本能をおさえ、友達を、愛する人を、食べずにいることはできるのか。
アニメ『BEASTARS』(→公式サイト)。
今日11月14日(水)24:55より、フジテレビ「+Ultra]ほかで、放映開始。
NETFLIXで毎週木曜日配信。
「BEASTARS」小さな君と目を合わせるためならしっぽをいくらでも汚そう5話
『BEASTARS』コミックス5巻 原作:板垣巴留

今回は感情がうずまく激しいアクションだった前回とはうってかわって、話しの流れはかなりおとなしい。レゴシが心の整理を行い、ハルに対しての恋心に気づき始める淡い回だ。
オオカミとウサギが一緒に並んでいる光景は、それだけでほっこりする優しさがあると同時に、いびつ。OPにもあるような、2人が踊る幸せさと、血に濡れた本能の残虐さが背中合わせの、ひりつきがある。

しっぽの汚れ


今回はタイトルが秀逸。
「しっぽの汚れにも理由を見出すお年頃」
これは、レゴシがハルの背丈に合わせてしゃがみ、しっぽを地面につけるくらいかがんで、目線をあわせるように気づかえるようになった、ということだ。

ハイイロオオカミのレゴシと、ドワーフウサギのハルのサイズ比(身長は倍以上!)は、あまりにも極端。おどおど成人男子と気の強い幼女、といった雰囲気だ。人間がその組み合わせで歩いていたらちょっとヒソヒソ話されかねないのと同様、この社会でもやはり2人の組み合わせは珍妙。周囲から「食い物と勘違いしてさらってきたのかね」「にしてはさらわれた側が堂々としすぎてんだろ」と陰口を叩かれるほど。

今まではレゴシは、ハルに話しかける時は見下ろす姿勢になっていた。

腰を曲げて、上から覆いかぶさるようになってしまう姿勢は、わざとではないものの威圧感が出てしまう。実際は彼がハルの前で緊張しすぎて慌ててしまい、まともに動けないだけなんだが、捕食される側である草食動物側にしてみたら、その圧はかなりのもの。
気丈に振る舞っているハルがレゴシと一緒に食事をしているシーンでは、ハルの本能が暴れる。「逃げて!食われる!逃げて!」「いやこれきついわ。オオカミとウサギの食事ってここまでハイリスクなものだったのね」

まだ出会ったばかりの2人は、友達でもなんでもない。対等な距離感を持つところから始めるには、双方のなんらかの行動が必要だ。
ハルは先日、晩ごはんに誘う、という行為で一つ距離感を詰めた。
それでも本能的な恐怖感で「もっと仲良くなりたいけど物理的な差がありすぎる」と笑顔の裏で判断していた。

レゴシはまだ何も出来ていない。
ただ、彼女と話す時に見下ろすのではなく、しゃがみこんで視線をあわせることの重要性に気づいた。
「これからは君と目を合わせるためなら、俺、いくらでもしっぽ汚すから」

レゴシはオオカミ。イヌ同様に嬉しくなるとしっぽを振る。

ハルといる時は嬉しい。だからしっぽが自然と揺れる。目線を合わせるためしゃがみこめば、しっぽが地面をごしごし擦ることになる。
これが、レゴシがハルに対して、ひいては草食動物全般に対して、自分が取るべき態度だと気付かされるシーンだ。
今後、レゴシがハルと話すシーンでの姿勢は、自然な流れながらも毎回かなり意図的に描かれるはずだ。

親友のジャック


この作品の名脇役、レゴシの幼馴染、ラブラドールレトリバーのジャックが、かなり多めの出番で登場した回だった。
ジャックはぶっちゃけ、レゴシ・ルイ・ハルのメインどころのストーリーを直接左右するほどのキャラクターではない。
しかし、不安定極まりないレゴシの心を陰からそっと支え続けており、常に応援し続けている非常に優しい存在だ。レゴシが自然体で何でも話せる、レアな存在でもある。
ジャックとレゴシの出会いの話はもしかしたら今後原作どおりアニメ化されるかもしれないので伏せておく(されたらいいな)。

レゴシはどうしても見た目で強いと判断されがち。冤罪の悪い噂も立ちがち。
それをもう諦念していきているのがレゴシだ。
ジャックはそんなことはないと何もかもを信じている子。
レゴシはいつも何かしらしょんぼりしている。しかしジャックはレゴシのそばにい時きはいつも笑顔だ。
「気づかないほうがおかしいだろ、何年の付き合いだと思ってんだよ」
「立ち直りは早くな。お前は隙あらば落ち込むから」
「そういう時があってもいいじゃない」
一緒にだべっておしゃべりしている時も、2人きりで深刻な問題の話をしている時も、ジャックはいつも笑顔だ。これにも実は理由があるのだが、少なくとも今はとても前向きな、レゴシとフラットな関係でいられる彼ならではの接し方として描かれている。

レゴシはこれから沢山の波乱に身を投じていくことになる。だからジャックと離れる時間が増えていく。
しかしどんなにレゴシが成長しようと、ジャックはいつまでも幼馴染であり、親友のまま。詮索せず「いつもどおり」な関係でいてくれる。
肉食草食の難しい問題に入り組んだ時に、レゴシの、そして読者の気持ちをリセットしてくれる非常に貴重なキャラクターになっている。

正直レゴシはもうちょっとジャックを大事にしてあげてほしいなあ……という気もする。でもそこも含めてお互い気にしないのがレゴシとジャックの信頼関係なので、2人の独特な距離感をじっくり見守っていきたい。
(たまごまご)
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