「名ばかりオーナー」問題、あなたの街のコンビニも危ないかもしれない
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大阪府にあるセブンイレブンのフランチャイズ加盟店が「24時間営業はもう限界」として、営業時間を短縮したことで、本部と対立していることを報じた弁護士ドットコムの記事が注目を集めています。

記事によると、加盟店オーナーは人手不足等を理由に、深夜帯の営業を取りやめたところ、本部から「24時間に戻さないと契約を解除する」と通告され、応じない場合、違約金約1700万円を請求された上、強制解約されてしまうとのことです。


気になって調べて見ると、加盟店オーナーがブラック労働を半ば強制されている現状を報じる記事は以前からあるようでした。とりわけ、昨今の人手不足で、状況はさらに悪化しており、コンビニオーナーのブラック労働は決して一つの店舗の問題ではなく、完全に社会問題のようです。


まさにこれは「名ばかりオーナー」問題だ


これらの記事を見て、ふと思い出した言葉があります。2008年に流行語大賞にもノミネートされた「名ばかり管理職」です。勤務先の飲食店やアパレル店等により、裁量権限が与えられていないにもかかわらず、名目上管理職の役職名だけが与えられ、労働基準法にある「管理監督者は割増賃金の適用外」という規定のもと、残業代ゼロでブラック労働を強いられていたことが当時大きな社会問題になりました。

これになぞれば、今回は「名ばかりオーナー」の問題と言えるでしょう。ショッピングセンター等、物理的に周りに合わせなければならない環境であれば仕方ないとしても、そうでもないのに営業時間の決定権限すらもないのであれば、それは本当にオーナーと言えるのか、疑問でしかありません。

近年、フリーランスであるにもかかわらず、裁量の余地が極端に狭い「名ばかりフリーランス」も大きな問題になっていますが、大企業が支配的な立場であるにもかかわらず、「オーナー」や「フリーランス」等、あたかも相手も自分と対等の関係であるかのように装うやり方に対して、具体的に政治が動く時に来ているのではないでしょうか。


決定権限のない者に責任を押し付けてはダメだ


さらに驚愕なのが、本部とフランチャイズ加盟店は「粗利」を分け合い、人件費等はオーナー負担という点です。これにより、売り上げの少ない深夜帯の営業を行っても本部にはお金が入って来る一方で、加盟店は人件費等が重くのしかかり、赤字になることも少なくないというのです。

会計学では「責任会計」という言葉が存在します。要するに、意思決定権限を有する者のみがその結果として生じる数字にも責任を持つという意味です。

ところが、上記の仕組みはこの責任会計の原則から大きく逸脱しています。24時間営業を行うという販管費に関する意思決定は本部にあり、本部は本来プロフィットセンター(利益に関して意思決定権と責任を有する)であるにもかかわらず、粗利を基準に自身の利益を得ていることから、レベニューセンター(収益に関して意思決定権と責任を有する)としての責任しか負わないわけです。


分かりやすいように一つ事例を出したいと思います。たとえば、売り上げ規模が同じA店とB店があったとします。それぞれ出店を決めたのは本社の店舗開発部ですが、A店はB店の家賃の2倍であり、そのコストの影響により店舗別の利益でA店はB店の半分でした。

にもかかわらず、A店の店長がB店の店長よりも「利益成績が悪い!」と評価され、B店の店長のほうが手厚くボーナスが支給されたらどう思うでしょうか? A店の店長には出店と家賃交渉という意思決定はないのに、その結果が自分の責任として降りかかって来るわけですから、理不尽も甚だしいと思うでしょう。

このように、意思決定と数字に対する責任の一致は本来絶対に守らなければならないことであり、不一致を起こしている評価制度を作る会社はマネジメント能力に著しく欠けていると言えます。従業員から不満が続出するのも当然でしょう。ところが、コンビニ業界はこのような理不尽な仕組みを加盟店に対してシステマティックに強いているわけですから、「支配的立場を利用した搾取」という見方をしても不思議ではないように思うのです。


コンビニは本当に社会インフラになったのか?


前述の記事によると、セブンイレブンが24時間営業をやめることを認めない理由として、「社会インフラだから」と答えているようですが、それは理由にはならないと思います。たとえば、社会インフラである公共交通機関は、それぞれ始発・終電があり、大晦日や元旦を除いて休むことが大半です。

また、病院や役所等も基本的に24時間営業は実施していません。「社会インフラだから24時間オープンしなければならない」という発想は、他の社会インフラにもないはずです。なぜ、コンビニだけが必ず24時間営業しなければならないのでしょうか? その説明には一切なっていないのです。

また、社会インフラは基本的に多くの人の負担によって支えられているものです。
たとえば、道路であれば、税金の投入で整備・保守が行われています。医療に関しても、社会保険料であまねく国民から徴収されているわけです。

ですが、コンビニはどうでしょうか? 確かにコンビニも利用者にとって社会インフラとしての機能に近づいているかもしれないですが、負担の面において加盟店オーナーに過度に依存しており、その点が他の社会インフラとは圧倒的に異なる点でしょう。社会から様々な経済的支援を受けていないのに、加盟店オーナーに社会インフラとして役目だけ押し付けるのは、間違っていると思います。


深夜営業は地域で担当制にしてはどうだろうか?


そして、言わずもがな、私たち利用者も今一度コンビニの利用について、考え直さなければなりません。自分自身も夜働いているという人もいるとは思うのですが、なるべく早い時間帯に購入を終えて、深夜帯での利用は控えるべきでしょう。

先日、JR東日本が新幹線や特急列車での車内販売を大幅に縮小するニュースがありましたが、しっかりお弁当や飲料を事前に持ち込む乗客が増え、販売が低迷したことが原因とのことです。それと同じで、日頃からもう少し計画的に消費を行うことで、コンビニの深夜利用を抑えることは可能ではないでしょうか?

また、仮にどこかのお店で深夜も営業して欲しいというニーズがあるのであれば、地域のコンビニが病院の休日診療のように交代で深夜営業を担うという仕組みはどうでしょうか? 幸いにも今はスマホという大変便利なツールがありますから、通常の営業時間を越えて行きたい場合に深夜営業を担当している店舗がどこかサクッと調べられるようになれば、交代制でも十分に深夜ニーズに応えられるはずです。

私たちの生活は本当に便利になりましたが、それが当たり前になり過ぎると、その仕組みを支える人々に様々なしわ寄せが行っていることが見えなくなってしまうことがしばしば起こり得ます。「もしかしたら自分が享受しているこの便利さは誰かの犠牲の上に成り立っていないだろうか?」と常に考えることが、私たち一人ひとりにできることではないでしょうか。
(勝部元気)
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