「スカーレット」9話。赤い手袋のようにあったかい人たち
連続テレビ小説「スカーレット」9話。木俣冬の連続朝ドラレビューでエキレビ!毎日追いかけます

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連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~
「スカーレット」9話。赤い手袋のようにあったかい人たち

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第2週「意地と誇りの旅立ち」9回(10月9日・水 放送 演出・中島由貴)


9回のセリフのなかにさりげなく出てきた地名「草津」。温泉で有名な「草津」ではない。それは群馬県の草津。
私も一時期、滋賀県にはいい温泉もあるんだーと完全に勘違いしていたことがある。滋賀の草津は、東海道と中山道の分岐点にあったことから宿場町として栄えた街だ。なにかと温泉地と間違われがちながら、マイペースで過ごす滋賀県の草津にも「意地と誇り」があるに違いない。

男の意地 その後


「ボロは着てても心は錦」と歌う歌がある。貧しいけれど他人の世話になりたくない常治(北村一輝)にもそんな歌が似合いそう。でも、他人の情けをかけられたくないとどんなに意地を張っても、借金は減らないし、それゆえ生活に不足するものも多い。喜美子(川島夕空)と直子(やくわなつみ)娘に赤い毛糸の手袋、家にラジオを、となんとか手に入れたものを結局手放さないとならなかった。

大野(マギー)をはじめとした近隣の人たちは、そんな常治の意地を損なわないように気を使い、草間の希望という体(てい)でラジオを贈る。すべては草間が考えたことなのかな。
一方、手袋は、大野夫妻が落とし物ということにして喜美子の手に渡るように仕組んだものの警官に拾われてしまった。やはり草間の知恵が必要なのかもしれない。

警官の登場は、照子がなりたいと夢見る婦人警官とつながっていて、その警官が「草津」のほうで人さらいが出たたと注意を促し、ドラマの終盤、照子(横溝菜帆)が何者かに追われている場面が出てくることにつながっている。食材を無駄にしない料理上手という印象の脚本だ。


喜美子は夢より


照子が婦人警官になりたいと言い出したのは、新聞で日本初の婦人警官を募集していたからだった。
喜美子は自分には夢がないと思う。直子に絵がうまいから絵描きになればいいと言われるがそんなこと考えてもいなかった。直子、たいてい小憎らしいが今日は姉の絵を「上手」と褒めていた。ツンデレか。
夢よりも、いまは大根が美味しく炊けたかが大事な喜美子。お父ちゃんと同じ、生活第一。でも、面白いのは、お父ちゃんだって生活一辺倒ではないこと。8回で意地があると言っていた常治が、手袋の話をしたとき、マツ(富田靖子)が軍手でいいと言うと、そういうことじゃないというような顔をする。かわいい赤いものを娘に贈りたかったのだろうというお父ちゃんなりの洒落っ気がたまらない。男は、女は、と区別した言い方は今日的ではないが、少なくともこのドラマの時代では、男のほうがいいかっこしいとして描かれている。

喜美子は草間の夢も知る


4年前に行方不明になった奥さんを探し出すこと。ふつうなら4年も経ったらもう亡くなっていると言うが、喜美子が
「早くみつけんかい言うて奥さん今頃かんかんや」と言う。その本気さに草間は元気づけられる。
いい話である。
いい話過ぎてもこそばゆいが、いいあんばいに、喜美子は見せてもらった奥さんの写真に「まあまあやな」と失礼な言い方をして草間は噴き出してしまう。そこもいい。このとき「ブハッ」という佐藤隆太の反応が程よい。全体的にゆったりした流れのなかで、「ブハッ」とやるのは難しいと思うが、場を壊さずにあったかいまま笑いにもっていった。

手袋を落とし物にして、喜美子にみつけさせようとはからう大野夫婦といい、ラジオを草間のために用意したという近隣のおっさん連中といい、あったかい人たちばかりだ。

照子がいないと心配する照子の母役・未知やすえは「わろてんか」で亀井を演じていた内場勝則の妻。
(文・木俣冬 タイトルイラスト・まつもとりえこ)

登場人物のまとめ


川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 漢字が読めなかったが、勉強してすぐ読めるようになった。絵がうまい。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。
気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。丸熊陶業で働く。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子…福田麻由子 昭和22年時、まだ赤ちゃん
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死している。
熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。

熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退する。喜美子に作品を
「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいてそこで何かあったらしい。
喜美子の良いところと悪いところを指摘して影響を与えながら、ふらりと信楽を出ていってしまう。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

脚本:水橋文美枝
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき
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