日本音楽史上初 弾き語りによるドームツアーを完走

これまでもゆずは何度かドーム公演を行っている。初回は2001年6月に『ふたりのビッグ(エッグ)・ショー』と題し、このときも2人だけで東京ドームに立った。次は2012年、東京・大阪の2箇所で15周年ライブを実施。2016年には20周年を目前に東京ドームで弾き語りライブ、翌17年に20周年で自身初となるドームツアーを開催。そして今回、史上初となる弾き語りによるドームツアーを行った。
デビュー以来、ゆずは休むことなくコンスタントにツアーを組み、ライブを行ってきているが、その中でもドーム公演には毎度スペシャルなコンセプトやテーマがある。“二人”や“弾き語り”といった特徴にフューチャーし、バンド形式の公演でもその特徴を際立たせる演出をしてゆずの原点を感じさせてくれる。ここでは“二人”“弾き語り”に一番不向きとも言えるドームという場だからこそ、ゆずという唯一無二の存在を改めて感じさせてくれた、5月29日の東京ドーム公演の模様をレポートする。
5万人いても乱れることのない 二人と観客の阿吽の呼吸

広く大きなメインステージの真ん中に“ユズドラシル”と名付けられた、天井近くまでの高さがある巨大な樹木のオブジェが置かれている。入場時に配られた説明書きによると、この世界の“生命の象徴”であり、空に向かって根を張り、大地に枝を伸ばした格好で、そこには時空を超えた空間が広がっているのだという。そのユズドラシルが白く光り、シルエットをはっきりと見せたところからライブはスタート。根元というのか、頂点というのか、樹が床と接する部分に、白の衣装を着た北川と岩沢が立つと、新曲「SEIMEI」のサビのフレーズを歌い、そこから「青」へとつなげていく。5万人の観客はすぐに手拍子をし、拳を突き上げてリズムに乗る。アウトロで北川が「歌って」と声をかけると、ラララと反応し、きれいな歌声も聴かせる。
「今日は最後まで二人でやりきります。よろしく!」(北川)
そう宣言すると、早速、北川が足でドラムを叩き、口でピアニカを吹きながら「DOME★BOMBAYE」を披露。観客も“DOME BOMBAYE”のコールで盛り上げる。「贈る詩」では、北川のタンバリンの音に観客の手拍子が合わさる。曲中には観客を“ゆ”と“ず”のチームに分けてのコール合戦も。ライブが始まって3曲、観客も休むことなく歌に参加している。だが4曲目「飛べない鳥」の演奏が始まると、その観客が一瞬にして静まり、ステージからの二人の声に一心に耳を傾ける。曲ごとの反応マニュアルが事前に観客に配られているのでは?と思うほどの統一感はゆずのライブならではの光景だが、5万人いてもそれが乱れることがないのがすごい。

近年の曲で今まで一度も弾き語りではやったことがないという「イコール」と、初めての東京ドーム公演のときには新曲だったと紹介された「3カウント」を続けて演奏。岩沢が観客にタオルの準備を促した「陽はまた昇る」では、ハンドマイクで歌う北川が口でリズムを刻む場面も。“二人だけ”ならではの演出だ。そして、前半のクライマックスとも言える「嗚呼、青春の日々」へ。

一旦、短いインターバル。映像を挟んで二人は上着を黒に着替えると、北川がピアノの前に座り、「マボロシ」のイントロを奏でる。そこから岩沢の高いドームの天井も突き破りそうな真っ直ぐな歌声が、光りで満たされた場内に響き渡り、さらに北川の包み込むような歌声が重なる。この二人だからこそのハーモニーに酔いしれる。

これまでのゆずの歩みを辿るような映像が流されたあと、二人は全長30mあるユズドラシルの一番上、根の部分に現れ、観客のひとり一人が灯すスマートフォンのライトの中で「Hey和」を歌う。“Hey和”の歌詞を、語呂が似ているということもあり“令和”に変えて、観客とのコールアンドレスポンスが行われる。そんなやり取りを見ながら、ここまででも感じてはいたのだが、一回目のドーム公演とは明らかに違う、二人が観客と共に作るライブをここでやろうとしていることを確信する。そして、観客がコーラスを担当した「うたエール」を経て、ライブはゆずらしいユーモアも交えたワクワク、ドキドキ満載のブロックへと移行する。
観客との距離を心も体も縮める

