バレンタインデーや恵方巻きという「ハレノミクス」が格差社会を助長している

ロフトが1月20日から展開しているバレンタインデー企画が、表面上は仲良いのに裏ではいがみ合っている女性5人組のイラストを使用し、インターネット上で大きく炎上しました。合わせて公開された動画でも、足を引っ張り合う希薄な友人関係を揶揄しているように描かれており、「女の子って楽しい!」「…てかやっぱ女子だけって落ち着く~」というフレーズとは真逆の内容になっています。


仮にそのような関係が誰かにとってはあるあるネタだとしても、それを「女の子」や「女子」と大きな主語でまとめた点がアウトでした。これにより、「面従腹背」が女性の友情の典型例であるという女性蔑視的な偏見や嘲笑と受ける人が出るのも当然です。男性の5人組キャラに入れ替えて、男の友情を揶揄する表現にしてみれば、それがいかに不愉快なものか、分かる男性もいるはずでしょう。

しかも、このイラストはギフト用の袋にも使われているとのこと。多くの女性はバレンタインデーのチョコレートを仲が良い友達等に渡すわけですから、「いがみ合っている絵なんて渡せるはずないよ!」という人も多いはず。もらったほうも、「え?何?本当は私のこと嫌いって意味?」と疑心暗鬼になることも十分考えられるはずです。ロフトはチョコを売る気があったのでしょうか?正気を疑います。


裏では仲が悪いのは女子友ではなく日本の職場では


そもそも、「面従腹背」の関係は女性の友人間よりも、職場の中にこそ蔓延しているという人も多いのではないでしょうか? 職場の上司や先輩の前では一応波風立てないように振る舞っていても、裏では恨みつらみを家族や友人に漏らしている人は、男女関係無くこの国にごまんといるはずです。

そして今年も2月14日は残念ながら平日なので、勤務先で「義理チョコ」ならぬ「義務チョコ」をあげなくてはならないということに辟易している女性も多いと思います。チョコをもらう男性の側も、仲が良いわけでもない人からもらう心理的負担や、お返しの負担のほうがもらえる嬉しさを上回っているという人もかなり多いのではないでしょうか? 

実際、日本法規情報が「バレンタインデーに関する実態調査」の結果を発表し、職場でのバレンタインデーを社内規程で禁止することについて聞いたところ、「良いと思う」と回答した人が69%に及んだそうです。バレンタインはもはや「因習(=弊害を生んでいる古くから伝わるしきたり)」になったと見なすのが良いのかもしれません。


恵方巻きを見て思う「日本の消費者は賢い」の嘘


反対に、新しい風習が物議を醸し出す場合があります。その代表格が、食品ロス問題が毎年のように続いている恵方巻きです。もちろん工夫をして廃棄を少なくしようとする小売店もあるようですが、結局のところ今年も大半の売れ残りが廃棄されてしまっているようです。


なぜ毎年ニュース等で問題だと取り上げられながらもずっと廃棄が続くのか、不思議に思う人もいるかと思います。もちろんおせち等に比べて予約する人が少ないこともですが、一番の原因は、かなり強気の価格設定をしても(=消費者にとってはかなりコスパが悪くても)、消費者が平気で衝動買いをしてくれるため、廃棄するコストよりも売上を逃すロスのほうが大きいという構造があるからでしょう。

つまり、消費者が「コスパが悪いから買うのをやめる」「どうしても欲しい場合は自分で作る」という賢い選択をしないからです。「日本の消費者は賢い」と自画自賛する人は少なくないですが、少なくとも原価率の低い恵方巻きに踊らされているケースを見れば、決して賢いとは思えません。特定のお店に行列が出来ることに関しても、「時間はコスト」を認識できていない人がたくさんいるがゆえに起こる現象ですが、このような「皆がしていること」に関して、日本の消費者は思考停止になる傾向があるように思います。


いつまで日本経済は『ハレノミクス』で消耗するのか


一方、恵方巻きに「自分の地域ではそんな風習無かった!」と批判する人もいますが、私はその批判方法は間違っているように思います。あらゆる伝統行事や風習はどこかの一地域から全国規模に広まったわけであり、ルーツが一部の地域にあることは決して悪いことではありません。

