オトナの土ドラ『絶対正義』(フジテレビ系・土曜23時40分~)最終回。

話としてはかなりハチャメチャだったが、なぜか妙な感動のある最終回だった。


12年間も意識不明だったのか、範子!


刑務所から出所した西山由美子(美村里江)たちを山小屋に集めた高規律子(白石聖)。

懲役を終え、法的にはきちんと罪を償っていることになるはずだが、律子は、

「それは償いじゃありません。代償としては小さ過ぎます」

と、とにかく自分の手で「正義の鉄槌」を下すことにこだわっているようだ。

「あなたたちの今後は私が決めるべきです! 私、何か間違ったこと……」

「言ってる!」

そこに、意識不明の状態から目覚め、病院から抜け出してきた高規範子(山口紗弥加)が現れる。

衝撃だったのは、由美子たちが7年も刑務所に入っていたということ。

つまり、範子が崖から突き落とされて発見されないまま5年、さらに入院して意識不明のまま7年も経っていたということだ。

12年振りの目覚め! ホントによく生きてたねぇ……。

高いところから落ちて、頭を打ったからなのか、範子の考えは以前とは大きく変わっているようだ。

「間違ったことをしたら素直に謝ればいいのよ。それが正しい」

どんなに謝ろうとも、間違ったことをした人を問答無用で警察に通報していた過去の範子とは大違いだ。

急に寛容になった範子と比べ、由美子たちが犯罪者になった途端、クルッと手のひらを返した関係者たちのクズッぷりが際立つ。

由美子の息子は「結婚をするから、出所しても絶対に会いに来るな」と伝えてきた。

今村和樹(桜井ユキ)の両親や大切な人たちはキレイにいなくなった。


理穂・ウィリアムズ(片瀬那奈)の夫・ジョーイ(厚切りジェイソン)は「娘には 近づいてほしくない。会わせるつもりもない」なんて言っている。

そして極めつけは、石森麗香(田中みな実)の元不倫相手・本間亮治(神尾佑)。

もともと、寝たきりの妻を裏切り麗香と不倫をした挙げ句、自分の名誉欲のために麗香を売り、さらには出所した麗香たちのもとにカメラを持って現れた。

「しわが増えたな」
「まさに鬼畜だな」

元不倫相手である麗香をディスりまくる本間だが、本間は本間でまた不倫をしているらしい。クズ中のクズだ。

しかし、もともとクズ傾向にあった本間はともかくとして、他の関係者たちは、いくら殺人未遂を犯したからって、もうちょっと優しくしてあげてもいいんじゃないだろうか。

「一度でも失敗した人は死ぬべし!」くらいの考え方が蔓延している、ネット界隈の不寛容さを思わせる。
最終回「絶対正義」脚本はハチャメチャだけど、妙に感動させられた。演出&演技の勝利か
イラストと文/北村ヂン

「考えるな、感じろ」系ドラマ


全般的にこのドラマ、脚本にボコボコ穴が空いているものの、演出や演技の上手さからか、なんとなーく面白く見れてしまう傾向にあったが、最終回ではそれが顕著だった。

律子が言っていた「人は本当に生まれ変わることができるのか、知りたくないですか?」発言(これが何を指していたのかよく分からなかった)。

ジョーイとテレビ通話した後の理穂に対して範子が「よく謝れたね」と言ったこと(誰に、いつ謝ってた!?)。

現場から20km圏内にいたはずなのに、夜になっても到着しない警察官。

そもそも、さっきまで病院で寝ていた(7年間も!)範子に対して、指名手配のビラが作られているのもよく分からない。


相変わらず大ざっぱな脚本ではあるが、

「最後にみんなと一緒にご飯を食べたいの」

と言った範子に賛同し、キャッキャウフフと料理をする5人が高校生時代の姿に変わった瞬間。もうそれだけでグッと心を掴まれてしまった。

その最たるものが、由美子の最後のセリフだ。

逃げ出した律子を追う範子。

「常に正しく。信号は止まれって命令してる。それを破るつもり?」

第1話の冒頭と同じシチュエーションだ。

「ルールを守れ」と厳しく言っていた母が信号無視をした結果、事故死したことで、範子の「正義」が暴走がはじまった。

同じように信号無視をして飛び出そうとした範子だったが、それを助けたのは由美子だった。母の代から続いてきた「正義」の連鎖が断ち切られたのだ。

和解をした範子と律子を見て、由美子は思う。

「私、今なら言える。
今のふたりの姿は絶対に正しいって。そこには正義があるから!」

そこに駆け寄って来た警察官。由美子は制止して一言。

「私、何か間違ったこと言ってる!?」

画面にバーンと「絶対正義」!

エモーショナルな演出に思わず感動してしまったが、冷静に見直したら「そこには正義があるから!」って……何それって感じだ。

よくよく考えながら見てはいけない、「考えるな感じろ」系のドラマと言えるだろう。

結局、正義は振りかざすべきなの? どーなの!?


原作小説は、イヤミスの女王・秋吉理香子らしい、ホントにイヤーな気持ちにさせられる終わり方だったが、ドラマ版は何となーくさわやかなハッピーエンド風の結末となっていた。

過剰な「正義」にとことん追い詰められた4人と、殺されかけて12年も意識不明になっていた範子。さらには、小学生時代にチョロッと万引きしただけでヤバイ施設に入れられた律子。

そんな彼女たちが「謝れば全部オッケー」とばかりにアッサリ和解してしまったのは「それでいいのか!」と思わなくもないけど……。

お互いに引け目を感じるような罪を犯してしまったことによって、相手に対して寛容な気持ちを持てるようになったということか?

あれだけ「私の振りかざす正義は行き過ぎてた」と言っていたにもかかわらず、最後のバスのシーンで女子高生を脅す男に対して、再び範子が「正義」を振りかざしていたのも、「アレ?」という感じだ。

「止めてください、運転手さん!」

範子の目隠しに流れる「剣なき秤は無力、秤なき剣は暴力」の文字(髪型はまた例の校則準拠のものに!)。

オープニングで登場する正義の女神像をあらわした言葉だ。


天秤は正邪を測る「正義」。剣は「力」。そして目隠しは「権力者もそうでない者も関係なく、法の下に平等に罰せられる」という象徴。

どちらかというと、かつての範子の考え方に近いんだけど……。また元に戻っちゃった?

ラスト、目隠しの文字が「YOU」に変わる。

「範子のようにアナタも正しいことを行え!」というメッセージを表現しているんだとは思うけど……。

このドラマは結局「正義を振りかざした方がいい」って言ってるの? それとも「過剰な正義よりも寛容の心を持とう」と言ってるの?

格好いい演出でごまかされたものの、最後まで混乱させられる脚本だった。
(イラストと文/北村ヂン)

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『絶対正義』(フジテレビ)
原作: 秋吉理香子『絶対正義』(幻冬舎文庫刊)
脚本:仁志光祐、谷岡由紀、政池洋佑
演出:西浦正記、浅見真史
主題歌:嘘とカメレオン「ルイユの螺旋」(キングレコード)
音楽:木村秀彬、佐藤浩一
企画:横田誠(東海テレビ)
チーフプロデューサー:市野直親(東海テレビ)
プロデューサー:浅野澄美、郷田悠(FCC)
制作著作:フジクリエイティブコーポレーション
制作:東海テレビ放送
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