
ヨーロッパでの新型コロナウイルスの感染拡大に合わせて、隣国同様にロックダウンに入ったベルギー。当初は4月5日までとされたが、4月19日までに延長された。
イベント会社の契約部署で責任者を務めるベルギー人のネモ・ド・ピエールポンさんに、首都ブリュッセルの様子を聞いた。
ロックダウン下の外出は「良識ある範囲内で」

――ベルギーで新型コロナはどのようにして広がりましたか? 感染拡大が深刻化したのはいつ頃でしょうか?
ベルギーで最初の感染者が見つかったのが3月9日。その約1週間後の18日正午にロックダウンが始まりました。政府の決断は早かったです。
――新型コロナが深刻化した際から、どのような生活をしていましたか?
私の周囲に感染者はいませんでしたので、私生活は通常通りでした。しかし職場では、握手やキスの挨拶をしなくなりました。最初の感染者が見つかった3月9日の時点で、政府から衛生面の注意事項が発表されていたからです。誰もが安全距離を保ったり、手洗いを徹底したり。マスク着用の注意もありましたね。
私は、まだその頃は通勤を続けていて、テレワークに入ったのが3月16日からです。周辺国の状況をニュースで知っていたので、自分たちの国もいつ感染者が出るか、いつ安全対策がされるか、という感じでじわじわと来るべき時を待つようなところがありました。
――ベルギーでのロックダウン状況はどのような感じでしょうか?
隣国フランスのように厳しいものではなく、外出の距離もフランスの外出制限のように、自宅から1km以内といったような制限はありません。
外を走ることもできますが、それも2人までで。やはり安全距離を保たなければなりません。走ることは今できる唯一のスポーツなので、窓の外を見ると、これまで見たこともない人数が走っていますよ。ロックダウン以来、ランナー人口は増えました。
家族など、身近に助けが必要な人がいる場合も、外出が認められています。例えば、自分では買い物ができない高齢者の代わりに、買い物をするなど。病院へ行くことと獣医へ行くことも可能です。車を使うのは仕事に行く場合に限られていて、職場からもらう許可証を携帯しなくてはなりません。警察官のチェックが入ります。
この決まりを破った場合、罰則はあります。でもベルギーでは、罰金が本当に課されるかどうかは分かりません。そういう“緩さ”のある国なのです。外出に対する刑罰よりも、夜に集まってみんなで家飲みをするような場面の方が、厳しく規制されています。
――ロックダウンが始まる話はいつ頃から聞いていましたか?
周辺諸国の例もありましたし、最初の感染者が見つかった時点から、徐々にロックダウンの可能性が噂されるようになりました。3月11日には、ロックダウンがいつ始まってもおかしくないという雰囲気になり、それ以降いつ始まるのかを待つような状態でした。
――実際にロックダウンが始まったあと、街の雰囲気はどのように変わりましたか?
私が住んでいる場所は住宅街です。ロックダウン後の今も、食材店などは営業しています。窓の外を見ると買い物に行く人が歩いていますから、SFのような殺伐とした感じはありません。オフィス街などはかなり閑散としていると思いますが、この辺りは夏休み中の日曜日の誰もいない静けさが、そのまま今あるような感じです。
距離確保のためショッピングカート使用を義務付け

――ド・ピエールポンさんと周囲はロックダウンのなか、家でどう過ごしているんでしょうか。
私はルームシェアをしていて、同世代(20〜30代)と4人暮らしをしています。ロックダウンに入る前に、私の恋人がここに移動してきて、現在はその彼女も居候中です。
――新型コロナに関してお国柄を感じるエピソードがあれば教えてください。
ベルギーはご存知の通り、北部のオランダ語圏と南部のフランス語圏、2つの文化圏に大きく分かれていて、双方の合意がなされず1年以上も政権が不在だった国です。こういった背景もあって、新型コロナウイルス対策に関して健康省の9人の大臣が、各立場からそれぞれの決定事項を発表し、内容に一貫性のない時期がありました。
――ロックダウン後の買い出しはどのようにしていますか? 買い占め、足りなくなっている物資はありますか?
必要であればすぐに買い物に出かけられる点は、いつもと変わりません。ただ、店の外で1.5mの安全距離を保って待つ必要があります。建物の中に入れる人数が、面積に対して決められているためです。店中ではショッピングカートを使うことが義務付けられています。こうすることで他の客との距離が確保できるからです。
トイレットペーパーは品切れすることなくいつでも棚にありますが、その代わり小麦粉が品切れになりました。きっとみんな、家でお菓子を焼いているんでしょうね。
――ロックダウン後の食事は自炊? もしくは宅配か、外に買いに行ったりしますか?
いつも通り自炊しています。他にすることがありませんから。ただしフードデリバリーを使う人の気持ちも理解できます。何もしてはいけないという状況では、料理もしたくなくなりますから。そのため、常に活動的であり続けるよう気をつけています。

――国からはどのようなサポートがあるのでしょうか?
私はイベント関連会社に勤めていますが、個人事業主、フリーランサー、ライブハウスなどに対しては、すぐに補償が約束されました。ロックダウンで真っ先に被害を受けた業種だからです。これらの業種の職員には、一時的失業手当が支給されます。給料の全額、またはその一部など、ケースごとに金額が決まります。6月30日までは現状での補償が決まっていますが、その先はまた状況次第で変わってきますので、現時点では分かりません。
――日本でも新型コロナの影響を受けて、コンサートやイベント、ライブハウスなどの企画・経営が立ち行かなくなる状況が報じられています。
大きなコンサートがキャンセルになる場合は、問題ありません。保険に加入していますので、延期され別日程で開かれます。ライブハウスやイベントの場合は、地域によって国からの補償金額は変わりますが、1社に対し大体4000ユーロ(約48万円)が支給されます。加えて、その会社の社員には一時的失業手当が支給され、会社も社員も急場をしのぐことはできます。
ただしこの先、音響会社、アニメーション会社などは倒産が相次ぐと思います。これらの会社は多角経営をしているわけではなく、専門的に1つの分野だけで仕事をしているからです。その分野の仕事がなくなれば、収入が絶たれてしまいます。大企業は他分野の利益で補填して、何とか倒産を免れられますが。
また、現時点で撮影が終了している映画については、音響やアニメーションを付けることはできます。しかし、今後しばらくは、映画などの撮影が行われないと予想されます。そうなると、音響やアニメーションの会社は、倒産に向かっていくでしょう。
東京五輪への影響を恐れた隠蔽なのではという声も

――日本の様子はどのように報じられていますか?
日本は、真っ先に感染者が見つかった国の1つであるにもかかわらず、ロックダウンはしていませんし、韓国のような大規模な感染者の洗い出し戦略は取っていません。
――現地から見て、日本の動きはどのように感じていますか?
日本政府のコロナウイルス対策は、特に報道されていませんし、東京オリンピックが1年先になったこと以外は話題に上がっていません。ただ、日本社会が平常通りに動いていることは知っています。
――日本がロックダウン、緊急事態宣言が出た場合に気をつけるべきこと、アドバイスするとしたらどんなことがありますか?
室内でできるアクティビティを準備しておくといいと思います。それから、この機会に大掃除をするといいですよ。