台湾や韓国に学びつつロックダウン解除へ 4週間の外出制限延長を決めたフランス
スーパーマーケットに入店するために待つ人々


4月13日、フランスのマクロン大統領は外出制限の延長を発表した。今まで4週間を外出制限下で暮らしてきたフランスの人々にとって、今回の発表でさらに4週間の制限措置が続くことになった。


首都パリの様子を現地ライターの角野恵子さんに聞いた。

取材・文/加藤亨延


大統領がテレビ演説で政府対策の失敗に言及


台湾や韓国に学びつつロックダウン解除へ 4週間の外出制限延長を決めたフランス
閑散としたパリ市内13区の住宅街

――新型コロナウイルスはどのようにして広がりましたか? 感染拡大が深刻化したのはいつ頃でしょうか?

最初の感染者が確認されたのは1月24日。中国人観光客など3人からでした。当時、新型コロナウイルスは非常に感染力の高いインフルエンザのようなもので、こまめな手洗いと咳エチケットを徹底すれば感染を防げると言われていました。高齢者や持病のある人にとっては危険でも、死亡率が低いことや、空気感染しないことが強調されていて、不必要に恐れることのほうが間違いというような風潮があったことを覚えています。

2月23日に感染症対策レベル1が発令された時、感染者は12名。安全距離の確保と手洗い、咳エチケットの徹底を、ベラン保健相が呼びかけました。
お互いの顔を近づけて行う、フランスらしいキスの挨拶と握手も控えるようにとも言われ始めました。この頃から徐々にイベント延期の連絡が入り始めました。

2月25日、フランス人1人目の死亡者が確認されました。この4日後29日に感染症対策レベル2が発令され、1000人を超える集会が禁止に。パリマラソンも中止になりました。

3月12日夜、マクロン大統領の第1回目のテレビ演説がありました。
すでに医療崩壊状態にあったイタリアを例に挙げて、これと全く同じ現象をフランスは1週間遅れでなぞっていると説明。学校休校とテレワークへの切り替えが宣言されたのもこの時です。2日後の14日、フィリップ首相が感染症対策レベル3とし、 レストランや映画館などの休業を宣言。そして3月17日正午から外出制限が始まりました。死亡者はすでに148人。この時に使った「戦争状態」という強い表現が、後にニュースになりました。
今こうして振り返っても、信じられないスピードで事態が悲惨になったことに驚きます。

――新型コロナウイルスが深刻化した際から、どのような生活をしていましたか?

普段以上に手洗いをし、3月に入ってからはキスの挨拶や握手を控えるようにして、それでも通常の生活を続けていました。むやみに心配をすることはよくないと思っていたのです。

私が住んでいるのはヨーロッパ最大のチャイナタウンといわれるパリ13区ですが、1月末から大通りが閑散とし始め、2月頭には多くのレストランが休業したのを不思議だなと眺めていました。しかし、今思えば、パリのアジアコミュニティーは台湾政府と同じように、早い時点で用心深く行動したのだとわかります。フランス政府に言われなくとも事の重大さを察知して、文字どおり自分たちで自粛に入ったのだと。


――フランスでのロックダウン状況はどのような感じでしょうか?

必要最低限の外出が許されており、外出の際には移動証明書を持参が必須です。違反者には135ユーロ(約1万6千円)の罰金が科されます。必要最低限の外出とは、「食料品等の買い物」「通院」「ジョギングや犬の散歩」「助けが必要な家族のための移動」「テレワークが不可能な場合の通勤」です。

台湾や韓国に学びつつロックダウン解除へ 4週間の外出制限延長を決めたフランス
入店人数が面積当たり決まっているため、安全距離を保ちながら店外で待つ

――外出制限が始まる話はいつ頃から聞いていましたか?

イタリアの例はあったものの、「まさかフランスが」とマクロン大統領の宣言を聞いた時は誰もが驚いたと思います。そして次の瞬間には「ついに来たか」と納得したのではないでしょうか。先に説明したように、新型コロナウイルス対策はレベル1、そしてレベル2と、状況を見ながら段階を追って進められてきました。
その一連の努力が効果を上げられず、ついに避けることのできなかった最終段階になったという感じです。

マクロン大統領のテレビ演説と、フィリップ首相のテレビ演説のタイミングも、絶妙だったと思います。木曜夜にまず大統領が週明けからの学校休業とテレワーク、外出自粛を呼び掛け、土曜夜に首相が「大統領の呼びかけにもかかわらずカフェに人が多すぎる」として飲食店等の休業を宣言し、翌日天気のいい日曜の公園に溢れかえったフランス人の様子を見て、月曜夜、大統領が外出制限を宣言しました。「これはやむをえない」と、こちらも納得せざるをえない流れでした。

――外出制限が始まった後、街の雰囲気はどのように変わりましたか?

