『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)の第4話が2月9日に放送された。(関連)
坂口健太郎「イノセンス」殺したいと思った私は無罪になっていいのか「心の中は裁けない」苦しみは続く4話
ドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」 オリジナル・サウンドトラック/バップ

検察と弁護士が争い、判決を導き出すのが裁判。
被害者の無念を受け、加害者を法で裁こうとするのが検察。一方、被疑者から依頼を受けて共に戦うのが弁護士だ。
しかし、弁護士・黒川拓(坂口健太郎)が追求するのは「勝利」ではなく、あくまで「真実」である。

今回、拓は会社の後輩・姫島理沙(入山法子)の殺害容疑をかけられた食品玩具メーカー勤務・小笠原奈美(ともさかりえ)の弁護を担当することになった。

奈美 私も彼女を妹のように思ってました。そんな彼女を私が殺すなんて、絶対にあり得ません。絶対に。
 それはわかりません。相手に好意を持っているからといって殺すはずがない……なんてわかりません。

いきなり、接見でこんなつれないことを言う弁護士がいるだろうか。オブラートに包まず、本音全開。被疑者だって面食らうはずだ。

「心の中のことは誰にもわかりませんから」(拓)
頑なである。

両親に顔を見せるため、拓は実家に寄った。拓の父・黒川真(草刈正雄)は最高検察庁の次長検事である。真は拓に忠告する。
「犯罪者は嘘をつくし、隠し事もする。それを前提にしなければ振り回されるだけだ」

奈美は拓に隠し事をしていた。そのせいで、裁判の形勢は不利になってしまった。人の心の中なんてわからない。

目に見える仲の良さと、目に見えない憎しみの感情


奈美は理沙を「妹のよう」なんて思ってなかった。それどころか、逆恨みをしていた。検察の主張でその事実を知った弁護側は、奈美に詰問する。どうして教えてくれなかったのか!?
「どうして話さなかったか? それ、本気で聞いてるんですか。
どうしてって、言えるわけないでしょ! 言ったら絶対、私が殺したって思われるじゃない!」(奈美)

ここに来て、ようやく本心をさらけ出す奈美。
「私には無かったデザイナーの才能があの子にはあった。私は浮気ばっかり繰り返す男に8年もすがってたのに、あの子は幸せな結婚をした。私が介護と仕事で疲れ果ててる時、あの子はキラッキラした人生を思いっ切り楽しんでた。そんなの、悔しいに決まってるでしょ」(奈美)

奈美は拓たちに本心を隠していた。そして、理沙にも本心を隠していた。
「狭い会社の同じ部署にいるのに。えっ、距離を取ればよかったの? できるわけないでしょ、そんなこと! 余計、惨めになるだけなのに」(奈美)

奈美は心の中で「理沙がいなくなればいい」と思っていた。その感情を知っているのは奈美本人だけ。目には見えない感情である。
だから、理沙は奈美を慕った。社内の同僚たちも「あの2人は仲が良い」と思っていた。
理沙と同僚に事実として残っているのはその印象のみ。社内で奈美と理沙は“仲良しの2人”として通っているし、理沙にとって奈美は“いい先輩”のままである。

目に見えない“心の中”ではなく目に見える事柄を、拓は弁護士として重視する。
「あなたは殺してないんですよね? ここまで本音をさらけ出したのに、あなたは一言も『殺した』とは言っていません。どんなに嫌いでも、殺してやりたいと思うくらい憎んでいても、本当に殺してしまうかなんてわかりませんから」
「いなくなればいい」の感情と、本当に殺してしまうのとでは全く違う。裁判は、実際に起きた目に見える事柄を争点にする場である。

最終的に、奈美は無罪を勝ち取った。2人で旅行をした奈美と理沙。旅行先で、奈美は理沙へ唐突に別れを告げた。“友情の証”として2人で作ったペンダントを奈美は海に投げ捨てた。そして、奈美はその場を立ち去った。奈美は理沙のことを嫌っている。
奈美を慕う理沙は、ペンダントを拾うため海へ突き進んだ。理沙は奈美が投げ捨てたペンダントを発見した。直後、理沙は波にさらわれて命を落とした。

奈美は理沙を殺していない。でも、死のきっかけは作っていた。
奈美 だったらやっぱり、理沙は私のせいで……
 これは事故です。殺人ではありません。あなたは彼女のことを憎んでいたのかもしれない。そして、事故の原因もあなたが作ったのかもしれない。でも、これは事故であって、あなたが殺したわけではありません。

拓の言っていることが、全く奈美の救いになっていないのだ。奈美は無罪になった。
しかし、自分のせいで罪のない後輩が死んでしまった。奈美は、その罪悪感を一生背負い続けていく。

奈美 殺人ではなくても、私が理沙の死を招いたことは事実ですし。理沙と自分を比較して、妬んで、逆恨みで嫌って。つくづく、自分の醜さを思い知らされて。それでも、私は本当に無罪になって良かったんでしょうか?
 心の中を裁くことはできません。

「殺す」とは思わなかったが、ともすれば「殺してやりたい」の感情を奈美は抱いていた。しかも、理沙に事故のきっかけを与えている。ただ、法の下ではシロだ。
外見上は優しかった奈美は理沙のいい先輩のままであり、殺害を実行に移していないから無罪。目に見える事柄によって人間社会は動く。しかし、当事者には目に見えない部分で別の事実が存在している。


このドラマは、検事と弁護士を「正義VS悪」という構図で描いていない。「正義は勝つ」という世界観に拓はいない。悩み苦しむ依頼人の心情を理解しながら、自分の領域で拓は職務を全うする。二元論じゃないのだ。冤罪弁護士は“絶対の正義”ではない。潔白は証明しつつ、見えない部分に苦しみを伴った今回。悲しき無罪判決だった。
(寺西ジャジューカ)

『イノセンス 冤罪弁護士』
脚本:古家和尚
音楽:UTAMARO Movement
音楽プロデュース:岩代太郎
主題歌:King Gnu「白日」(アリオラジャパン)
参考資料:「冤罪弁護士」今村核(旬報社)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:荻野哲弘、尾上貴洋、本多繁勝(AXON)
演出:南雲聖一、丸谷俊平
制作協力:AXON
製作著作:日本テレビ
※各話、放送後にHuluにて配信中
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