問題はそれが文化的に広がったのではなく商業的に広められたことであり、かつそのことに何の疑いを持つことも無く、皆一緒にただ真似するだけの人たちの存在でしょう。結局のところ、恵方巻きという風習自体は新しくても、それは皆が同じ日に同じものを購入するという『#連れ消費』であり、それを売上増のために煽る『#ハレノミクス』という手法は戦後何度も繰り返し行われて来た古い方法に過ぎません。

ですが、ハレ(非日常)の日に需要が集中することは、様々な弊害を生みます。朝日新聞社WEBRONZAに寄稿した記事『ポスト平成のGW10連休は国民を幸せにはしない ~次の時代も「みんな一緒」の休み方を続けるのか~』では、今年のGWが10連休でも交通費や宿泊費が高くて旅行に行けないという人がたくさんいることを紹介しましたが、「みんな一緒」という横並びの消費では需要が集中するため、当然モノやサービスの価格は高くなります。

食品であれば賞味期限があるので、一年を通して需要を平準化できず、工場の生産ラインを過剰に持つことになります。道路の渋滞や鉄道の満員電車が発生するのも需要が集中しているからであり、それを対策するためには過剰なインフラを整備しなくてはならず、無駄に税金が投与されるわけです。



「ハレノミクス」が格差の拡大も生んでいる!?


みんな一緒の「連れ消費」「ハレノミクス」は、雇用の面から考えてもマイナス面が非常に大きいと感じています。製造する側やサービスを提供する側は、需要が少ない時期に大量の従業員をサボらせるわけには行かないので、なるべく正規雇用は抑えた上で、繁忙期にだけ非正規雇用で補うという方法を取ります。需要が平準化していれば雇用も安定させることができたものの、需要が不安定であるために雇用も不安定にせざるを得ないわけです。

つまり、「ハレノミクス」が雇用の不安定化を生んでいる大きな要因の一つだと思うのです。経済格差の拡大が世界中で問題になっている中、少しでも雇用を不安定化する要因は取り除くべきであり、「ハレノミクスをやめる」ことも重要な選択肢だと思います。

ですが、プレミアムフライデー等を推奨する安倍政権は、完全に真逆の方向に向かっているようにしか思えません。最近は、社会主義を志す若者も一部で再び増え始めているようですが、資本主義自体が悪いのではなく、市場の失敗を是正する絶え間ない努力をせず、失望を招いた政治が悪いのではないでしょうか。

なお、損失を被るのは労働者ばかりではなく、企業も同様です。たとえば、多くの企業が横並びで毎年4月1日に人事異動を行うために、春に引っ越し需要が集中し、人手不足にあえぐ引っ越し業者が対応できず、「引っ越し難民」が毎年大量に発生し、経済活動に悪影響を及ぼすのも、まさに「みんな一緒に」という人事慣習が原因であり、あまりに愚かな光景です(それとは別に、望まぬ転勤・配置展開は一切やめるべきだと思います)。


オフピークギフトをすれば幸福度も上がる!


拙著『恋愛氷河期』では、良好なパートナーシップを長期的に維持するためには、「ハレ(非日常)」という特別なイベントごとに力を入れるよりも、「ケ(日常)」のコミュニケーションをもっと深めることに重点を置くべきであると説きましたが、消費や休暇に関しても同じことが言えるのではないでしょうか。

恵方巻きを食べることにしても、チョコレートをプレゼントすることにしても、風習そのものをやめるべきだとは決して言いませんが、「みんな一緒」ではなく、もっと各々が自分の好きな時期に行うようにするべきだと思うのです。あげたい時にあげる「#オフピークギフト」をすれば、同じ価格でもたくさんの量やより価値の高いものをあげることができるわけで、日本の消費者はそういう面で賢くならないといけないと思います。

「それだと行事感が無くなる!」というのであれば、たとえばその月の自分の誕生日と同じ日に行う(たとえば7月8日生まれの人は2月8日に恵方巻きを食べる)ようにすれば、多少は弊害も抑えることができると思います(29日~31日生まれの人は翌月になってしまいますが)。


テクノロジーやインターネットサービスが進化したことで、自由な消費行動が以前よりも簡単にできるようになりましたが、人間の行動がいつまでも前時代的な「みんな一緒にハレノミクス!」では何の意味もありません。経済発展著しい中国が「独身の日」で盛り上がるのは分かりますが、成熟した日本経済はもうそろそろそういうやり方は卒業する時期に来ているのではないでしょうか。
(勝部元気)
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