今回のテーマは、ずばり「卒業」。
犠牲を強いてくる毒親からの“卒業”
「毒親」と一言で表すのは気が引けるが、ひずみが生じた親子関係に第8話はメスを入れている。
今回、庭野聖司(工藤阿須加)が担当したのは、亡夫が残した家を売ってケーキ屋を始めたいと夢見ている棟方幸子(南野陽子)とすみれ(大後寿々花)の母娘。でも、娘のすみれはどうやら家売却に反対のようだ。
「ひどいじゃない! ママの夢はどうなんの?」(幸子)
同じタイミングで、庭野の父・茂雄(泉谷しげる)もテーコー不動産にやって来た。目的は、妻が残してくれた家を売ること。そのお金で彼はたこ焼き屋を始めたいと言うのだ。庭野はすみれと同じ反応をする。実家の売却には断固反対!
「実家は母から相続したもので半分は自分名義なんです。自分は絶対、母が残してくれた家は売りませんから!」(庭野)
後日、三軒家万智(北川景子)は家売却後の新居として提案する物件に棟方母娘を案内した。しかし、そこは母娘が住むには少々狭い部屋。違うのだ。
「すみれ様、たった一度の人生ですよ。お母様のぎせ……」(三軒家)
異変発生! 突如、三軒家は声が出なくなってしまった。代わりにこの家を庭野がプレゼンすることに。
庭野はすみれと同じ境遇である。つまり、これは自分の話でもある。自ずと庭野の説得は熱を帯びた。
「親の夢に振り回されるのは、もうこりごりですよね。だったら、自分のことは自分で守らないと、何もかもお母様に奪われてしまいますよ!」
「世の中は……親孝行を美徳とします。自分もそれにがんじがらめになってました。でも、成人して独立すれば親の人生は親の人生、子どもの人生は子どもの人生なんですよ!」
庭野の話を聞いたすみれは、母の制止を振り切り1人暮らしすることを決意した。庭野も、「家は売ってもいいがお金の半分はもらう」と茂雄に伝えた。
「子は親のもの」という呪縛からの解放
このストーリーが訴えるメッセージは、至極わかりやすい。「家族は助け合わなければならない」「親孝行は美徳」という価値観が、庭野家では親から子への脅迫になっていた。茂雄や幸子が自由奔放に夢を追う日々は、子どもが負う犠牲の上に成り立っている。そんな自分たちの境遇を憂い「自分のことは自分で守らないと、何もかも親に奪われてしまう!」と声を上げた庭野。
自立してお互いを思いやる親子関係と「依存」は全く違う。お互いを個の存在と認識し、その上で尊重し合わなければならない。「子は親のもの」という呪縛から、庭野はこうして解き放たれた。ひずみのある親子関係からの“卒業”だ。
「三軒家チルドレン」からの卒業
唐突に声が出なくなってしまった三軒家。てっきり、夫・屋代大(仲村トオル)の浮気疑惑のショックによるものかとも思ったが、たぶん違う。きっと、あれは一芝居打ったのだ。
目的は、2つある。親の犠牲になっていた庭野に案内を任せ、茂雄の呪縛から解き放たれることを促したのがまず1つ。
そして、もう1つの理由。
「庭野さんって今日もサンチーと一緒なんすよね」「そりゃそうだよ、庭野は三軒家チルドレンだからね」「チルドレンっていうか、ただのパシリじゃないすか」「同感」
これを聞き、庭野はあからさまにヘコんだ。だから、三軒家は庭野を独り立ちさせようとした。声が出ないふりをして庭野に話をさせ、上司として部下の覚醒を後押ししたのだ。何しろ、内見後の三軒家は誇らしげに報告している。
「棟方様の家、庭野が5000万で売りました。私ではなく、庭野が売りました!」
三軒家チルドレンが“親離れ”した瞬間だ。
第8話で庭野は父から卒業し、三軒家からも卒業した。ついでに言ったら、足立聡(千葉雄大)も留守堂謙治(松田翔太)から卒業している。唯一取り残されているのは、三軒家から卒業できていない留守堂だけだが……。

『家売るオンナ』と『家売るオンナの逆襲』の違い
屋代の浮気疑惑が、どうも気になって仕方がない。
屋代がスーパーマーケットの店長・三郷楓(真飛聖)にラブホへ連れ込まれそうになったのだ。でも、屋代は頑なに拒んだ。しかし、ラブホ前で腕を組んでいる画像を三軒家は入手してしまった。
「浮気をやめていただけないでしょうか」
仕事モードのときとは全然違う妻の顔で、三軒家は直談判した。不器用な彼女は、こういうときに直球で行く。
さらに、もっと行く。
「私が愛しているのは課長だけです!」
相変わらずのポーカーフェイスかと思いきや、泣き出しそうな表情の三軒家。浮気してほしくないから、必死に愛を訴えている。三軒家史上、最も感情的な三軒家。しまいには、三郷のマネをして目をパチクリさせたり……。4分間まばたきしないでも大丈夫な北川景子なのに!
三郷と食事へ行ったことはあるが、断じてラブホには行っていない屋代。
「相手の人の気持ちは置いといて、僕たちはお互いを信じよう。僕らは夫婦なんだから」(屋代)
まっすぐに「愛しています」と三軒家は言ってきたのに、屋代の対応は少し歯がゆい。そういえば、三郷には「僕、妻を愛してるんです!」と言っていた。なら、本人に言ってあげればいいのに!
とにかく、屋代はこうして浮気疑惑から“卒業”し、三郷の呪縛から解き放たれた。なんだかんだ、ラブラブな夫婦である。
庭野の苦悩だけでなく、三軒家と屋代の関係に焦点を当てた今回。これ、『家売るオンナの逆襲』の1つの特徴だと思う。前作『家売るオンナ』は主に客の内面を深く掘り下げていたが、今作は主要キャラが自身を見つめ直している。
となると、今後気になるのは三軒家から卒業できていない留守堂しかいないだろう。手をつないで帰る三軒家と屋代を見つめる留守堂の様子は、あからさまに不穏だった。
(寺西ジャジューカ)
『家売るオンナの逆襲』
脚本:大石静
主題歌:斉藤和義「アレ」(スピードスターレコーズ)
音楽:得田真裕
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:小田玲奈、柳内久仁子(AXON)
協力プロデューサー:水野葉子
演出:猪股隆一、久保田充 他
制作協力:AXON
製作著作:日本テレビ
※各話、放送後にHuluにて配信中