DCコミックス系映画の新作、『シャザム!』。スーパーヒーロー映画でありながら、「中身が子供のヒーロー」というギミックをフルに活かしたファミリー映画でもあるという、なかなかの野心作である。

「シャザム!」「もしも子供が外見と能力だけ超人になったら?」スーパーヒーロー映画でファミリー映画

シャザムなの? キャプテン・マーベルなの? 紆余曲折があった歴史あるヒーロー


『シャザム!』の原作となったのは、DCコミックスの同名スーパーヒーローである。しかしこの人、もともとはDCのヒーローではなかった。シャザムの元となったのは、1940年2月に発売されたフォーセット・コミックス社の『ウィズコミックス』#2である。で、当初この人は「キャプテン・マーベル」という名前だったのだ。最近ブリー・ラーソン主演で映画になった、マーベル・コミックスのヒーローと同じ名義である。

ただこのキャプテン・マーベル、見た目と能力がスーパーマンに似すぎているということでDCコミックスから訴えられ、1950年代には一旦廃刊となっている。その後DCがキャプテン・マーベルの版権を取得したものの、その時にはマーベルが同名ヒーローのコミックをすでに出版していたため、苦し紛れにコミックのタイトルを『Shazam!』に変更。2011年からのリニューアルではヒーローとしての名前もシャザムに更新された……という経緯がある。

歴史あるヒーローだけにちょっと紆余曲折があったキャプテン・マーベルことシャザム。今回の映画化によってDCの映画シリーズに加わることになった。このシャザムというキャラの面白さは、「もしも子供がいきなり外見と能力だけ超人になったら……?」というもの。ほぼ無限の耐久力と飛行能力、さらに怪力や電撃を放つ能力や高速移動能力など諸々を持つというDCコミックス屈指の強キャラながら、中身が14歳の子供というギャップがフックになっているヒーローである。映画でも、そのあたりの設定はそのまま踏襲されている。


見た目は大人、中身は孤児! 14歳の少年がガワだけスーパーヒーローに!


『シャザム!』の主人公は、幼い時に母親と生き別れた孤児の少年ビリー・バットソン。幾度も里親の元を脱走する悪ガキながら、本当の母親の住所を割り出してなんとか再会しようとするいじましい奴である。今回も脱走に失敗したビリーは、新しい里親のバスケス家に収まることに。アメコミオタクのフレディを含む5人の里子を抱えたバスケス家は賑やかな家だったが、ビリーはうまく馴染むことができない。

そんな中、足の不自由なフレディをいじめる悪ガキと喧嘩になったビリーは、とある地下鉄に逃げ込む。しかしその地下鉄は謎の異空間へと繋がり、ビリーはそこで髭だらけで杖を持った謎の老魔術師と出会う。古代から続く魔術師たちの評議会の生き残りであり、悪い魔物を封印してきたと語る老魔術師。彼は自らの力の衰えを悟り、「純粋な心を持つ者に自分の力を託したい」とビリーに迫る。半ば無理やり「シャザム!」と呪文を唱えさせられたビリーは、稲妻と共に真っ赤なタイツに白いマントを身につけたムキムキのヒーローに変身していた!

ビリーの変貌ぶりに驚愕するフレディ。今のビリーは手から電撃が撃て、怪力もあることに気が付いた2人は、とりあえずコンビニ強盗をブチのめすことに成功。スーパーパワーでイタズラに精を出し、動画を撮影してネットにあげるとビリーは一躍人気者に。しかしとある経緯から謎の魔術師の能力を狙っていた科学者ドクター・シヴァナはビリーの変化を察知。ビリーが知らないうちに、彼の行動を密かに付け狙い始める。


「超人だけど中身が子供」という面白さを遺憾無く発揮した本作。なんせビリーは14歳なので、いきなりスーパーパワーを手に入れても使い方が子供なのである。見た目が大人になったのをいいことにビールを買ってみたり、ストリップバーに行ってみる。自販機を電撃で破壊してジューズを飲みまくる。手から電撃を出してる動画を撮ってはネットにアップし、有名になったら一般人との記念撮影で小銭を稼ぐ……。ムキムキの全身タイツのヒーローの中身が子供、というギミックの面白さがパンパンに詰め込まれている。

クリスマス前を舞台にした、良心的ファミリームービー


さらに言えば、「家族とは何か」というテーマもオーソドックスながら料理がうまい。ビリーも悪役ドクター・シヴァナも、事情があって親の愛を充分に享受できなかったキャラクターである。どちらも過去に固執し、そしてどちらもスーパーパワーを得たわけで、そこからどう行動するかという点に物語のテーマが託されている構造だ。ちょっと臭いかな……と見えるテーマだが、なんせ子供がふざけまくりながらスーパーヒーローになって殴り合う映画なので、嫌味な感じは皆無。ゲラゲラ笑ってストンと感動できる、きっちりした映画に仕上がっている。

もうひとつグッときたのが、この映画がクリスマス前のフィラデルフィアを舞台にしているという点だ。
雪が降り積もって家々に飾り付けがされ、ショッピングモールにはおもちゃが並んで、サンタの格好のおじさんがイベントにやってくる……『シャザム!』は、なんとも言えない多幸感の漂っているあのアメリカのクリスマスを背景にした映画なのである。

そんなクリスマスのフィラデルフィアで、子供が不思議な力でヒーローに変身して大冒険を繰り広げるストーリーは、どこか懐かしい。『ホーム・アローン』とか、『グレムリン』とか、『ゴーストバスターズ2』とか、そういったちょっと昔のファミリームービーの匂いがするのである。『シャザム!』には里親の元に集まった孤児たちがそれぞれの個性を生かして活躍する場面もあり、なんだか『グーニーズ』みたいなところもある。

つまり『シャザム!』は、80〜90年代の良心的ファミリームービーを多分に意識した作品である。スーパーヒーロー映画のフォーマットに則った作品なのは間違いないが、それを使って大真面目に「大人から子供まで、みんなが楽しめる作品」を作った形だ。なんと気のいい映画だろうか。そう思って見ると、あの誰もがどこかで見たことのある「アメリカっぽいクリスマスの情景」が作品の背景としてチョイスされているのも、偶然ではないだろう。ファミリームービーと言えばクリスマスである。

DCコミックス系の作品は暗いだの陰鬱だのシリアスすぎるだのと文句を言われてきたが、シリーズを重ねることで段々と多様性を獲得してきた経緯がある。そして今回『シャザム!』では、「アメコミ映画でありつつ他のジャンルの映画の文法を取り込む」という手法をものにして見せた。その意味で、『シャザム!』はDC映画の幅をまた広げた作品と言えるだろう。
そんなアメコミ映画の野心作としても、また良心的なファミリームービーとしても、見所の多い一本である。
(しげる)

【作品データ】
「シャザム!」公式サイト
監督 デヴィッド・F・サンドバーグ
出演 ザッカリー・リーヴァイ アッシャー・エンジェル ジャック・ディラン・グレイザー マーク・ストロング ほか
4月19日より全国ロードショー

STORY
身寄りのない孤児の少年ビリーは、ある日謎の魔術師と出会いスーパーパワーを授けられる。ヒーローの力を楽しむビリーだったが、そのパワーを狙う謎の科学者ドクター・シヴァナが立ちはだかる
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