「スカーレット」8話。「女に意地も誇りもあるか、気のせいや」なんてことを言うんだ、父
連続テレビ小説「スカーレット」8話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)
連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」8話。「女に意地も誇りもあるか、気のせいや」なんてことを言うんだ、父

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第2週「意地と誇りの旅立ち」8回(10月8日・火 放送 演出・中島由貴)


「スカーレット」を見て、名作と誉も高い「カーネーション」を思い出す視聴者も少なくないという。
元気な大阪弁で行動もはねっかえりなヒロインがものづくりに目覚めていく流れに「カーネーション」と近いものをほのかに感じるようだ。そのうえ、制作統括の内田ゆきが「カーネーション」にも参加していたこと、大阪局で制作されたことなど、類似点も見いだされる。


男と女の意地


8回でいよいよ類似を感じたのは「男の意地」と「女の意地」である。
「カーネーション」はヒロイン糸子(尾野真千子)が、男しか参加できないだんじり祭りに参加したいと願い、山車という巨大なマシンの代わりにミシンというマシンに出会うというお話だ。山車が男の意地と誇りとすれば、ミシンが女の意地と誇り。そのような置き換えが秀逸だった。拙著「みんなの朝ドラ」でも、取り上げたのが、ヒロインがどんどん輝いていくにつれ、男のプライドを損なっていくこと。ヒロインが自己実現することで父親(小林薫)や恋人(綾野剛)の立場を不安定なものにしてしまうことに気づいたヒロインの苦悩も含め描いているところに見応えがあった。
「スカーレット」では、まだ子供の喜美子(川島夕空)が、いきなり父・常治(北村一輝)の「男の意地」を目の当たりにする。
大阪の闇市で暴漢(?)に襲われていた草間(佐藤隆太)を助け、その御礼にお金を差し出された常治は頑なに拒否する。お金受け取ればいいじゃないかと疑問に思う喜美子に、
「〜そうしたいのにできへんねん。そうしてたまるかいう意地や。男の意地や。女にはない意地が男にはあるんや」と吐露して、部屋の片隅で小さくなる。北村一輝が演じる、常治のいじらしさが光る。


それについて一晩考えた喜美子が、紙芝居をただで見せてくれると言われたとき見ないで帰った自分の気持ちと同じものに気づく。
ついに父の前で「女にも意地や誇りはあるんじゃあ!」と叫ぶ。本人は爽快になるが、常治は「アホなこと」「女に意地も誇りもあるか 気のせいや」と否定。立ち会っている母マツ(富田靖子)は涙ぐんでいて、こっそり聞いている草間は微笑み、三者三様の反応を示す。
北村一輝は喜美子の話に怪訝な表情をする、そのいい顔の動きで、この場面に厚みが出る。

そこで柔道


話を聞いていた草間は、柔道を喜美子に教えることにする。そのため草間はしばし川村家に滞在するから宿泊費として20円払うと申し出るが、常治は、指導料として「ちゃら」(貸し借りなし)にすると言う。これで、彼のメンツが立った。女の知らないところで、男たちで意地と誇りを守りあっているというところが面白い。いつか喜美子は女の意地や誇りを守りながらも、男たちのそれを損なうことなくまあるく収めることができるようになるだろうか。

こうして草間のもとに子供たちが集まった。信作(中村謙心)や照子(横溝菜帆)も参加。柔道着をお直しする仕事はマツがした。
家事は喜美子任せのマツが裁縫は得意であることがわかった。人にはそれぞれできることとできないことがあって、なにかしら役に立つことがあることが、草間の柔道で光が差す。

男のスポーツ柔道を女の喜美子がやることもできるうえ、単なる勝ち負けではない「本当のたくましさとはなにか ほんとうの優しさとはなにか ほんとうに強い人間とはどういうひとか そして人を敬うとはどういうことか」を子供たちが知ることになるようだ。

なにかと外から未知なる教えをもたらす役割をする草間は、昨日は「キャンディキャンディ」のアルバートさんと書いたが、「ムーミン」のスナフキンともいえそう。とにもかくにも、物語にはこういう役割をもった人物は必須である。


登場人物のまとめ



川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 漢字が読めなかったが、勉強してすぐ読めるようになった。絵がうまい。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。
丸熊陶業で働く。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子…福田麻由子 昭和22年時、まだ赤ちゃん
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死している。
熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。
信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退する。喜美子に作品を
「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいてそこで何かあったらしい。喜美子の良いところと悪いところを指摘して影響を与えながら、ふらりと信楽を出ていってしまう。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。
  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。


脚本:水橋文美枝
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)
編集部おすすめ