2月22日の公開に先立ち、映画撮影と並行して撮り下ろしたという『写真集 ねことじいちゃん』を昨年12月に発売。さらに今年1月からは写真展の全国巡業がスタートした。

猫写真の第一人者として知られる岩合監督だが、猫に“演技をつける”のは今回が初チャレンジだったという。猫写真家が撮る「猫映画」とは一体どんなものなのか? 撮影エピソードを監督に聞いた。

猫と人がゆったり暮らす島
──「ねことじいちゃん」プロジェクトはどのようにして始まったのですか。
岩合 この映画は、ねこまきさんという漫画家による同名のコミックエッセイが原作です。もともと大好きな作品でしたので、映画化のオファーを受けた時、その中の1シーンがばっと頭に浮かんできたんです。「そうだ、あの島でこのシーンを撮ろう」という思いがふくらんで、監督を引き受けてしまいました。
──あの島、とは?
岩合 佐久島(さくしま)という、愛知県の三河湾に浮かぶ小さな島がこの映画の撮影地です。10年ほど前に初めてこの島を訪れた際、アサリ漁から戻ってきたおじいちゃんおばあちゃんが、猫たちと並んで黒壁集落を歩いていく光景が印象的でした。猫と人がとても良い関係で暮らしていて、映画の主人公である大吉さんとタマに重なったのです。

初監督と初主演。志の輔師匠は「かけがえのない同志」
──監督がロケ地を選ばれたのですね。
岩合 主役は誰がいいかと考えた時、落語家の立川志の輔師匠がイメージにぴったりだと確信しました。最初は「そんな大役とても無理だよ!」と断られましたが、あきらめずに何度も電話して、師匠でなければこの映画を撮るつもりはないと伝えて。最後には「あなたは初監督、私は初主演。そこまで言うなら一緒に挑戦してみましょう」とおっしゃってくださいました。
──落語家の方が映画の主演をなさるというのは、珍しいことだと思います。
岩合 志の輔師匠は、元校長先生という大吉さんの役柄そのものの、真面目で情に厚い方です。休憩時間にはいつも相棒のタマをかわいがって、役に入り込んでおられました。落語がひとりで行う芸であるのに対して、映画はたくさんの役者やスタッフが団結して組み上げていくものです。師匠はクランクアップの日には号泣して、撮影チームとの別れを惜しんでくださいました。これにはもう、ぼくも涙が止まりませんでしたよ。

アドリブ満載の名演技を見せる猫たち
──猫ちゃんたちも、この映画に欠かせない役者ですね。
岩合 ぼくがこの映画に自信を持って言えるのは、「すべてのシーンに猫が登場する」ということ。実はこの猫探しにも苦労しました。
──ではどうやって猫のキャスティングを?
岩合 動物プロダクションというのがあって、撮影現場に慣れた猫たちが所属しています。いくつものプロダクションを見てまわって出会ったのが、キジトラ柄のベーコンくんでした。この子はものすごく人懐っこいうえに、飛行機が頭上を通っても動じないほどの肝っ玉の持ち主です。最終審査で志の輔師匠と並んで歩いてもらったら、師匠の顔を2回見上げたんです。ぼくは思わず「それ本番でもお願いします!」と声に出してしまって。ベーコンくんは本当にやってくれました。

──猫が演技をするのですか? 訓練されている?
岩合 ぼくは猫に命令しませんし、演技もさせません。ただお願いをします。撮影中は毎朝ベーコンくんのところに行って、「タマ、おはよう」とまずあいさつ。「今日撮るシーンは42〜48ページで、きみはここに出るからね」などと言って台本を読み上げる。
──それで実際に脚本通りに動いてくれるのですか。
岩合 そうなんですよ。志の輔師匠がばさっと新聞を開いたら、その上に乗ってくれたりとか。師匠は「すごい猫だ!」と感心していましたが、それ以上にぼく自身がびっくりしました。
──さすが岩合監督というか……、すごいですね。猫と通じ合っている。
岩合 でも、必ずしも希望通りに動かなくてもいいんです。思いもよらぬ失敗、たとえば猫が木から落ちたりするような場面って、猫好きにとってはたまらなく愛おしい。アドリブを上手に生かして撮ります。OKを出した後はタマのところに駆け寄って「きみはスーパーキャットだよ!」とべた褒めです。先日、志の輔師匠が高座でこの映画の話をしてくださった時には、「監督は猫しか褒めない」と言われてしまいました(笑)。

写真は「映画の原作」
──今回、映画とあわせて写真集、写真展を展開されるということで、撮影はどのように行われたのでしょうか。
岩合 ムービーカメラマンが映像を撮っているすぐ横で、ぼくがスチールのカメラを構えているんです。カットした後には急いでモニターに戻ってチェックします。大変でしたよ、もう二度とできないと思う(笑)。「監督、モニターを見てください!」とよくスタッフに怒られました。
──同じシーンを動画と写真で同時に撮ると、そこにどういった違いが現れますか。
岩合 厳密に言うと、レンズの位置が数十センチ離れます。不思議ですけど、たったそれだけのことで、スチール写真にはぼくの思いが写ります。それを感じたのはタマが魚と戯れるシーンの撮影で、プロデューサーが「写真ってすごくいいですね」と言ったんです。彼女にはその時、映画のシーンよりも写真の方が良く見えたのかもしれないですね。
──写真には監督ご自身の目線で見たものが、そのまま写っているような。
岩合 いわば「映画の原作」みたいな感じでしょうか。

──最後に。猫の魅力を最大限に引き出す写真を撮るコツを教えてください。
岩合 とにかく猫のことだけ考える。自分はこう撮りたいとか思わずに、その猫らしさを出すことを一番に考えて、観察します。猫が嫌がることを絶対にしないのも大切です。たとえば、じっと見つめすぎてはいけない。動物は目と目を合わせると敵対していると判断します。目が合ったらまばたきしたり、目線を少し外したりして「きみのことが好きだよ」と信号を発すれば、相手は安心して自然な表情を見せてくれるはずです。
「ねことじいちゃん」映画公式写真展
・富山:開催中〜1月27日 @富山市民プラザ
・名古屋:2月5日〜3月21日 @テレピアホール
・大阪:2月16日〜3月4日 @大丸心斎橋店
ほか順次開催予定。詳細はこちら
(小村トリコ)