「AI運行バス」はどうやって配車している? 人工知能技術の仕組みを聞いた

AIを活用し、乗りたいときに行きたい場所まで最短ルートで運んでくれる「AI運行バス」の実証実験がこのほど、横浜臨海地区(みなとみらい21・関内エリア)で行われた。AI運行バスの仕組みを株式会社ドコモ、株式会社未来シェア、国立研究開発法人産業技術総合研究所の担当者に聞いた。


AI運行バスとは?


「AI運行バス」はどうやって配車している? 人工知能技術の仕組みを聞いた

AI運行バスとは、オンデマンド型公共交通サービスだ。利用者はスマホアプリなどを通して行きたい場所と乗降ポイントを選んだら、予約して乗車場所に時間通りに行くだけ。リアルタイムのAI処理により、最適な車両が決定され配車される。

バスには他の乗客と乗り合いの形になる。
普通のバスと違うのは、主に以下の3点だ。
・配車予約ができる
・乗降ポイントが複数選べる
・最短で効率的なルートで目的地まで運んでくれる

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構の委託事業の一環として実施された「横浜Maas『AI運行バス』実証実験」では、横浜臨海地区(みなとみらい21・関内エリア)で、横浜ランドマークタワーや横浜中華街朱雀門をはじめとした計31の乗降ポイントが設置され、実際にお客さんを乗せて運行した。


人工知能による“知的配車”の仕組み


「AI運行バス」はどうやって配車している? 人工知能技術の仕組みを聞いた

今回の実証実験で用いられたAI運行バスシステムには、随所にAI技術を採用している。具体的には、人工知能技術の一つである「マルチエージェントシミュレーション技術」と「最適化技術」の2つだ。

担当者によると、これらのAI技術を「1.交通の最適化」と「2.商業施設へ提供する属性別来街者予測」で活用しているという。

それぞれの特徴をみていこう。

1.交通の最適化


「交通の最適化においては、移動手段の供給の最適化でAIシステム『SAVS(Smart Access Vehicle Service)』を活用しています。AI運行バスで使っているAIは『マルチエージェントシミュレーション技術』と『最適化技術』です」

●マルチエージェントシミュレーション
「マルチエージェントシミュレーションとは、人工知能で知的にふるまうプログラム(エージェント)を多数用意し、それらがいろいろやり取りする、言ってみればエージェントの社会を計算機の中に作るものです。これを実際の社会的な現象にあてはめて、人間社会のシミュレーションをしようというものです。今回の場合は、『交通システムとそれを利用する人』という社会の側面を、エージェント社会としてシミュレーションして、最適な配車や効率を計算しています」

●最適化技術
「最適化技術は、人工知能技術の根幹の一つです。人工知能が戦う囲碁・将棋のゲームが話題ですが、ある種の最適化技術を使っているといえます。
AI運行バスでは、この技術を最適な乗り合い配車や、最適な運行台数を求めるのに使っています。
現在開発中ですが、NTTドコモがAIタクシーでいち早く実用化している『リアルタイム移動需要予測技術』と『SAVS』を融合させ、顕在化した移動需要に加え、近未来の移動需要も含め、移動需要と移動手段の供給のさらなる最適マッチングをめざしていきます」

このリアルタイム移動需要予測技術では、さまざまなデータを活用して、人々の乗車需要を予測するそうだ。

「運行データや気象データ、周辺施設データなどの多様なデータに加え、ドコモの『モバイル空間統計』のリアルタイム版である『近未来人数予測』を活用し、日本各地の性別や年齢層など、属性ごとの人数分布の移動による変化をリアルタイムに把握しながら、各データを人工知能で分析することにより、乗車需要を逐次予測します」

2. 商業施設へ提供する属性別来街者予測


「商業施設へ提供する属性別来街者予測のAI技術は、AI運行バスのアプリに掲載する商業施設情報の施設向け情報発信用ツールにも実装しています。これはドコモの携帯電話ネットワークの仕組みを利用して個人のプライバシーを保護した形で得られる、直近過去までの日本全国1.2億人の属性別人数分布データに対して、NTTグループのcorevoの技術の一つである、時空間変数オンライン予測技術を適用して、面的な人数変化を逐次学習し、現在そして近未来の人数分布を予測するものです。逐次学習することから、突発的な人数の変化、周期性のない人の動きにも対応できる技術です。

これにより、例えば、若い女性が現在~1時間の間に多く集まっていると分かれば、スイーツ企画を情報発信して集客しようということが可能となります。AI運行バスのアプリを持っている人は今まさに当該エリアにいる方が大半となります。
その方々にとって魅力のある情報配信をするには、配信の仕組みだけでなく、これまで個々の店舗の方では入手がむずかしかった現在、そして近未来の属性別人数分布が役に立つという声をいただいています」

NTTドコモでは、移動と移動の先にある目的地・サービスとのデータ連携・システム連携により新たな価値を創出し、交通最適化に加え、地域経済の活性化をめざしている。
「AI運行バス」はどうやって配車している? 人工知能技術の仕組みを聞いた


交通手段がない・高齢者にもニーズあり!


このAI運行バスなら、配車機能により、従来よりも楽に、かつ効率的に好きなところに行けるようになるかもしれない。そしてその他にもメリットがあるという。

「このような便利な公共交通を提供することで、既存のバス・タクシー利用者だけでなく、自家用車を使っている人や、交通手段がなく引きこもってしまっている人にも利用してもらいたいと考えています。このように利用者が増えれば、町中を走っている車の台数も減ることになり、渋滞の解消やCO2排出削減のほか、高齢者などの外出機会増加による健康寿命の増進などが期待できます」

途中で興味の湧いたところに停まってもらうなど、行き先変更は可能なのだろうか? 

「今、提供しているシステムでは、途中での行先変更はまだむずかしいです。ただ、将来的にはそのような要望にも応えられるようにしていく予定です。
未来シェアとNTTドコモは商業施設などの移動の先にある目的・サービスとの連携や、他の交通機関との連携など、より便利であり持続可能な移動サービスを増強していきます」

AI運行バスの交通最適化機能については、各地で実績を積み重ねており、直近では2019年1月25日から2月24日まで、札幌市で1日乗り放題3,000円(税込)で観光用で運行している「さっぽろ観光あいのりタクシー」でも利用されたという。今後、他地域でもAI運行バスが導入されるときがくるだろう。


【取材協力】
株式会社NTTドコモ
法人ビジネス本部 IoTビジネス部 先進ビジネス推進・ビジネス推進 担当課長
槇島 章人さん

株式会社未来シェア
代表取締役 松舘 渉さん

国立研究開発法人産業技術総合研究所
人工知能研究センター総括研究主幹
野田 五十樹さん


AI運行バス

(石原亜香利)