「岡野陽一のオジスタグラム」7回。守るものの数と歯の数は比例する。新橋のひろむさんとお宝を見つけた夜

(→前回までの「オジスタグラム」
「岡野陽一のオジスタグラム」7回。守るものの数と歯の数は比例する。新橋のひろむさんとお宝を見つけた夜
どーもー!皆様はじめまして!改心して生まれ変わった岡野陽一と申します! 先週までの岡野は山に埋めたのでご安心下さい!
では本日から宜しくお願い致します!

おじさん好きとしては胸が痛む


どんなおじさんも産まれた時はおじさんじゃない
違う環境で、違うものを食べて、違うものを見て、違うおじさんに育つ。

慌ただしく世界を飛び回る羽のはえたおじさんもいれば、一日24時間もいらない羽のないおじさんもいる。
ポルシェで移動するおじさん、自転車で移動するおじさん、移動しないおじさん。

赤ワインを飲むおじさん、ワンカップを飲むおじさん、カレーを飲むおじさん。
噛めるおじさん、噛めないおじさん、足の速いおばさん……。

今、地上では羽のはえたおじさんの話題で持ちきりだと、我々の住む羽無歯無の国にも風の便りが届いた。
おじさん好きとしては胸が痛む。
羽のはえたおじさんは専門外だが、どんなおじさんも同じおじさんだ。

5時間半にも及ぶ会見を見て思ったのは、
羽のはえたおじさんには守らなきゃいけないものがとにかく多いとゆう事だ。

会社、地位、名誉、イメージ、信用、家族、社員、プライド、他の誰か、お金……。

偉いおじさんの歯


人間は強欲な生き物だ。
一度手に入れたものは手放せない。

僕だって同じだ。何も手に入らないだけだ。

何か一個だけでも手放せば全く印象は変わったと思うが、
ちんちんくらいしか守るものを持ってない僕には到底わからない事なのだろう。

あと、会見を見てひとつ発見があった。


これは言うべきか悩んだが、この言論の自由に任せて、誤解を恐れずに言おう。

「守るものの数と歯の数は比例する」

あの場にいた偉いおじさんは全員歯がびっしりはえ揃っていたのだ。
考えられない事である。
普通の人間より少し多かった気もする。
守るものが多いからに違いない。

守るものが多い歯抜けを僕は見た事がない。
地位、金、プライド、そのひとつひとつが歯の数になるんじゃないか。
この理論だと、僕の歯ももう長くはないだろう。
「岡野陽一のオジスタグラム」7回。守るものの数と歯の数は比例する。新橋のひろむさんとお宝を見つけた夜

おじさんの事を嫌いにならないで


これはオジスタグラム第3回「ポケットの容量と人間の器は比例する」に次ぐ、比例シリーズ二つ目の発見である。

とにかく今回は歯の多いおじさんの脆さが出ただけで、歯の少ないおじさんの方がいいとゆう訳ではない
歯の多いおじさんはその分多くの人や社会に貢献している場合が多い。

皆様、どうかおじさんの事を嫌いにならないで欲しい。
全てのおじさんが笑って歯の数を見せてくれる世の中になる日を僕は願っている。


さぁ皆様、責任と歯のない世界へようこそ!
オジスタグラムの始まり始まり~!

今回のおじさんはひろむさん。
笑うと目がなくなるタイプのお喋り59歳だ。

出会いは天かす


ひろむさんとの出会いは突然だった。

僕は新橋の立ち食いうどん屋で、冷やしとり天うどんを食べていた。
食券を買って、厨房からうどんを受け取り、奥の立ち食いスペースに持っていくセルフスタイルの店だ。
各テーブルに天かすが入ったバケツみたいなのがあって、好きなだけかけれる最高の店だった。
僕が食べ始めると、横におじさんがやってくる。

「兄ちゃんごめんよ」

と僕の目の前にあった天かすのバケツを御自身の前に引き寄せ、慣れた手つきで天かすをかけると思いきや、そうではないのだ。
このおじさん何か変だぞ。
天かすの中に指輪でも落としたのかと言うくらい、何かを探してるのだ
見ている僕に気付いたのか、天かすバケツをかき混ぜながら、ひろむさんは僕に言う。

