森田まさのり原作、劇団ひとり演出、間宮祥太朗主演の土曜ナイトドラマ「べしゃり暮らし」がスタートした。

吉竹高校に通う主人公が、芸人を目指してYCA(ヨシムラコミックアカデミー)に入り、M-1っぽい大会に挑戦するという、図らずもタイムリーな感じになってしまったドラマ。


「死亡しても責任はとりません」みたいな誓約書が出てこないといいけど。

奇跡的に成立した漫才漫画をどう実写ドラマ化するのか?


原作の「べしゃり暮らし」は漫才をテーマにした漫画。これだけ色々な種類の職業漫画が描かれ、しかも長らくお笑いブームと言われるような状況が続いているにもかかわらず、漫才をテーマにした漫画は他にほとんど見当たらない(「漫才ギャング」もあるけど、アレは品川祐の小説のコミカライズなので別枠)。

「昭和元禄落語心中」「寄席芸人伝」「どうらく息子」「じょしらく」「おちけん」など、落語をテーマにした漫画は山ほどあるのに!

その理由として考えられるのが、漫画のストーリーの他に、漫才のネタまで考えなければならないというハードルの高さだ。その点、落語だったら古典を流用できる。

さらに、落語は文章で読んでもそれなりに楽しめるが、漫才の脚本だけ読まされても面白くも何ともないだろう。かといって、音楽漫画のように音符マークでごまかすというテクも使えないし……。

この、漫画と相性の悪そうな「漫才」というテーマを扱うため、森田まさのりは自らNSCに1年間通い、綿密な取材を行っている。

その成果なのか、一定のクオリティの漫才ネタはもちろん、お笑い特有の「間」なども漫画で表現することに成功した画期的な作品だったのだ。

奇跡的に成功した漫才漫画を実写ドラマ化するのは、さらにハードルが高いと思われる。

「メチャクチャ面白い漫才」を表現するためには、そのままズバリ「メチャクチャ面白い漫才」を演じる必要があるからだ。

そこで、演出として起用されたのが劇団ひとり。「お笑い芸人のドラマなら、お笑い芸人に演出させたらバッチリだろ!」という発想なのだろうが、果たしてこの起用は成功しているのか?

長年の確執が10分で解決


第1話では、笑いのためなら何でもやる学園の爆笑王・上妻圭右(間宮祥太朗)が、大阪から転校して来た元・芸人の辻本潤(渡辺大知)と出会い、漫才コンビを結成。文化祭の漫才コンテストに出場するまでが描かれた。


全19巻ある漫画を10話程度のドラマにするためには、エピソードの取捨選択が重要となってくるが、少なくともこの第1話では、エピソードを捨てず、とにかく詰め込みまくるという強引な方法で乗り切っていた。

漫画でいうと1〜3巻の内容をドラマ1話で消化していたのだが、さすがに展開が早すぎる!

・自分より面白い辻本へのコンプレックス
・カツラを隠す校長との戦い
・過去の事情により芸人を憎む父親との確執
・コンテスト直前に他コンビにネタをパクられる

この辺りの問題が次々と勃発しては、サクサクと消化されていくのだ。

特に、父親との確執は漫画序盤の重要エピソードなのだが、ドラマでの描かれ方はかなりアッサリめ。

元々、芸人が大好きで、自ら経営する「きそば上妻」では、売れない芸人たちにタダで飲み食いをさせていた、圭右の父親・潔(寺島進)。

しかし、ある芸人がよかれと思い「まずい」などとテレビで店をいじったせいで客が激減してしまう。

家計を支えるため、母親・美津子(篠原ゆき子)が外へ働きに出たものの、過労で倒れ死亡。「美津子が死んだのは芸人のせい」と考えた潔は、芸人を憎むようになった。

ここまでこじれた父親の心は、じっくり解きほぐしていくしかないはずだが、ドラマでは、圭右が漫才コンテストに出場すると聞いて大激怒したものの、チョロッと言い返されたらソッコーで考えを改め「圭右の言うとおりだ……」とか言い出していた。この間、約10分。

長年、芸人への憎しみをつのらせてきたはずなのに、こんなに簡単に解決しちゃっていいのか!?
「べしゃり暮らし」全19巻の原作をどうやって収めるのか? さすがに展開が早すぎてついていけなかった
イラストと文/北村ヂン

漫才やコントの集中度で見る必要のあるドラマ


コンテスト直前に圭右たちのネタをパクッて、自分で演ってしまった玉木春馬(伊藤あさひ)の存在感も薄すぎた。

原作を読んでいれば、圭右への強烈な対抗意識などがちゃんと描かれているのだが……。

どうもこのドラマの演出は、5分程度のコントや漫才を見るくらいの集中力でドラマ全編を見てくれることを想定してしまっているように感じる。

玉木が、圭右の幼なじみ・土屋奈々(堀田真由)を誘っていたり、校内放送でウケている圭右を羨ましがったりと、細かく伏線は張られていたものの、ホントに細かすぎて、集中して見ていないと頭に入ってこない。
結果、「何でこの人、こんなのことしているの?」状態になるのだ。

ナレーションやモノローグを入れないというのも、演出のこだわりなんだろう。

確かに、やたらと説明くさいナレーションが入るドラマはどんくさいが、ここまで展開をはしょってしまうなら、ナレーションで補完してくれた方がよかったんじゃないだろうか。

ドラマとしては、高校時代の話よりも、養成所に入って漫才の大会を目指すところがメイン。そこに早く持っていくために、第1話はダイジェスト状態になっていたんだと信じたいところ。

第2話以降もこの調子だとツライ!

漫才シーンが見どころか


ドラマ全体の演出には疑問が残ったが、漫才や、校内放送のフリートークに限っていえば、さすがに上手くまとまっていた。

特に、渡辺大知の放つ「それっぽい」雰囲気は出色。神戸出身なので、関西弁はネイティブなのだろうが、それにしても「こういう芸人いそう」感がすごかった。今後登場する駿河太郎の「すれたベテラン芸人」感もなかなか。

漫才をじっくり見せすぎているせいで、他のエピソードが駆け足になってしまっている感もあるが、これからも漫才シーンはドラマの見どころのひとつとなりそうだ。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

「べしゃり暮らし」(テレビ朝日)
原作:森田まさのり「べしゃり暮らし」(集英社)
脚本:徳永富彦
演出:劇団ひとり
音楽:高見優、信澤宣明
撮影:小林元
オープニングテーマ:Creepy Nuts「板の上の魔物」
主題歌:B'z「きみとなら」
漫才監修:ヤマザキモータース、小林知之(火災報知器)
漫才協力:太田プロダクション
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:浜田壮瑛(テレビ朝日)、土田真通(東映)、高木敬太(東映)
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