緋夏にはあった優しさが成瀬には消えてなくなった
橘緋夏(佐津川愛美)に誘われ、春田はデートをすることに。当日の緋夏は、大抵の男ならドギマギするであろうファッションに身を包んでいた。肩の部分は空いており、腕を上げると腋の部分からも肌が見える形のニット。普段とは違うオシャレだ。服からもメイクからも、彼女に気合が入っていることは明らかだった。
なのに、春田は成瀬竜(千葉雄大)の話ばかりする。緋夏からのLINEは既読スルーだけど、成瀬からのメッセージはすぐに返信。埴輪のスタンプが来ただけで大喜びしているし。デートで男の話ばかりする(緋夏からすると)不可解な態度。2人で歩いているのに石蹴りに夢中になった挙げ句、会社の寮にいる先輩の手作り料理をデートの締めに提案するプランニングはあり得なさすぎた。マジ、デリカシー。
緋夏 「他に好きな人がいるの?」
春田 「いや……。え……、なんで?」
答えに詰まったことが春田の答えになっている。
「好きじゃないなら、デート……断ってほしかったな。私は春ちゃんのそういう優しいところ、好きだよ。でも、その優しさに……私は傷つきました」(緋夏)
「俺、頑張るから!」と春田は挽回しようとするが、頑張らなきゃいけないところが辛すぎる。去る緋夏を追いかけようとしない姿に、彼の本音は出ていた。緋夏は春田が誰を好きなのか気付いてない。でも、春田の態度を見る限り、女性の入る隙はあまりない気がする。
寮へ戻り、成瀬の寝顔を見て目が離せなくなった春田。触れたい衝動に駆られ、自分の気持ちに動揺した。春田は自覚しかけた。「他に好きな人がいるの?」と問われたことで、さらに春田は成瀬が気になってしまった。でも、このときはまだ半信半疑だ。他人の気持ちに鈍感な春田は、自分の気持ちにも鈍い。
夕飯の準備ができ、成瀬を呼びにいくときの春田のこころは異常に重く、今にも爆発しそうだった。四宮要(戸次重幸)と会話する成瀬の表情を見て嫉妬のリミッターは壊れ、春田は限界に達しようとしていた。
「お前が誰かと喋ったり笑ってるの見てるの、なんか、すげえ嫌だっていうか……。いないときも何してるのかなって気になるし、そんな自分がすっげえむかつくっていうか。お前、何考えてるか全然わかんねえし、クソ生意気だし、グラタン食うし、全然可愛くねえんだけど。でも、誰にも渡したくないっていうか……。だから! 俺、お前のこと、好きみたいなんだよ。俺じゃダメか?」
一言一言、絞り出すような告白。自分の気持ちに戸惑いながら、伝えずにはいられなかった。
「ダメです……」と断られた春田は成瀬に無理矢理キスをし、跳ね除けられると「キスぐらい誰とでもするって言ってたじゃねえかよ!」。成瀬の気持ちを考えず、欲求を抑えられない自分本意な言葉だ。緋夏を傷つけるほどの優しさが持っていたはずが、嫉妬で優しさは消えてなくなり、リビドーがだだ漏れな様子が異常事態を物語っている。

含みのあった成瀬の拒絶
成瀬はなぜ春田の告白を受け入れなかったのか。単純に考えれば「四宮のことが好きだから」という結論に至る。もう1つあるのは「四宮が春田を好きと知っているから」という考え方。四宮に幸せになってほしい、ゆえの拒絶という捉え方だ。
春田 「俺じゃダメか?」
成瀬 「ダメです……」
このときの成瀬の「ダメ」、少し含みがあったようにも見えた。「シノさんがあんたのことを好きだから、俺はあんたのことを好きになっちゃダメなんだ」のダメに見えなくもなかったのだ。葛藤を元にした拒絶だったとすれば、春田、四宮、成瀬、3人とも切ない。
通販番組のようなノリの告白
4話で「俺には幸せになる資格なんてない」と口にした四宮。その理由が今回明らかになった。元妻の蘭(松島花)が息子・森本翼(長野蒼大)を連れてバンコクに発つ直前、四宮と蘭はこんな会話を交わしている。
蘭 「いきなり家を出てってごめんね」
四宮 「いや、それは俺も……」
蘭 「私はもう十分わがままを聞いてもらったからさ、早く終わりにしなきゃって思ったんだよね。私、要と結婚したこと後悔してないよ。翼も生まれて幸せだった。
恐らく蘭は、四宮がゲイだと知っていた。自分のわがままで結婚し、子どもを産むことができた。そんな夫婦生活だから「早く終わりにしなきゃ」と思った。四宮にも罪の意識はあった。自分のセクシャリティで妻と子どもに悲しい思いをさせたと思い込んでいた。でも、「後悔してない、幸せだった」と蘭に言われた瞬間、前へ進むことができた。
四宮は春田に告白する。春田は困惑し、断った。ただ、このときの「ごめんなさい」は相手が男だったからではない。春田は成瀬にキスをしたばかり。セクシャリティの問題じゃなかった。そして、四宮はウルトラCを出す。
「じゃあ、こうしよう。まずはお試しで1週間。うん!」(四宮)
何も、そんなキラキラした目で……。ドモホルンリンクルじゃないんだから! 四宮が告白するなら重い感じになるとばかり思っていたのに、通販番組のようなノリでアプローチしたのには笑った。蘭から「幸せになってね」と背中を押され、タガが外れたゆえの強気なのか?
もう一方で、こんな考え方もできる。春田は自分に気持ちがないと知っているけど、でも7日間の思い出だけでも欲しい。だからこその、こんな提案。でも1週間が過ぎれば、四宮はそのまま去っていく。
こういう展開が頭をよぎってしまうから、この人は切ないのだ。
最後の告白ラッシュによって一気に話の進んだ第5話。今作は毎回、ラスト数分でぶっ込んでくる。らしくない四宮の暴走には笑ったが、ふと考えると切ない着地点が思い浮かんでしまうのは、どこまで行っても四宮要らしい。
(寺西ジャジューカ)
土曜ナイトドラマ『おっさんずラブ-in the sky-』
脚本:徳尾浩司
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
音楽:河野伸
主題歌:sumika『願い』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ)、松野千鶴子(アズバーズ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:アズバーズ
※各話、放送後にビデオパスにて配信中