僥倖「テレビに出にくくなった人」で高橋ジョージを予習して「相席食堂」を観る。かたくななロードをご報告
「井上マサキのテレビっ子からご報告があります」第4回。ライターでテレビっ子の井上マサキでございます。この連載は日々テレビを見ていて気になった細かいこと、今のアレってアレなんじゃないのと思ったことを、週報代わりにご報告できればと思っております。どうぞよろしくお願いします。

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高橋ジョージについて予習したうえで、高橋ジョージが出る番組を観るという貴重な経験をした。

「THE 虎舞竜」のボーカルであり、1993年に発売した『ロード』が220万枚を超えるヒットになった、あの高橋ジョージである。
とはいえ筆者も前のめりで高橋ジョージについて調べたわけではない。この1週間、『テレビに出にくくなった人』と『相席食道』に高橋ジョージが相次いで出演していたのだ。

テレビを見ていると、全く関係のない2つの番組が偶然リンクすることがある。「なんでもないようなこと」が結びつき、意識を「二度とは戻れない」状態にすることがある。そんな夜の話。

『テレビに出にくくなった人』ワイドショーの“出囃子”が『ロード』


事の発端は7月29日放送『テレビに出にくくなった人〜ネット民よ!再生させよ!世間ザワつき有名人〜』(テレビ東京:見逃し配信)。ネット炎上や何らかのスキャンダルによって“テレビに出にくくなった人”をスタジオに呼び、改めて言い分を聞こうという番組である。MCは西野亮廣(キングコング)と向井慧(パンサー)。

タイトルコールのあと「我々もちょっと出にくい……」と、吉本騒動を軽くいじるMC2人。番組では元議員の上西小百合や、加藤茶の妻・加藤綾菜らがゲストとして登場し、炎上の裏側などを聞き出した。その1人に高橋ジョージがいた。

高橋ジョージがテレビに出にくくなったのは、5年前の「モラハラ騒動」に起因する。1998年に「24歳年下の女優Mさんと結婚」するが、2015年に離婚が持ち上がる。
妻に対する外出禁止や露出制限が精神的な暴力行為(モラハラ)とされ、2016年に協議離婚が成立した。

5年の月日が流れても「モラハラ」のイメージがついて回るが、当の本人のトークは全開である。「俺からだよ!? モラハラってポピュラーになったの」「流行語大賞に乗ったんだもん!」「(店員がひそひそ声で)『モラハラの人』って言ってて、テラハみたいにおしゃれな感じで」とガンガンしゃべり、MCたちに「仕上がったトークですね」「何回か試してるなこれ」と、いなされる。

当時、高橋ジョージにとって離婚騒動は「寝耳に水」。ツアーで一週間家を空けていた間に荷物や飼い犬がいなくなっていた、と主張する。「事前になんの相談もなかった」「向こうは我慢してたかもしれないけど、俺はちっとも我慢してなかった」「ずーっとしゃべってるからね家で」という高橋ジョージに、「それをモラハラというのでは……?」と自覚の無さをやんわり指摘する西野と向井。

続いて、現在の高橋ジョージの私生活が紹介される。一人暮らしの新居には30畳のリビングがあり、地下には音楽スタジオもある。「ジョージさんって金持ちなんですか?」という素朴な疑問に「これ、やらしい話……」と切り出す。

「俺がワイドショー出るとき、必ず“出囃子”が『ロード』なのよ。そうすると、印税が入るのよ」
僥倖「テレビに出にくくなった人」で高橋ジョージを予習して「相席食堂」を観る。かたくななロードをご報告
高橋ジョージ&THE 虎舞竜 『ロード - ザ・ベスト〜25th anniversary』

テレビで『ロード』が流れるたびに「けっこうな額」の印税が入るという。毎日各局がワイドショーで流したりすれば相当な額になる。
さらにカラオケで1回『ロード』が歌われるたびに7円入る。夢の印税生活。そもそもテレビに出る必要もないのだ。

じゃぁ毎日なに食べてんすか、と身を乗り出すMC陣だったが……マネージャーが撮影した夕食の様子では、ピンクのバスローブをまとってソファーに沈み、銀色のボウルからコーンフレークをすすっている。もう5年間ずっと夕食はコーンフレークだといい、朝食はマネージャーが作る和食で、昼飯はスーパーで買う弁当。キンコン西野が叫ぶ。