「兄ちゃんここ初めてか?」
「あ、はい」
「いい事教えてやろうか?このよぉ、天かすの中によぉ、たまによぉ、肉みたいなの入ってるんだ」
「肉みたいなの?ですか?」
「お、あったあった」
「岡野陽一のオジスタグラム」7回。守るものの数と歯の数は比例する。新橋のひろむさんとお宝を見つけた夜

そうゆうとひろむさんは、満面の笑みでスプーンを見せてくる。
なるほど。
そうゆう事か。
そこには紛れもない5ミリくらいのとり天の破片、エリート天かすがいらっしゃった。

「ほら、今回だけサービス!」

ひろむさんはヘラヘラしながら僕のとり天うどんにとり天の破片を入れてくれた。

「次からは自分で見つけるんやで」

そう言うと、ひろむさんはまた天かすの大海原に繰り出すのだった。
そこにはもう先程までの人懐っこい笑顔はない。
危険を顧みず、死をも恐れない勇敢なトレジャーハンターの顔である。

伝説の天かすトレジャーハンターを横目に麺をすする。
どうやら、今宵は二人ともお宝を見つけたようだ。
「岡野陽一のオジスタグラム」7回。守るものの数と歯の数は比例する。新橋のひろむさんとお宝を見つけた夜

幸せのないところに幸せを


うどん屋から数十秒の大衆居酒屋に入る。
これだから新橋は堪らない。

「すみませんね、帰ろうとしてたところを」
「いいよ、いいよ。どうせ帰ってもかあちゃんに愚痴言われるだけだから。ガハハハ!」
「ケケケケ!」
「外に出たら金かかるしよ、家で大人しくしてたら怒られる。
可哀想だろ?ガハハハ!
「ケケケケ!」
「まぁ家より外の方がいいわな。家にいるといつゴミの日に出されるかわかんねぇからな!ガハハハハ!」
「ケケケケ!」

最高のおじさんだ。

ひろむさんの素晴らしいところは何杯飲んでも、新しいジョッキの一口目に新鮮に「かぁ!うめぇ!」と呷るところだ。
これはなかなか出来ない。

天かすトレジャーハンターでもわかるように、
ひろむさんは幸せのないところに幸せを作れるおじさんなのだ。
おじさん界の最高峰、あの無敵おじさんなのかもしれない。

金家嫁歯犬(かねいえよめはーいぬ)

皆様ご存知の幸せ主要五科目。
僕は今までこれを手に入れる事が幸せへの近道だと考えていたが、無敵おじさんの前ではただの言葉と化す。
「岡野陽一のオジスタグラム」7回。守るものの数と歯の数は比例する。新橋のひろむさんとお宝を見つけた夜

無敵おじさんは無敵だ。
金がなくても、家がなくても、嫁がいなくても、歯が無くても、犬がいなくても幸せなのだ。

「あーあ、かあちゃんから電話だ。すまんな兄ちゃん、もう帰らないと」
「あ!すいません! こちらこそ付き合って貰って、申し訳ないです!」
「いくらくらいだ?」
「いや、いーです!いーです!ここは出させて下さい!」
「いやいや、それはよぉ」
「いやいや、さっき天かすの欠片も頂いたので!」
「えー?悪いな! ありがとな!」

ワンターン少ないんじゃないかとも思ったが、短い時間だったが無敵おじさんと飲ませて頂いてなんの文句もない。

もしかしたらこの奢りの瞬間も幸せを感じてくれたのかもしれない。

負けて良かった


帰り道、今日新橋でパチンコで負けさせて下さった神様に感謝をする。
キャベツ200個買えるくらい負けたけど、勝ってたらひろむさんに出会えなかった。
本当に負けて良かった。僕は幸せ者だ。
雨も降ってきた。キャベツ200個分負けて、ベチョベチョだ。
家に帰ったら温かい風呂に入ろう。
あ、お湯出ないんだった。
でも幸せだなぁ。

あ~、幸せだ。
……ダメだ。


無敵おじさんへの道のりはまだまだ遠い。
「岡野陽一のオジスタグラム」7回。守るものの数と歯の数は比例する。新橋のひろむさんとお宝を見つけた夜

(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)
編集部おすすめ