北川が天使、岩沢が悪魔に扮したコントのような映像をベースにライブは進行。最近のツアーでは毎回、このようなオモシロ映像があるのだが、回を重ねるごとに二人の間の取り方を含め、レベルアップしている気がする。トロッコに乗ってアリーナ席の外周を巡った「マスカット」、リフトに乗ってスタンド上段ほどの高さまで上がり、遠くの観客と目線を合わせて歌った「シュビドゥバー」、アリーナ席の中央に据えられた小さなステージを使って披露した「3番線」など、観客との事実上の距離を縮める演出で、もともと縮まっていた心の距離もさらに縮めていく。「タッタ」を歌いながらメインステージに戻ってくると、このブロックの締めは「岡村ムラムラブギウギ」。二人の母校、岡中ジャージを着たゆずマンも加わり、歌詞も2019年バージョンに更新。最後は火花も上がり、映像の中の二人が焼け焦げるというオチもしっかりつけて、楽しさ全開のステージをやりきった。
ライブはいよいよ終盤を迎える。嵐に楽曲提供をした「夏疾風」のゆずバージョン。「ゆずのもなかなかいいでしょう」と演奏後の北川は笑ったが、ポップスがロックに変わり、聴く者に寄り添うような歌が、気持ちを鼓舞されるような歌に変わった。同じ歌をここまで自分たちの色に変えられるゆずのパワーをさらっと見せつけてくる。

観客を再び“ゆ”と“ず”のチームに分けて歌合戦形式で歌われた「サヨナラバス」のあとは、待っていました「夏色」。春夏秋冬を問わないどころか、ライブでこの歌を歌わなかったゆずをもう自分の記憶の中では思い出せないくらい、いつ何時も歌ってくれるゆずのライブともはやイコールの存在。観客との“もう一回”コールの茶番までもがセット(笑)だが、これをやり続けることは彼らの中では決してルーティンではなく、毎回、挑戦なんだと感じる。

ユズドラシルが赤く発光し、心臓の鼓動のような音が鳴ると、「夏色」の喧騒から一瞬にして静寂が訪れる。「最後の曲です。僕たちの新曲『SEIMEI』」。北川がそう告げると、二人が鳴らすアコースティックギターの音に、二人の声が乗り、二人の生命から放たれる歌が光に溢れたドームを満たしていく。5万人に向かって歌われているのだけど、なぜか自分ひとりに歌ってくれているような感覚に陥る心にダイレクトに届く歌――演奏を終えた二人に、5万人から、この日、一番長く続いた拍手が贈られた。
“二人”“弾き語り”の最小単位から見える無限の可能性

事前に配られていた緑色のシートをスマホのライトに貼り付けた観客が作る緑の光の中へアンコールのために戻ってきた二人。北川はまずドームだからこそ壮観な眺めとなるウエーブを観客にリクエストし、それが大成功に終わるとそのお返しのように「栄光の架橋」を届ける。曲の半分以上を観客だけに歌わせ、二人は伴奏者のようだ。
「負けるもんかというか、かかってこいというか、ギラついておりました」。初回のドーム公演を振り返る北川。「でも22年も経って……今はもう嬉しくてみんなを近く感じながらライブをやっています。本当にいつも支えてくれてありがとう」と、心からの感謝を伝える。そして「二人でやれることには限界があります、だけど二人でやることは、実は無限にあるんじゃないかと思って。そんな風にも思っています」――この日、この場所で5万人とともにしたからこその言葉に思える。「これからも一緒に生きていこう」と観客に語りかけると、最後は「終わりの歌」を精一杯の想いを込めて歌い切り、史上初の挑戦の1日を終えた。

“二人”“弾き語り”と小さなものがテーマでもあったにも関わらず、終わってみると人と人とのつながりを強く感じるとてつもなく大きなライブとなっていた。人一人はちっぽけな存在だけど、その想いがつながればどんな大きなものだって動かせる。そんな想いを新たにもする時間だった。そして、ゆずの二人の想いはさらに先へと進む。
取材・文/瀧本幸恵
<セットリスト>
1、青
2、DOME★BOMBAYE
3、贈る詩
4、飛べない鳥
5、イコール
6、3カウント
7、陽はまた昇る
8、嗚呼、青春の日々
9、マボロシ
10、Hey和
11、うたエール
12、マスカット
13、シュビドゥバー
14、3番線
15、タッタ
16、岡村ムラムラブギウギ
17、夏疾風
18、サヨナラバス
19、夏色
20、SEIMEI
アンコール
1、栄光の架橋
2、少年
3、終わりの歌