていた。
舞台となったミナトテレビは明らかにフジテレビ。余談だが、フジテレビで「ミナト」といえば、『とんねるずのみなさんのおかげです』での木梨憲武のモノマネで有名になった港浩一プロデューサーを思い出す人もいるかもしれないが、港氏は現在フジテレビを退社して共同テレビの社長に就任している。同社は視聴率がふるわないフジテレビを尻目に、テレ東『孤独のグルメ』、NHK『チコちゃんに叱られる!』などのヒットを連発。なんとなく皮肉めいたネーミングだと感じた。なお、本作の制作著作も共同テレビである。
本日放送の第2話では大手広告代理店のクリエイティブディレクターによるセクハラ問題が取り上げられる。いいぞもっとやれ。今夜10時から。
(大山くまお)
「スキャンダル専門弁護士 QUEEN」
脚本:倉光泰子、三浦駿斗
音楽:SOIL&"PIMP"SESSIONS、田熊理秀、ハセガワダイスケ
主題歌: YUKI「やたらとシンクロニシティ」(エピックレコードジャパン)
プロデュース:貸川聡子(共同テレビ)、櫻井雄一(ソケット)
演出:関和亮、横尾初喜、山岸聖太、戸塚寛人
制作著作:共同テレビ