「エール」11話 少年の日から6年。窪田正孝に成長した主人公、廊下に立たされる
イラスト/おうか

第3週「いばらの道」11回〈4月13日 (月) 放送 演出・吉田照幸〉

第3週も2週に引き続き、本放送は逆L字でコロナウイルス関連のニュースが流れている。

第2週は、主人公・古山裕一(窪田正孝)の将来の妻・音(二階堂ふみ)の幼少期の話で、「音が主人公の朝ドラ」のような気持ちになりかかっていたが、3週は、ホンモノの主人公・裕一が戻って来た。

戻ってきた裕一

大正15年。ということは、もうすぐ昭和になってしまう大正の終わり。
時代の転換期。でも登場人物たちは大正が終わることを知らない。

「エール」11話 少年の日から6年。窪田正孝に成長した主人公、廊下に立たされる
写真提供/NHK

主人公・古山裕一(窪田正孝)は「音楽に夢中で商業学校4年生を留年してしまいました」ということで、留年してもなお音楽に夢中で、授業中にこっそり内職(作曲)していて、バケツを2つ持って廊下に立たされてしまう。

バケツを持って廊下に立たせるという行為は、いまだったら教師の生徒に対するパワハラ扱いであろうが、この頃は当たり前だったようだ。なにせ昭和のドラマや漫画にもこういう描写はよくあったから。よく考えたら、バケツ2つもって立たせ、晒し者にするという体罰って酷い。

虐げられる裕一。でも、一部の視聴者的には、やっと出てきた窪田正孝の、学生服でバケツをもってうなだれる姿も眼福なのである。作り手はそれをわかっているかのように、11話のラストもバケツを持って立たされるカットであった。

着物の下にシャツを着ている出で立ちも文系男子な香り。学生帽をかぶった姿や、卓上ピアノを弾く姿など、「今週の窪田正孝」向けのネタを大量に投下してくれているようであった。サービス、サービスぅ〜って感じの第3週のはじめながら、窪田正孝はそんな外野の思惑など関係なく、実直に裕一の繊細さを演じている。


裕一は子供時代と変わらず、なめらかにしゃべることができない。窪田正孝はたどたどしい言葉遣いがただの形態模写ではなく内向的な性格から来たものであることがよくわかる演技をしていると感じた。

会長の変わり身の早さ

商業学校では冴えない裕一の楽しみが、放課後の福島ハモニカ倶楽部。当時人気だったハーモニカを演奏する倶楽部。よりすぐりの学生と社会人の集まりで、かつて裕一を虐めていた二人組のひとり・楠田史郎(大津尋葵)も参加していた。もうひとりの大柄の子はどうしているのだろう。

あるとき、会長・舘林信雄(川口覚)が次の公演でオリジナル曲をやるため曲を広く募るので、応募してみないかと裕一を誘う。張り切って、自宅で卓上ピアノに向かって作曲に励む裕一だったが、会長がふいに、実家の都合で倶楽部を辞めると言い出す。

家を継ぐはずの兄は重病で、東京に行ってプロになれないとわかったからと驚くほどの変わり身の早さを見せる会長。
プロになると言ってたのは「みんなを鼓舞するため」で「本気で音楽家になるつもりだったの?」と急に悪役みたいなキャラになる。照明も青く冷たいものに。故・蜷川幸雄のさいたまネクスト・シアターでハムレットなどを演じてきて、演技力には定評のある川口覚。青い照明の下、突然、ドライな人になる演技も見事にやってのけていたが、なんだかもったいない使われ方である。


会長に「身の程を知ることも大切だよ」と言われ、裕一はうなだれる。
「会長は僕の目標だったのに」とがっくりする窪田正孝の痩せた肩と、そのあと、眉間に皺を寄せながら真剣に小さなピアノを弾き、楽譜に鉛筆を走らせる姿もいい。ピアノのピンっと張った硬質な音と窪田正孝の身体に親和性を感じる。

古山家の経済的危機はどうなってる?

第1週は大正9年だったので、6年が経過している。1週では経営の危機が訪れていた呉服屋・喜多一がなにごともなく続いていることが気になる。店が苦しいと浩二のセリフはあるとはいえ、三郎(唐沢寿明)は京都の商品を一気に扱うとか調子いい。

裕一と浩二(佐久本宝)のどちらかをまさ(菊池桃子)の実家に養子に出す話はどうなったの? と思ったら、「あと1年だ」と裕一の祖父・権堂源蔵(森山周一郎)が厳しく、茂兵衛(風間杜夫)に迫っていた。6年もの長い猶予をくれていたようだ。なんだかんだいって身内だから甘いのか。
イヤなヒトかと思えた茂兵衛は病気で跡継ぎのできない奥さんを大事にしているようだが、源蔵は無慈悲に再婚を促す。

「エール」11話 少年の日から6年。窪田正孝に成長した主人公、廊下に立たされる
写真提供/NHK

福島編が1週空いての第1日めだから、古山家の事情や、裕一のいまの状況をぎゅぎゅっと盛り込んだのだろうけれど、学校、ハモニカ倶楽部、古山家(長男の裕一が優遇され次男の浩二が不満を抱いている)、喜多一(吉野福之助〈田口浩正〉という調子のいい商人と三郎のやりとり)、川俣・権堂家……と15分の間にたくさん盛り込み過ぎて、ひとつひとつのエピソードが駆け足で流れていってしまう印象もあった。
とはいえ、様々な出来事、様々な人々の欲望はある意味ノイズであって、そこから、裕一はたったひとつ純粋な“音楽”を選び取っていくのだと思うと、これはこれでいいのかも。
(文/木俣冬、タイトルイラスト/おうか)

(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)


番組情報

連続テレビ小説「エール」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~、再放送 午後11時~
◯土曜は一週間の振り返り

原案:林宏司
脚本:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
キャスト: 窪田正孝 二階堂ふみ 唐沢寿明 菊池桃子 ほか
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」
制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和
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