菅田将暉主演のドラマ「3年A組─今から皆さんは、人質です─」が最終章に突入する。先週放送された第8話では、菅田演じる柊一颯(ひいらぎ・いぶき)が田辺誠一演じるタレント教師、武智の悪事を告発してみせた。
視聴率は初の12%を記録。盛り上がっていきましょう!(9話予告より)
電脳ガール、森七菜
第8話の前半では、柊は3年A組の面々に「自習」を課す。これまでは毎回ハードな課題を与えていたが、「俺の授業」も仕上げの段階に入ったようだ。スマホも返して、SNSへの投稿も自由。ただし、柊は「グッ、クルッ、パッ」が大切だと説く。
「大事な決断をするときは、グッと踏みとどまって、クルッと頭を一周させれば、パッと正しい答えが浮かぶ」
つかの間の平穏な時間を過ごす3年A組の生徒たち。辻本佑香(大原優乃)が歌っているのはオペラ「トゥーランドット」のアリア「誰も寝てはならぬ」。夜明けまでに自分の名を当てれば結婚を諦めて命を捧げようと申し出た王子に対して、冷酷な姫が国民に男の名前を解き明かすまでは寝ることを禁じるというお触れを出した後に歌われる。解き明かせなかったら国民は皆殺しだ。『3年A組』のストーリーそのまんま!
恋バナをしたり、腕立て伏せをしたりしている3年A組にあって、一人で武智が写っていた動画の解析を続けるのが電脳部の堀部瑠奈(森七菜)。特撮ヒーロー、ガルフフェニックスのファンでもある彼女は、景山澪奈(上白石萌歌)を追い詰めたフェイク動画もいち早く解き明かしていた。
堀部は、武智が写っていた動画はフェイク動画で、写っていたのは柊だということを突き止める。武智が卑劣な手段で景山を死に追いやったのは確かだが、なぜ柊はこんなことを――。
みんななかよし3年A組
第8話のクライマックスは、さながら道徳番組で繰り広げられるホームルームのようだった。堀部と同じ電脳部の西崎颯真(今井悠貴)は、武智を救うために動画の公開を主張する。彼は以前、景山へのSNSでの誹謗中傷をカジュアルに拡散していた。彼の拡散は正義感に駆られたものだ。だが、正義感に駆られた人々によるSNSでの集団リンチは人を殺すことがある。その後、景山は自殺した。彼はSNSの暴走の怖さをよく知っている。
今、SNSでは武智バッシングが荒れ狂っていた。そのときに写し出されるのは、宇佐美香帆(川栄李奈)、里見海斗(鈴木仁)、水越涼音(福原遥)の顔。宇佐美はSNSで景山の誹謗中傷を繰り返し、里見は景山への逆恨みでフェイク動画つくりに加担、水越は教師の坪井(神尾佑)を景山殺しの犯人だと決めつけて告発動画を流そうとした。いずれもSNSを利用して人を殺そうとした生徒たちである。
景山を殺したのは柊なのか? 武智を救わなくていいのか? 白熱する3年A組の生徒たちを別室から見つめる柊と茅野さくら(永野芽郁)。
「ブッキーも言ってたけど、私たちの言葉一つで命を奪えるわけだから。責任は重大だよね」
水越の言葉は、ネットにおけるファクトチェックの大切さを言い表したものだ。誰でも一瞬の怒りのもと、SNSで正義の鉄槌(と自分が思い込んでいるもの)を下すことができる。だが、カジュアルなリツイートにも“責任”は発生する。慎重になった生徒たちは、動画に写っていた景山の後ろ姿に不審を抱き、手分けして動画そのものがフェイクだということを突き止める。これはファクトチェックの作業そのものだ。
柊はフェイク動画を使って景山を追い詰めた武智への復讐のため、自分もフェイク動画を作り上げて武智を追い詰めた。わかりやすいストーリーが完成すると、今度はそれに引っ張られる人も現れる。西崎は動画を公開しようとするが、堀部は体当たりで阻止してみっせた。大切なのは「グッ、クルッ、パッ」。
「もっと、ちゃんと考えよう!」
堀部が涙ながらに語った言葉は、柊が毎回言っていた「Let’s Think!」そのものだ。生徒たちの姿を見ていた柊は、涙を流しながらこれまでの授業の成果を噛みしめる。
「一人ひとりが目の前にある問題とどう向き合うべきか、想像力を働かせて、いろんな可能性を鑑みる。自分だったらどうするか。相手が自分だったらどうすべきかを考えて、それぞれの思いをぶつけ合う。俺の伝えたかったことがちゃんと……届いているんだな」
一時の感情で軽率な告発や拡散はやめるべきだ。悪事に対して告発をやめて見て見ぬふりをするのは、巨悪を利することになる。だったら、想像力を働かせ、事実を確認し、いろいろな可能性を鑑みた上で発言すればいい。これが柊が生徒たちに、そしてドラマの制作者たちが視聴者に伝えたかったことだろう。

“ガルム”と“柊”の役割はよく似ている
エンディングでは予想の斜め上すぎる展開が待ち受けていた。学校に単身乗り込んでくる刑事の郡司(椎名桔平)は柊と対峙し、抜群の格闘テクニックで病魔に蝕まれていた柊を追い詰める。そしてついに柊に手錠がかけられようとした瞬間……何者かが郡司を倒して柊を助け出す。その正体は……正義のヒーロー、ガルムフェニックス!