「悲しくないですか!? 『ロード』が流れるようなエピソードをしゃべれば儲かるっていう商売ですか!?」

食事のアップが映るたび何度も『ロード』のイントロが鳴る。そのたび画面右上には「印税発生中」の文字が踊った。

『相席食堂』しっかりとロードを稼ぐジョージ


さて、これらの情報を踏まえて、7月30日放送『相席食堂』(朝日放送テレビ:見逃し配信)を観てみよう。

「今日の旅人はダブルミリオンを達成したあの有名歌手です」というカンペに、「B'zの稲葉さんかな」と期待を寄せるスタジオの千鳥。VTRを再生すると、ベンチに腰掛けハーモニカを吹くリーゼントの後ろ姿が。曲はもちろん『ロード』。
足元からなめるようにカメラが迫り、満面の笑みの高橋ジョージが「どうも、みやぞんです」と名乗る。すかさずVTRを止め、「顔色わる!」とツッコむノブ。

……でもこっちは知っているのだ。たぶんその顔色は、偏った食生活に起因していることを。そしてさっきの『ロード』で、既に高橋ジョージに幾ばくかのお金が入っていることを。もうすっかり予習済みなのである。「国語」「算数」「理科」「ジョージ」くらいの勢いだ。

続いて高橋ジョージは「朝日放送テレビっていうことでね。ちょっといろいろ事情がありまして、5年ちょいお話ありませんでしたね」とカメラに語りかける。ワイプのノブが小声で「(三船)美佳さんが『旅サラダ』に出てるから?」とスタッフに確認。『テレビに出にくくなった人』では「女優M」だったのに、こちらはモロだし。

1人でロケに出た高橋ジョージは、さっそくイカ焼きの店でイカを購入。
「この辺の人に焼いてもらおう」と、ご近所のお母さんに話しかけ家にあがりこむ。リビングで飼われている犬に向かって「家族と一緒に犬も出てったんだよ」と話しかけ、BGMは『ロード』に。本日2ロード目。さらにお母さんへのお礼として生歌を披露して3ロード。どうしても「しっかりとロードを稼いでいるな」と思ってしまう。

その後も「ジョージのジョーは人情の情」「85歳?70代にしか見えない」と、高橋ジョージは自覚無くスベり続けていく。しかし雨脚が強まり街ブラロケが難しくなってきた。「気分を変えたいね」とロケバスで移動し、たまたま見つけたボウリング場に「寄りましょう!」と提案。入ってみるがお客さんが誰もいない。急きょ、地元のロケバスドライバー・田村さんとのボウリング対決がはじまった。

「アベレージ160くらいですかね」という高橋ジョージ、1フレーム目はスペア。緊張気味の田村さんもスペアで返す。
2フレーム目。高橋ジョージの投球はカットされ、田村さんがストライク。3フレーム目。高橋ジョージは投球もスコア表示もカットされ、田村さんがまたストライク。まさかの田村さんがめっちゃボウリングがうまいという展開にひっくり返る千鳥。

「田村最高!」「誰もジョージを見てない」「田村のターキーが見れるかもしれん」とワクワクしながら見守る4フレーム。高橋ジョージの投球はバッサリとカットされ、田村さんが投げた球はピンを全て弾き飛ばす。3連続ストライク。田村のターキー! スタジオの盛り上がりは最高潮に……!

終わってみれば「ジョージ:99」「田村:201」という圧倒的なスコア差。このあと高橋ジョージは再びロケバスで移動するが、「これも田村さんが運転してる!」「運転席を撮れ!」と、千鳥はすっかり田村さんに夢中。ジョージがロケを締めようとしても「ボウリングあんなに楽しかったのに」「タバコ吸いに行こうか」と興味を示そうとしなかった。

VTRの向こうの高橋ジョージは、こちらが田村さんに興奮していたなんて寝耳に水かもしれない。
親父ギャグがスベり続けた自覚もないかもしれない。こちらの思いを知ってか知らでか、ロケはやはりハーモニカの『ロード』で終わった。かたくななロード。また幾ばくかのお金が動く。そのお金はコーンフレークに消えるのだろう。

取り急ぎご報告したいことは以上です。
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)
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