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今回紹介するのは『ブラックホールのすべて』である。正直、この番組を見るまでブラックホールのことを真面目に考えたことがなかった。
ブラックホールに人間が落ちるとどうなるか、ご存知ですか?
ブラックホールのことは、いまだによくわかっていない部分が多い。そもそも、50年近く前までは存在するかどうかすら怪しかった。なんせブラックホールは見えない。人間の目玉は物に光が当たった時の反射を捉えている。だから光すら吸い込んじゃうブラックホールが、人間の目玉で見えるはずがない。反射しないんだから。
というわけで、宇宙にいろんな種類が散らばっている星々と違って、ブラックホールの存在を確認するためには変わった方法が必要だった。『ブラックホールのすべて』では、2015年9月14日にアメリカにある巨大な観測施設"LIGO"でふたつのブラックホールが衝突して発生した重力波を検出したというできごとをスタートに、これがなぜ歴史的なトピックなのか、そもそもブラックホールとはなんなのかを解説していく。
大質量の天体は存在するだけで周囲の空間を伸び縮みさせるものらしい。『ブラックホールのすべて』では、ニュートンによる万有引力の発見から、「この引力が極限まで強くなったらどうなっちゃうの……?」という考えの発生、さらにアインシュタインとカール・シュヴァルツシルトらによって「理論的にはブラックホールというものがあってもおかしくない」という発見までの流れを説明してくれる。
さらに番組では、「実際にブラックホールに人間が入ってみたらどうなるのか」という、ブラックホールの存在を知った人全員が気になるであろう疑問を解説。番組のホストで自身もコロンビア大学の天文物理学者のジャンナ・レヴィンさんが実際にブラックホールに落ちてみることになる。ブラックホールの中と外では時間の流れ方が全然違うため、外からは全然落ちていくようには見えないものの、中ではまるで麺類のように人体がグニョグニョに引き伸ばされることに……。まさか「人体がめちゃくちゃ伸びる」という方向にいくとはおもわなかったぞ、ブラックホール。なんで伸びるのかは、是非とも番組を見ていただきたい。
通学や出勤がダルい時は、ブラックホールのことを考えよう
先ほども書いたが、ブラックホールは目に見えない。だから、ブラックホールを観測するためにはちょっと変わった方法が必要になる。番組で出てくる例え話として「野球場で野球の試合が行われているかを知るために、実際にスタジアムの中に入る必要はない。周囲の人通りを見ればわかる」というのがある。その通りなんだけど、実際に「あのへんにブラックホールがあるんじゃないか」という推測がなぜ成り立ち、それをどうやって証明するかというプロセスを説明されると「へ~!」となる。
なんつっても、めちゃくちゃ頭がよくて経験もある天文学や物理学の人たちが、あるんだかないんだかよくわかんないものを相手に奮闘している様はワクワクする。天文台だって、好き勝手に使うわけにはいかないのだ。見えないものを見ようとして望遠鏡を覗き込んでいる人が、世の中にはけっこういる、しかもそれによって色々なことが発見されているというのをわかりやすく説明してくれるのである。
更に言えば、番組の後半で出てくる超大質量ブラックホールの話にはビックリした。ブラックホールは「理屈が先に立ち、実際に色々調べて見たらそうとしか思えないものが見つかった」というプロセスで発見されたものだが、超大質量ブラックホールはちょっと違う。「そのくらいの規模感のものがあると想定しないと説明できない状況が観測されたので、どうやら実際にめちゃくちゃでかいブラックホールがあるっぽいとするしかない」という順序で見つかったものなのだ。このへんの詳しいお話は是非とも本編を見てほしい。
つまり、見えないものを見ようとして望遠鏡を覗き込んでいたら、なんか今までの想定では説明がつかないものが見えちゃって、それに後から理屈がくっついたわけである。そこだけ聞くとほとんど心霊現象だ。その超大質量ブラックホールは太陽の400万倍とか、場合によってはもっともっと重たいとのことである。ちなみに、太陽は太陽系の全質量の99.86%を占めているそうだ。その400万倍……。
という感じで、とにかくブラックホールをめぐる話は距離も時間も質量も壮大極まる。太陽の何億倍の質量を持つ目に見えない何かが、宇宙にはそこら中にボコボコある。そんなようなことを言われると、もうこの地球上の全てがどうでもよくなってくる。憂鬱なお盆明けや夏休み明け、職場や学校に行くのが億劫でかったるい人も多いと思う。そんな時は『ブラックホールのすべて』を見て、「まあ、ブラックホールと比べたら、どうでもいい規模の話だな……」と開き直ってほしい。ほんと、宿題忘れたとか住民税がどうしたとか、ブラックホールと比べたら些事である。ブラックホールセラピー、案外有効だと思うぞ。

(文と作図/しげる タイトルデザイン/まつもとりえこ)