3月17日の朝目覚めた時、「1月1日の静寂と全く同じだ」と感じました。外の音、例えば車の騒音や歩道を行く人の話し声が聞こえてこない、静かな朝です。
それでも朝食のパンを買いに出たら、ポツポツと人の姿はありました。

現在、通りのカフェや商店はシャッターを下ろして、交通量も少なくなっていますが、相変わらず車も通るし、人も歩いています。静かですが、寂しくはありません。普段は人通りがあるせいで窓を開けることができないアパートに住んでいる人も、今は時々窓を開けています。そこから家族の会話や音楽が漏れてきたりすると、なかなか平和な感じです。ただし外を歩く時は、だれもが安全距離を意識的に確保していることが感じられます。

――外出制限のなか、家でどう過ごしていますか?

私の家は日当たりのない狭い住まいなので、どうなるだろうと不安でしたが、ほとんど平常通りに暮らしています。もう一つ不安だった大学生の長女との相性も、思いのほか良く、この1ヵ月間お互いに嫌な思いはしていません。今さらのように、わが子の特徴をいくつも発見して、驚いたりもしています。一緒に料理もします。イタリアでもフランスでも、ロックダウンに入った国では料理が人気のようです。SNSを見ているとそれを痛感します。

多分こんな事でもなければ、大学生の娘とみっちり一緒にいることもなかったので、ある意味ありがたいと思っています。

必要な家庭にはパリ市から食事補助金の振り込みも


台湾や韓国に学びつつロックダウン解除へ 4週間の外出制限延長を決めたフランス
外出制限で中断した工事現場

――新型コロナに関してお国柄を感じるエピソードがあれば教えてください。

ポルトガルなどでもそうですが、外出制限する場所を持たない路上生活者や、外出制限で逃げ場を失ったDVの被害者など、弱者のために声を上げる人たちが多いことと、そのアクションが早いことが、フランスらしいと思いました。こんな時でもというより、こんな時だからこそでしょうか、基本的人権を大切にしていると感じます。

休業を強いられたレストランが、必要な人たちに食材を配布することで廃棄処分を回避したことも、今世代のフランス人らしいです。

4月13日、マクロン大統領3回目のテレビ演説では、これまでの政府の対策に失敗があったことにも触れていました。間違いを認めるところや、ないものはないと隠さずに伝えることも、フランスらしいと感じます。

――ロックダウン後の買い出しはどのようにしていますか? 買い占め、足りなくなっている物資はありますか?

いつも通り自分でショッピングキャリーを引いて、いつものスーパーや八百屋で買い物をしています。お気に入りの八百屋さんが3月末に休業に入ったのは残念ですが、従業員の安全を守るための判断ですので理解できます。

トイレットペーパーやパスタの買い占めが起きたイタリアや日本の報道を見ていましたから、フランスも同じことが起こると困るなと思っていましたが、この1ヵ月間、買えなくて困っているものはありません。小麦粉だけ、いつものスーパーでずっと欠品していますが、オーガニックの店にはあります。みんなパンやお菓子を作っているのだなと想像すると微笑ましいです。

――食事は自炊? もしくは宅配か、外に買いに行ったりしますか?

ずっと自炊です。外食できない分、普段は買わない高価な果物などもどんどん買って、少し贅沢しています。

――外出制限で許される外出の範囲は?

始まった当初と比べて、次第に細かなことが決められていきました。買い物は自宅から1km以内、ジョギングも1km以内で1日1回1時間まで。買い物に出かける時は1人で、子供連れの場合は大人1人に対し子供1人まで。 先週からは、パリ市内のジョギングは日中10時〜19時を避けねばならず、地方によっては深夜の外出を一切禁止しているところもあります。
台湾や韓国に学びつつロックダウン解除へ 4週間の外出制限延長を決めたフランス
運動のため市内でジョギングする人

これらは状況を見ながら引き締められていったわけですが、自分の都合のいいようにルールを拡大解釈して、ピクニックをしたり、海辺を散歩したりする人が後を絶たなかったからです。フランス南部の町マルセイユのビーチには、水着姿の人もいたとニュースで聞きました。「医療従事者が死ぬ思いで、津波のように押し寄せる患者に対応している時に、外出制限をバカンスと思っている人たちがいるなんて」とフランス人がフランス人に対して失望し、激怒していました。同時に、料理人や食材業者らが協力しあって、病院に無料で美味しい料理を届けるムーブメントもあります。いいことも悪いことも両方伝えるフランスの報道のあり方と、その両方に耳を傾けるフランス人の公平な姿勢には共感が持てます。

