
(→前回までの「オジスタグラム」)

「オジスタグラム」中心の生活
人間の慣れとは恐ろしいものだ。
同じおにぎり3個でも、毎食おにぎり1個食べるのに慣れた人にとっては多いし、5個食べるのに慣れた人にとっては物足りないだろう。
僕も最近慣れが酷い。
「オジスタグラム」のおじさんの時は大丈夫なのだが、普通の方と話すときに毎回思ってしまう。
「この人、歯多っ!」と。
着々と「オジスタグラム」中心の生活になってきている。
「オジスタグラム」中心だったら、なんで締め切り守れないんだ?とゆうのは無しにして、本日からまた新たな気持ちで「オジスタグラム」を始めて行きたい。
今回の「オジスタグラム」は晴臣(はるおみ)さん。
新橋のサウナの食堂で海賊のようにビールを飲んでらっしゃるところに声をかけさせて頂いた49才の若手の歯有おじさんだ。

小さいおじさんの法則
正直僕は今回、晴臣さんに声をかけるのを躊躇った。
小さいおじさんだったからだ。
僕の統計上、小さいおじさんには気難しい人が多いのだ。
昔福井県の工場のバイトで出会った「すぐキレる」「東京が出禁」でお馴染みの小幡さんも150センチくらいだったし、パチンコ屋で再三の注意も無視してエロ本で台をキープしてパチンコ屋を出禁になったミスター偏屈爺シゲちゃんも小さいおじさんだった。
天下一品であっさりを食べる人がいないのと同じくらい、ゴミ屋敷のおじさんにでっかいおじさんはいない。
現に「オジスタグラム」で声をかけさせて頂いて、唾をかけられる勢いで追い払われるのも、小さいおじさんが多い。
磯野波平を例に出そうと調べてみたら、奴は178センチある事にびっくりした。
とにかく、小さいおじさんは気難しい人が多いのだ。
僕の仮説では、小さいおじさんは幼少期から全校集会で毎回一番前に並ばされ、組体操で上に登らされて、一生前にならえもすることなく、知らず知らずの内に、長年のコンプレックスにより卑屈の鍾乳洞を形成するのだ。
しかし、ここは怒鳴られようが思いきって声をかけるしかない。
そんな僕の心配をよそに、晴臣さんはめちゃくちゃ気さくなおじさんだった。
今までの偏見と仮説を全て謝罪させて頂きたい。

「へぇ、なんだ兄ちゃん芸人さんなのか」
「いや、全く売れてないですけどね」
「確かに見た事ないもんな!」
「ちょっとー!」
「ガハハハ!いや、急にこんなとこで声かけて来るからそっちの人かと思ったよ!」
そう言われて僕ははっとした。
確かにそうだ。
街でおじさんをナンパするだけでも怪しいのに、サウナで、しかも口髭を蓄えたフレディー風のおじさんがおじさんをナンパしたら、普通はそう思ってしまう。
どうやらおじさん集めとサウナの相性は激悪らしい。
満員電車が嫌い
晴臣さんは普通の会社員で、
普段は埼玉から通ってるのだが、満員電車が嫌いで、よくこのサウナに泊まるらしい。
「確かに、満員電車毎日はきついですもんね」
「兄ちゃんはまだいいよ」
「え?」
「俺なんて、背ちっちぇーからもう最悪よ。息できねーし、今なんてすぐ痴漢だなんだ言われる時代だろ?」
「うわー、それはキツいですわ」
「舞の海みたいに頭にシリコン入れるしかないか!」
「いや、頭だけ高くなっても一緒ですよ!」
「ガハハハ!」
「ただの頭長い痴漢ですよ!」
「……」
最後のは言わなければ良かったと後悔したのは置いといて、毎日一生懸命家族の為に働いて、あんまりである。
もしかしたらこの時代、満員電車で一番恐怖を感じているのは、小さいおじさんなのかもしれない。
もしJRの方がこれを見てたら、真っ直ぐ上司の目を見てこう言って欲しい。
「小さいおじさん専用車両を作りましょう!」
と。
上司はこう言うだろう。
「は?」
と。
「ミイラズ」誕生秘話
晴臣さんは今の会社に入る30歳まで「ミイラズ」とゆうバンドを組んでミュージシャンを目指していたらしい。
「ミイラズっていい名前ですね!」
「そうだろ!? どうゆう意味かわかるか?」
「あのミイラですか?」
「そう思うだろ? ちげーんだよ。俺若い頃はるおみって名前がすげー嫌いでよ、ずっと親にはるおの方が良かったよ! って言ってたんだよ。なんだよ晴臣って!みいらないだろって!みいらず。みイラズ、ミイラズ」
「うわー!すげー! 由来意外としっかりしてる!」
「そーだろ、ガハハハ!」
この由来の話は凄く好きだったのだが、
気を良くした晴臣さんは、酒がそこそこ入ってた事もあり、これを僕は短時間に4回聞く事になる。
4回目の時はさすがにタイムループを疑った。
「魔法小爺おじか☆オミカ」である。
タイムループから抜け出したおじかとオミカは、3階の雑魚寝部屋に向かう。
深夜3時の新橋のサウナの光景は圧巻である。
全部で200、300人はいるのだろうか。
うつ伏せのおじさん、仰向けのおじさん、南枕のおじさん、北枕のおじさん、きんたまぶらのおじさん……。
「また明日から頑張ろう
僕はオミカの横に陣取り、IBIKIをBGMに床につく。
「え? いつもサウナ入らないんですか?」
「普通に風呂入るだけだよ」
「え、じゃ、ホテルに泊まった方が、、」
「いや、ここがいいんだよ。」
「……」
「ここにいるのほぼサラリーマンだろ?」
「えぇ」
「こん中でイビキ聞きながら寝るとよ、俺だけじゃねーんだなって思って、また明日から頑張ろうって思うのよ。」
次の日起きるともう横にオミカの姿はなかった。
「ミイラズ」の話を聞くのはもう嫌だけど、
もう一度だけタイムループしたくなった。

(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)