10年。ほぼ10年である。
マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)最初の作品である『アイアンマン』が公開されたのが2008年。以降年間数本を公開するというペースで、10年以上にわたってMCUはその規模を拡大してきた。
ベショベショに泣いた!「アベンジャーズ/エンドゲーム」10年の月日を載せてアベンジャーズ最後の戦いへ

夢を見ているようだった、MCU以降のアメコミ映画


2008年といえば、前世紀の終わりくらいから始まったモダンなヒーロー映画のムーブメントがなんとなく定着してきたかな……という時期だ。1997年には『スポーン』があったし、1998年には『ブレイド』もあったし、2000年には『X-MEN』があったし、2002年にはサム・ライミの『スパイダーマン』があったし、2005年にはノーラン版の『バットマン ビギンズ』が公開されて、2008年には『ダークナイト』がいろんな人から褒められたりした。『アイアンマン』が公開されたのは、そういう時期である。

おれは正直、最初はMCUがうまくいくとは全然思っていなかった。なんせ『アイアンマン』である。バットマンとかスーパーマンとかスパイダーマンとか、アメコミに興味がない人でもなんとなく聞いたことがあるようなヒーローではない。日本人的なメカ(頭にツノが付いてたり背中に翼が生えてたりするような)のデザインでは全くない、変な赤と黄色の装甲服を着た、偉そうなヒゲのおっさんである。しかも今後、同じ世界観を共有するヒーロー映画のフランチャイズを展開し、コミックと同じような売り方で映画を作っていくという。

「正気か……?」と思った。まずうまくいかないだろう、オタクが喜んでそれで終わりなんじゃないかと思っていた。しかし俺の予想に反してMCU映画は何本も作られ、全世界でウケまくり、ついにはヒーロー大集合映画の『アベンジャーズ』まで作られてしまった。
「キャプテン・アメリカ」なんて間抜けな名前のヒーローが大真面目に青いスーツで出てくる映画が、何本も作られてしまったのだった。

夢を見ているようだった。実のところ、アメコミのブームらしきものは日本でも10年おきくらいのペースで発生している。1970年代から光文社からは邦訳アメコミが刊行されていたし、1980年には同じ光文社から『ポップコーン』という日米の漫画を同時に掲載した雑誌も刊行されている。90年代にはアメトイブームと結びついたブームもあった。しかし、それらは一過性の流行り廃りという側面が強く、それゆえに自分が間に合わなかったのが歯がゆかった。しかし、今のブームはわけが違う。こんなに長く、ずっとアメコミの映画が公開され続け、邦訳コミックも出続ける……。心底、このムーブメントにオンタイムで間に合ってよかったと思った。

気づけば毎年何本もアメコミ映画を見ている。面白いものも微妙なものも内容にブレが感じられるものもあったけど、MCUに関していえば大体どれも一定水準以上の出来だったと思う。それだけ毎回見ていると、だんだん劇中の登場人物が身近に見えてくる。
少なくとも、あまり連絡を取ってない高校の同級生とかよりは、彼らはおれにとってずっと身近だった。

それが、昨年の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で大きな被害にあってしまった。およそ宇宙の全生物の半数が失われ、ヒーローたちの人数も綺麗に半分になってしまったのである。なんせ身近な人たちの人数が半分になってしまったのだ。おれだって辛かった。しかし彼らはヒーローであり、決して諦めることはない。彼らの再びの戦いを描くのが『アベンジャーズ/エンドゲーム』である。

おれ、やっぱりずっとMCU映画見ててよかったよ……


『エンドゲーム』に関しては、正直なところ、もはや言葉は無用である。10年にわたってヒーローたちの戦いを見続けてきた観客なら、誰かが何かを言おうが言うまいが、彼らの戦いを見届けないわけにはいかないだろう。

おれはこの映画を見ている時、あまりの蓄積の量、その重さに打ちのめされていた。『エンドゲーム』には、10年以上の間シリーズを積み上げてきた巨大フランチャイズにしか不可能な展開が多分に含まれる。一本の映画に10年分の情報を乗せるなんて、ほぼ反則である。
しかし、誰も映画の中でこんな反則技は見たことがなかったと思う。なぜなら、それは長期間に渡る巨大な文脈の蓄積がなければ不可能な反則であり、そんな蓄積を成し遂げたシリーズはMCUしか存在しないからだ。

とにかく、登場人物の全ての一挙手一投足に10年分の重みがある。ニヤリと笑うトニー・スタークの口元に、放電しながらムジョルニアを振り上げるソーの咆哮に、キャプテン・アメリカが立ち上がり踏みしめるブーツの足元に。彼らの全ての行動、全てのセリフに10年分の情報量と感情が宿っている。空前絶後、古今無双の重みを持って、アベンジャーズはおれたちの感情を振り回しに振り回す。

反則である。泣くに決まっている。おれはベショベショに泣いてしまった。おれだって10年の間に歳をとった。『アイアンマン』の頃はまだ学生だったのだ。その間に、アイアンマンにも色々あった。
キャップにもソーにも、数え切れないほどのヒーローたちにも、おれと同じように10年という時間が乗っかっている。自らの拳にその月日を乗せて、彼らは宇宙規模の敵と戦う。こんなものを見せられて、感傷的にならずにいるのは無理だ。

というわけなので、『エンドゲーム』はずっとオンタイムでMCU作品を見続けてきた人間にとってはほぼ全編泣きっぱなし、壊れた水道管のようになるのが必至の映画である。上映時間は長いし情報量は多いしほぼ一見さんお断りみたいな内容だし、反則もいいところだ。しかしそうであるがゆえに、おれは泣いた。本当に本当に面白かった。今はそれで充分なのである。
(しげる)
【作品データ】
「アベンジャーズ/エンドゲーム」公式サイト
監督 アンソニー&ジョー・ルッソ
出演 ロバート・ダウニーJr. クリス・エヴァンス マーク・ラファロ クリス・ヘムズワース スカーレット・ヨハンソン ジェレミー・レナー ほか
4月26日より全国ロードショー

STORY
インフィニティ・ストーンを使ったサノスの攻撃により、宇宙からは全生命の半分が消えた。混乱する状況の中、生き残ったアベンジャーズのメンバーは報復を決断するが……
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