――ロックダウン中のお子さんの学習環境を教えてください。

大学生の子どもが2人います。次女は学校から課題を与えられて、普段よりもやることが多くて大変だと言っています。長女はちょうど職業研修の期間にあり、テレワークで仕事をしています。先日4月13日のマクロン大統領の宣言で、5月11日から段階を追ってのロックダウン解除が明らかにされました。保育園、小学校、中学、高校がまず再開し、大学は次の段階を待つとのことでした。「教育機会の平等のために、学校はいち早く再開しなくてはならない」と、マクロン大統領は伝えていました。

――国のサポートはどのような手当てがあるのでしょうか?

私はフリーランスとして、1500ユーロ(約18万円)の補助を受けることができます。2019年3月の収入と比べて50パーセント減収した場合という条件で、政府のサイトから簡単に申請ができます。証明書類の添付もなく、外国人だからと対象から外されることもありません。困っている人に素早く、等しく、手を差し伸べなくてはならない、というフランス政府の姿勢と覚悟を感じます。フランスに納税していて本当に良かったと思いました。

つい先ほど、パリ市から届いたショートメールを見たところ、食費補助の必要な家庭に援助金が振り込まれるという連絡でした。なんの申請をしなくとも、近日中に自動的に口座に振り込まれるそうです。生活保護を受けている家庭が対象なのだと思います。もし私も対象だとしたら、本当にありがたいですね。

台湾、韓国、シンガポールに学びつつロックダウン解除へ


台湾や韓国に学びつつロックダウン解除へ 4週間の外出制限延長を決めたフランス
店の入口に貼られた「働いてくれてありがとう」のメッセージ

――日本の様子はどのように報じられていますか?

東京五輪の延期決定と、アビガン、緊急事態宣言は、こちらのメディアでも報道されましたが、新型コロナウイルス対策に関しては皆無だと思います。

新型コロナウイルスはアジアで発症しているので、フランスも他国同様にアジア各国の対策に注目していて、そこから有益な情報を学び取ろうとしていることが日々のニュースで伝えられています。特に台湾、韓国、シンガポールの対策は、それぞれ細かく分析されて頻繁に報道されています。実際、これらの国が実施している大規模な検査とアプリの感染追跡などを手本にして、5月11日以降のロックダウン解除の準備が進められているとのことです。

――現地から見て、日本の動きはどのように感じていますか?

フランス人がのんびりとイベントを続けていた2月上旬、日本人はイベントを自粛し、企業によってはテレワークに切り替えていました。国民の自主的な努力だけで、新型コロナウイルスの感染拡大を防いでいたと思います。スキンシップと自由が大好きなフランス人にはできなかったことです。でも残念ながら現在の日本の状況は、もうそれだけでは太刀打ちできない段階にあるようです。

パリで外出制限を体験していて感じるのは、警察が取り締まりをしてくれてよかったということです。どこにでも必ず数パーセントは無法者がいると思います。それを住人たち同士で監視し合わなければいけないとしたら、本当に息苦しく生きづらくなってしまいます。日本にはフランスのような外出制限も罰金もありませんが、本当は取り締まりや罰金があったほうが、住人にはかえって楽かもしれません。今後、日本人一人ひとりが負わなくてはならない精神的負担を思うと、気の毒な気持ちになります。

――パリで経験している新型コロナウイルス対策の生活を通して、アドバイスするとしたらどんなことがありますか?

うまく言えませんが、信頼できる情報を得るために、また自分が置かれた状況が適切かどうか公平に判断しやすいように、情報源を1つにしない方がいいと思います。他国で起きていることにも目配りし、SNSで他国のメディアをフォローするのも一案です。例えば、先ほどSNSで流れてきたニュースに、ニュージーランドの首相が国家公務員の報酬を一時的に20%下げることにしたというものがありました。いろいろな国のそれぞれの対策が、参考になると思います。

そして一人で辛い状況にある人は、それを自分の責任だと思いこまないように、また感染したとしてもそれを罪のように思わないように。フランスはロックダウン解除に向けて、国民の60%が免疫を持つ(つまり一度は、陽性を体験した)ことを理想としています。マクロン大統領も伝えていましたが、長い戦いになると思います。5月11日にロックダウンを解除するとはいっても、また近い将来に再ロックダウンがあるかもしれません。しかし、必ず終わりはあるので、今を最良の状態で乗り越えるしかありません。