本能を抑え、友達を、愛する人を、食べずにいることはできるのか。
アニメ『BEASTARS』(→公式サイト)。
今日12月25日(水)24:55より、フジテレビ「+Ultra]ほかで、放映開始。
NETFLIXで毎週木曜日配信。
「BEASTARS」無数のオスと身体を重ねたウサギが、一匹のオスオオカミに命をかけて大切にされるまで
『BEASTARS』コミックス8巻 原作:板垣巴留

シシ組のリアル


ヒロインのウサギ・ハルが裏組織のシシ組にさらわれ、それを命がけで奪還しに行くハイイロオオカミのレゴシ…という熱い少年漫画展開。
「BEASTARS」の場合、裏組織が敵とは言い切れない。捕食と被捕食の関係が大きな問題としてある社会の裏組織なので、利権関係や私利私欲以上に、避けられない肉食動物の本能が絡んでくる。ここは人間の社会構造に当てはめて考えることが難しい部分だ。

アカシカのルイやレゴシの学校生活と比べると、シシ組の登場はかなり唐突にも見える。
違法売買地帯の裏市が出てきたからこその流れではあるものの、まだ裏市はほのぼのした空気。ところがシシ組の登場で、急に血なまぐさい裏社会の存在が、高校生たちの前でリアルなものになった。

この唐突さは、特にルイに大きな影響を及ぼしている。
学校で彼は、草食動物の思想を鼓舞するため、脚をだめにしてでも演劇を極めようとしていた。ところがいざ外を見たら、シシ組が草食動物の肉の売買をしている現実が広がっている。
自分が学校でやっていることのなんと小さなことか、草食動物の強さを思い知らせるために学校でごちゃごちゃやるのは遠回りすぎでは、と現実を突きつけられる。


10話では彼が「4号」という生き餌だった事実が呪いのように足かせになり、怖気づいていたルイ。
11話では単身シシ組に乗り込んで、親分を射殺した。
ルイは視野が狭い閉じた学校社会から、極端に飛び出しすぎてしまった。

一方レゴシは社会で恐れられる暴力集団のシシ組に対して、さほど特別な恐怖を感じていない。彼にとって一番重要なのはハル。視野狭窄状態だからこその無茶。同時に肉食草食問わず相手への距離感が彼はフラットらしい。
その無謀さがレゴシの強さになっていく。相手が強いか弱いかは大事ではない。自分が何を守りたいか、そのためにどう自分の力を使うかが話の主軸になる。

弱者としての性


ハル「私は見つけてしまった。自分と他の動物が、対等になれる唯一の一時。私にとっては、かわいそうって同情されるよりは全然マシだったのです。
でももう終わりです」
「くだらないドワーフウサギの、くだらない18年間。さようなら」

この世界では一応法律が整備され、肉食動物・草食動物ともに平等に暮らせる社会が作られている(ように見える)。
しかし、個々の生き方が幸せか否かは、別の問題だ。

ハルのようなウサギは、小さくて、ちょっとしたことですぐ死んでしまう。母親はハルに10話で「草食動物の中でもとても弱いの。だから用心するのよ」「何かあったら、すぐ死んじゃうからよ」と述べている。
裏路地を歩いていて肉食動物に牙を立てられれば、それでおしまい。常に覚悟と諦念を抱えていくる不安定な生活は、大型肉食動物にはなかなかわからない部分だ。

本来であればウサギの見た目を利用して、賢く甘える生き方も大いにありなはずだ。周囲には「小さくて弱くてかわいそう」という視線を向けるオス動物が沢山いたらしい。
だがハルが選んだのは、あらゆるオス動物と性的交流を重ねる生き方だった。
同情されるより、軽蔑されてでも、対等でありたい。
性はそのための武器。
彼女と寝た男子生徒は多かったようで、もてあそばれていたことに凹むオスの描写が学内でちらほら見られていた。
一枚上手であると同時に、周りからはビッチと呼ばれてハブられることになる。

金銭のやり取りが一切ないのがポイントだろう。彼女は自分の矜持のために、寝ている。
「かわいそう」という言葉は優しい思いやりの言葉ではあるものの、時には相手に対するマウントを取る言葉にもなる。ハルのように自分が「かわいそう」だと思っていないにも関わらず勝手に自己満足のための同情をされたらたまったものではない。
彼女が色々なオスと身体を重ねるシーンは切なさはあるものの、性を善悪で線引する描写はない。描かれるのは、ハルが強く生きていたという事実だ。

雄モード


レゴシはハルを助け出す際に、シシ組を誰一人殺していない。親分ですらも、首に噛み付いた際急所を外している。そもそも噛みつかぬよう最後まで抵抗していた。

これはレゴシが、自分の本来持って生まれてしまった武器である爪と牙は、誰に対しても暴力のために用いるべきではない、という強い信念を貫いた結果だ。

一方でルイが使ったのは、拳銃だった。
ハルのような草食動物は、いつ死ぬかわからない中過ごしている。でも武器があれば、肉食動物だっていつ死ぬかわからないはずだ。銃を握るルイからしてみたら、牙を持つレゴシがわざわざ武器を使わないのは、なめているように見えてしまうのも無理はない。

レゴシとルイの対比が出てくる時、童貞か否かが物語に絡んでくる。
ルイはハルと何度もベッドを共にし、行為のシーンも描かれている。彼は11話で、銃の引き金を躊躇なく引いて命を奪った。
一方でレゴシはハルに誘われてなお、童貞のままだ。ハルを救出したあと、本人自身は「雄モード」と言って性的興奮を表現していたが、ラブホテルの中に入ってなお行為に及びきれていない。そして誰一人殺しても食べてもいない。

この世界では、肉食動物と草食動物の恋愛は珍しく、特に肉食動物の小動物好きは変態扱いされるらしい。
ただマイノリティではあっても、禁止はされていない。食殺事件に及んでしまう不幸も含めて、そこそこあることなんだろう。
今回のハル奪還作戦までは、大型肉食獣と小型草食獣の恋愛物語が主軸だった。2人は12話で、その枠を飛び越えられる可能性を、十分に示そうとしている。

ここから先は、裏市やシシ組、学校で食殺事件を起こした犯人の件、狂ってしまった動物の更生、「ビースターズ」問題などを包含して、もっと複雑な種族間問題に発展していく。
話は大きく膨らんでいくけれども、レゴシの童貞ライフも同じ軸で語られていくのが面白い。

アニメでは性も食も、本能も理性も、ごまかさずにしっかり描いてくれた。動物たちのベッドシーンの再現度にはネット上のファンもびっくり。だからこそ原作のさらなる命に関わる物語をも、アニメ化してほしい。まずは恋愛問題に一段落つくであろう12話を見届けたい。
(たまごまご)
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