「何これ……?」という茅野さくらの呟きは全国の視聴者の心の声を代弁したものだ。さっきまでシリアスに生徒たちが議論していたはずなのに、どうして主人公のピンチを特撮ヒーローが助けるの? 『トクサツガガガ』でもないのに! なるほど、柊が言っていた「ヒーロー編」ってこういうことだったのか。
中に入っているのは、たぶん柊の先輩スーツアクターのファイター田中(前川泰之)だろう。柊に電話をかけてきた彼は「お前のその手で道を切り開け」と決め台詞を語っていた。「Let’s Think」もガルムフェニックスの決め台詞である。
ガルムフェニックスのガルムとは北欧神話に登場する“地獄の番犬”のことで、現世とニブルヘイム(冥界・地獄)の境界を守っている。むやみに冥界へと近づく者を追い払い、冥界から逃げ出そうとする死者を見張る。なるほど、この世の闇に近付こうとする生徒を守る教師にはぴったりの役名だ。また、柊(ひいらぎ)には棘のある葉があることから、節分に鬼を追い払うために使われている。ガルムと柊の役割はよく似ている。
柊はスーツアクター時代、ヒーローではなく悪役を演じていたが、彼の心にはガルムフェニックスが常にいた。ガルムフェニックスは人々を守りながら、「切り開け」「考えろ」と促すヒーローだ。生徒たちにとって、柊はガルムフェニックスそのものであると言える。
ガルムフェニックスのフェニックスとは不死鳥という意味だが、柊もまた冬でも赤い実をつけることから不老不死の象徴とされている。
さて、今夜放送の第9話だが、冒頭で柊が死んだ数年後の様子が描かれるらしい。これ、いきなりやられたら視聴者はひっくり返っただろうな……。
公式サイトによると、数年後の3月9日、卒業した3年A組の生徒たちが柊の三回忌のために教室に集まってくるのだという。ん? ちょっと待てよ。ということは、柊は3月10日じゃなくて9日に死ぬの? いやいや、三回忌とは死んでから丸2年後のことを指すのだから、「数年後」というのはおかしい。ということは、柊は3月10日の後もしばらく生きて、数年後の3月9日に死んだと考えるべきじゃないだろうか。ならば、第1話から繰り返し見せられている、3月10日に柊が屋上から飛び降りる姿もフェイク? そのあたりも今夜放送の「最終章」で明らかになるだろう。こうやって何度も「3月9日」って書いていると、レミオロメンの卒業ソング「3月9日」が劇中で流れそうな予感がするけど、ベタすぎるか。
柊の目的は一体何か? 彼のやっていることは是か非か。あとはどんなトリックが隠されているのか。最終回は3月10日の様子を3月10日に放映することになるので、生放送とかあったらスゴいね。
(大山くまお)
「3年A組─今から皆さんは、人質です─」
日曜22:30~23:24 日本テレビ系
キャスト:菅田将暉、永野芽郁、上白石萌歌、大友康平、田辺誠一、椎名桔平
脚本:武藤将吾
音楽:松本晃彦
演出:小室直子、鈴木勇馬
主題歌:ザ・クロマニヨンズ「生きる」
プロデューサー:福井雄太、松本明子(AXON)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中