本能を抑え、友達を、愛する人を、食べずにいることはできるのか。
アニメ『BEASTARS』(→公式サイト)。
今日12月3日(水)24:55より、フジテレビ「+Ultra]ほかで、放映開始。
NETFLIXで毎週木曜日配信。
「BEASTARS」それはもう「オスオオカミがメスウサギを襲っている」ように見えるらしい8話
『BEASTARS』コミックス8巻 原作:板垣巴留

恋と力関係


前回、はっきりとウサギのハルに対して、自分が恋をしていると気づいたハイイロオオカミのレゴシ。今回は意識しすぎてすっかり挙動不審。
ハルはレゴシのケツを叩くべく、サバサバした言葉をぶつけ続けている。だが、2人が一緒にいると世間一般には「オスオオカミがメスウサギを襲っている」ように見えるらい。

ハル「常に死と隣り合わせの動物の気持ちなんて、知りもしないくせに」
これはレゴシという1人の少年に対してだけの言葉ではない。「大型肉食動物のオス」に対して、「小型草食動物のメス」が怯えながら生きる苦しみを吐露したものだ。

以前パンダの医者のゴウヒンは、レゴシの恋愛について「お前が抱いてるのは、狩猟本能が変形した恋愛感情だ」「仲良くしたいと願ってるのもお前の本音だろうが、それはあくまで理性の声だ。ズタズタになるまで食ってやりたい本能のカモフラージュだよ」と述べていた。
これについてはレゴシもずっと悩み続けており、ハルには極力触れないようにビクビクし続けている。むやみに触れるなら、ハルが死の恐怖を感じてしまうことになると考えているからだ。
どうあがいても覆らない力の差が存在するのを、動物の多くの種族を描くことで表現しているこの作品。
本能がそこにつながった瞬間、惨劇が起こる。

バラバラな種族の力の差を平均にし、共存できる環境を作るには、法整備と理解が必要だ。この社会での法は比較的しっかりしているらしい。だが理解が及んでいないため、肉食動物に対しての誤解が起こりやすい。人間社会で起こりがちな冤罪問題の難しさを思い出してしまう。

ジュノ、立ち上がる


この作品に出てくるメス動物は、肉食草食問わず強くあろうとしていることが多い。その象徴にあたるのが、ジュノだ。
いじめられているところをレゴシに助けられた、同じハイイロオオカミの少女ジュノ。すっかりレゴシにお熱で、彼を振り向かせるためならなんでもするという勢い。

今まではカリスマと抑圧で、アカシカのルイが演劇部を取りまとめていた。
しかし自信を取り戻したジュノは、人当たりのよさと親しみやすさと美貌であっという間に演劇部の人望を集めた。

草食は肉食にいつ食われるかわからない中怯えて生きている。
肉食は草食に冤罪をかけられる恐怖に怯えて生きている。

ジュノは肉食が基本悪人扱いされてしまう現状が気に入らないらしい。今回彼女はきっぱりと「ビースターズになる」と大胆なことを言う。「肉食動物は理性で本能をおさえ、草食動物を守るために立派に生きている」ということを世に伝えるためらしい。

8話では肉食動物の良心的な部分が、はっきりした行動として取り上げられている。停電になった際、演劇部員がすぐ集まり、草食動物を肉食動物が守るよう壁を作るシーン。普段やんちゃで、以前はウサギの血を飲んだトラのビルですらも、この状況下では怯える草食動物に優しい声かけをして、しっかり助けようとしている。

興味深いのはジュノの表現だ。彼女の身体は非常にしなやかでセクシー。アニメーションになったことで身体の動きの美しさは倍増。特にルイを押し倒した姿は、肉食系女子のたくましさとしたたかさを感じさせる、艶めかしいものだった。彼女の美貌は、対立意見のルイですら認めている。
それでいて、レゴシがハルのことを好きだと知った時のリアクションが古典的少女漫画のよう。
精神の幼さと身体の成熟が、ちぐはぐだ。
彼女の姿や思想は、草食動物の小さなメスのハル、肉食動物の大きなオスのレゴシと、ちょうどそれぞれ対となる視点に据えられている。

レゴシの尻尾


「BEASTARS」の尻尾表現は、アニメ化した真価のひとつだ。
レゴシはオオカミだから、感情がすぐに尻尾に出る。尻尾の微細な動きが、無口な彼の目まぐるしく変わる感情を伝える装置になった。

ハルの前であわてて目線を合わせるべくしゃがみこむ時、足の下に尻尾をくるっと丸め込む。
落ち込んでいる時、彼はずっと自分の尻尾を呆然と触り続けていた。
真夜中の帰り道、ハルに背中を叩かれたレゴシは、尻尾がビクッと震える。
悩み事が多くなったレゴシの尻尾には、枝毛ができた。
いつもはハルといると尻尾が自然に揺れる。
ハルがルイと付き合っていると知った時は、笑顔なのに尻尾はピクリとも動かなかった。

表にでる言葉やモノローグと別に動く尻尾。
意識して見ていくと、レゴシというキャラクターの魅力がさらにたくさん発見できるはずだ。
(たまごまご)
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