『KIN/キン』はちょっと説明が難しい映画である。孤児の少年とチンピラの兄による暴力ロードムービーと、謎の光線銃をめぐるSFスリラー要素が絡み合った、少し変わった趣向の一本なのだ
長方形の箱型をした謎の銃って!「KIN/キン」謎の光線銃を巡るSFスリラー、社会派でもある、支持する

謎の銃を拾った少年、チンピラの兄貴と共に大陸横断の旅へ


イライジャ・ソリンスキーは、デトロイトに住む14歳の黒人少年だ。生まれて間もない頃に厳格な養父ハルに拾われたが、反抗期に差し掛かったイライジャはハルのしつけを窮屈に感じ始めていた。
彼の小遣い稼ぎは廃墟での銅線拾い。ある日いつものように忍び込んだ廃墟で、イライジャは装甲服を身につけた多数の死体、そして長方形の箱型をした謎の銃を目にする。

慌てて自宅に逃げ帰ったイライジャ。しかし夢の中に謎の銃が出てきたため、彼はもう一度廃墟に戻り、その銃を持って帰ってきてしまう。折しも、自宅にはハルの実の息子であり懲役を終えて刑務所から出てきたジミーが帰ってきていた。まともに働く気がない息子に対し、怒りを爆発させるハル。2人の言い合いと自宅から叩き出されるジミーを目にしつつ、イライジャは謎の銃をバッグに入れて隠し持つ。

ジミーには、地元ギャングのボスであるテイラーに6万ドルの借金があった。返済を迫るテイラーは、ハルの務める建築現場のオフィスから金庫を盗むよう提案する。翌日の夜、イライジャと共にオフィスに寄ったハルは、実の息子がギャングと一緒に自分のオフィスから金を持ち逃げしようとしている現場を目撃。さらにハルはテイラーの拳銃で射殺されてしまう。混乱する現場でジミーはテイラーの兄弟を殺害、その場から逃げ出し、イライジャと共にデトロイトから脱出する。


事情を知らないイライジャは、ロクに顔を合わせたこともなく血も繋がっていない兄ジミーの「家族でタホ湖へ旅行に行く。父さんとは現地で落ち合う」という説明を半ば疑いつつ、謎の銃とジミーと共にアメリカを横断する旅に出る。しかし、復讐に燃えるテイラーも彼ら2人のあとを追う。そしてイライジャが拾った銃を追い、装甲服を身につけた謎の2人組もまた西へと移動していた。

『KIN/キン』の原作は、2014年に発表された短編映画『BAG MAN』である(この作品は現在もYoutubeで見ることができる)。「黒人の少年が謎の四角い武器をカバンに入れて持ち運び、ギャングが出てくる」というアイデアはこの短編と共通しているが、ストーリー自体はほぼ別物。タイトルの「KIN」には血縁や親族といった意味があるが、まさにそれに準じた内容にシフトしている。

貧困がはびこるデトロイト。黒人の少年を厳しく育てる白人の養父。そこに戻ってくる、底抜けのバカだけどどこが憎めないチンピラの兄。あてもなければ未来もない逃避行と、そこで少年が出会う様々な事件。バカな兄貴に連れられて行く初めてのストリップバーや、無免許で運転したピックアップトラック。
刹那的だけどキラキラした日々の中で、血の繋がらない兄弟は本物の家族のようになっていく。

狂気じみたギャングのボスや道中で出会うストリッパーも含め、道具立てはほぼ完璧、「なるほどこれはなんか、アメリカの貧困とか暴力とか、そういうものを背景にしたロードムービーなんだな」という味付けである。しかし、喉に引っかかった小骨のように、映画の中で謎の銃が異物として残り続ける。この銃さえなければ「それなりに社会派だけどリリカルに少年の成長を描いた映画」なのに……。

現代アメリカの風景に異物が混じる、SF的絵面の魅力


そういう役割を背負わされた銃なので、デザイン自体が強烈に異物っぽくなければならない。そういう意味で、『KIN/キン』に出てくる謎の銃はかなり成功したデザインである。格納状態では真っ黒い金属の箱。しかしイライジャが起動ボタンに触れると、ガチャリと中身が引きずり出されてグリップが現れる。電源が入ると銃身の背の部分にホログラムのようなレティクルが何重にも表示され、発砲すれば建物の外壁に大穴を開け人間を一瞬で消しとばす威力がある。

現代アメリカ、それも相当に貧乏で安っぽくなおかつ暴力的なアメリカの風景の中に、この異常な銃がごろりと転がって出てくるのは、それだけで猛烈な違和感がある。この違和感こそ、現代を舞台にしたSF映画のキモになる部分だろう。おれの大好きな『第9地区』も、南アフリカの荒れたロケーションの中にハードな未来っぽさのある銃やパワードスーツが出てきたのが魅力だった。
現代アメリカの貧困やギャングの大暴れを背景に謎の装甲服を着た人間たちが登場する『KIN/キン』も、同じような絵面の魅力を持っている。

『KIN/キン』はさらに、この銃自体の違和感が終盤一気に爆発する構造になっている。ネタバレになるので詳しくは書けないが、上映時間中積み上げてきた「なるほどこういう映画ね」という見かけの部分をうまくひっくり返し、しかもひっくり返した後にまた元に戻す……という芸当をやってのけているのだ。「チンピラの兄貴と10代の弟の不器用ロードムービー」と「謎の銃をフックにしたSFスリラー」との間を、うまく往復していると思う。

個人的なことを言えば、おれは『KIN/キン』のような生々しい現実社会の中に尖ったSF的兵器が混じったビジュアルが好きなので、それで点が甘くなったところはおそらくある。「なんだこれ……?」「どっちつかずかよ」と思ってしまった人の気持ちもわからなくはない(事実、昨年公開されたアメリカではそういう評価もあったという)。しかし、意外なほどちゃんと終わる点も含めて、おれはどうしてもこの映画がどうしても嫌いになれない。とにかく「どういう映画だったか」を書くとネタバレになっちゃうので、ちょっと変わったSF映画を見たいという人はぜひとも見に行ってほしいと思う。
(しげる)

【作品データ】
「KIN/キン」公式サイト
監督 ジョナサン&ジョシュ・ベイカー
出演 ジャック・レイナー マイルズ・トゥルイット ゾーイ・クラヴィッツ デニス・クエイド ジェームズ・フランコ ほか
11月29日よりロードショー

STORY
デトロイトに住む少年イライジャは、廃墟の中で謎の銃を拾う。一方、イライジャの血の繋がらない兄ジミーは、借金をめぐるトラブルから地元ギャングのボスであるテイラーの兄弟を殺害。ギャングから逃げるため、ジミーとイライジャはアメリカを横断する旅に出る
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