Who-ya Extendedが重要なメッセージを軽やかに届ける『呪術廻戦』OPテーマ
連日そのタイトルを目にしない日がないほどの人気となっているアニメ『呪術廻戦』(毎週金曜日深夜1時25分~MBS/TBS系全国28局ネット“スーパーアニメイズム”枠にて放送中)。芥見下々の原作漫画は『週刊少年ジャンプ』に連載中で、同誌看板作品の一つ。【関連記事】総括「BEASTARS」動物の生態を題材に「自分を受け入れる」成長物語を描いた。
2020年10月の放送開始当初から“ポスト『鬼滅の刃』”との呼び名が高く、期待に違わず、第2クールに突入している2021年2月現在に至るまで、話題の中心であり続けている。
主人公・虎杖悠仁は高校生。ある日突然呪いに襲われた学友を救ったのを機に、自らの身に呪いを宿し、驚異的な身体能力を持つこととなった。世に蔓延(はびこ)る人間の負の感情から生まれる呪いと戦い、祓(はら)うため、対呪い専門機関である「東京都立呪術高等専門学校」へと編入。
その胸には、育ての親である大切な祖父が死に際に遺した「お前は強いから人を助けろ」との言葉が……。“じいちゃんの死”を「正しい死」と捉え、天寿のまっとうを妨げる「間違った死」をもたらす呪いとの戦いに、真っ向から挑んでいく。
目に見えず手に取って形を確かめることもできないが、感情、念というものは大きな力を宿していて、呪いにもなれば祝福にもなり、人を死に至らしめることもあれば絶望から救うこともある。壮大なストーリーとダイナミックな作画のみならず、そういった精神世界を具象化・可視化した奥行きのあるアニメ作品であり、興味を惹かれ、この時代にこそ響く作品だとも感じた。
本コラムで掘り下げたいのは、そんな注目作の第2クールオープニング主題歌「VIVID VICE」であり、アーティストWho-ya Extended(フーヤ エクステンデッド)についてである。
ボーカリストWho-yaとは
Who-ya Extendedは、ボーカリストWho-ya(フーヤ)を中心としたクリエーターズユニット。2019年11月、フジテレビ系“ノイタミナ”他にて放送されたアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』のオープニングテーマ「Q-vism」でメジャーデビューを果たし、iTunes総合チャート第1位をはじめ、Amazonデジタル人気度ランキング第1位を獲得するなど、配信各チャートを賑わせた。2020年3月劇場公開の『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』でも引き続きオープニングテーマを担当、新人らしからぬ大抜擢を結果に繋げ、大躍進してきた。アーティストとしてのキービジュアルには写真を用いず、イラストのみ。
新人ながら粗削りな印象は皆無で、楽曲は高いクオリティーで構築されている。「VIVID VICE」を初めて聴いた時、新人アーティストであることが正直、信じられなかった。
切迫感に駆られるように、迷いのないクリアな音で強く打ち鳴らされるドラムのスネア。歪んだ音色で激しく掻きむしるようなカッティングと、ふと立ち止まって物思いに耽るようなアルペジオのクリアトーンとが交錯する、多彩な表情のギター。唸るように低音部を這い廻る重厚なベースライン。
それらが小気味よく絡まり合ったダークかつラウドなロックサウンドを基調に、Who-yaのメロディアスなヴォーカルラインが重なる。歌声は強いのに繊細で、瑞々しいのにどこか達観した、大人びた深い哀愁が漂っているのも魅力だ。
耳に馴染みやすいポップさ、キャチーさを備えながら、一度聴いただけでは受け止めきれない“感情の情報量”が豊か。だからこそ、気になって繰り返し再生してしまうのだろう。
YouTubeで公開中の、本楽曲を使用したアニメのノンクレジットOP映像は1400万回に迫る勢いで再生回数を伸ばしており、MVも300万回超(※2/24現在)を記録。2月17日(水)には同曲をリードチューンとした4曲入りEPをすでにCDリリースしている。
【YouTube】Who-ya Extended 「VIVID VICE」 MUSIC VIDEO TVアニメ『呪術廻戦』OPテーマ
「VIVID VICE」=“鮮やかな悪”
「VIVID VICE」は直訳すれば“鮮やかな悪”という意味になる。歌詞には<拮抗していく是非善悪のボーダーライン><罪か罰か導けるか><表裏一体>といった言葉の数々が散りばめられていて、善と悪を単純に二分化せず、その線引きが難しいからこその問題の複雑さ、人間が抱えざるをえない葛藤を感じ取ることができる。MVでは、Who-ya Extendedのキービジュアルとなっているイラストの少年が、地球上の全てが破壊し尽くされた後に広がる瓦礫の山のような広大な場所に屹立。赤と青に二分割された空を背にした自分ともう一人の自分、天秤などのモチーフを描き込み、その揺らぎが表現されている。
印象深いのは、<見開け その目を>という命令形のフレーズ。誰かの決めた善悪の基準に闇雲に従うのではなく、自分自身の目で見て考えること。英語日本語を織り交ぜて韻を踏み、遊び心溢れるリリック技法を取り入れながら、重要なメッセージを実に軽やかに届けている。
歌詞は説明的・具体的ではなく、リスナーがそれぞれに謎解きを楽しめる抽象性が残されている。<嘆く連鎖を断ち切るまで><自戒><理解><味解したい不縁なドロー>というフレーズは、アニメの先行きを予測する上でも示唆的だ。
「正しい死」を求める戦いは、果たして、敵対する絶対的な悪をあぶり出し、攻撃して絶滅させることで終わりを迎えるのだろうか? 「VIVID VICE」が仄めかすのは、そういった勧善懲悪的解決方法の先にある、新たな未来のように思える。
この世界、とりわけ先の見えない未曽有の事態を生きる今の時代には、固定概念や従来の価値観では計れない問題に直面することも多い。善の中に悪があり、悪の中にも善があり、そのバランスが日々変わりもする。だからこそ、目を見開いて自分で判断する必要があるし、相互理解は不可欠。実は、“鮮やかな悪”など存在しないのではないか? ――「VIVID VICE」はそんな逆説的な問い掛けを、鮮やかに投げ掛けているように思えてならない。
関連リンク
■Who-ya Extended オフィシャルサイト■Who-ya Extended オフィシャルTwitter
■Who-ya Extended オフィシャルYouTubeチャンネル
■TVアニメ『呪術廻戦』オフィシャルサイト
大前多恵
ライター・編集者/NHKディレクターを経てロッキング・オン入社、2006年独立後はフリーランスに。音楽家や俳優など、表現者へのインタビュー取材を中心に活動中。ライブレポート、作品レビュー、書籍編集、語り起こし本の執筆、物語の創作なども。
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