
オープンしてから40年以上経つ老舗ライブハウス「新宿ロフト」。全国的にも名高く、これまでにサザンオールスターズや山下達郎など数多の著名アーティストがそのステージに立ち、また、この場所に憧れを抱くアーティストや観者も多い。
現在のコロナ禍を受け、感染防止の為の営業自粛要請の遵守と世のライブハウスの風当たりも強い昨今。同店も現在、ライブは一切行われていない。ほかのライブハウスに比べ面積も大きくキャパシティも多大なぶん、その維持費やライブが行えない機会損失金額も大きい。自粛長期化が進めば、継続や存続も危ぶまれている。
少しでもその損失を埋め、今後の活動再開に向けての発信や情報提供をしていくべく新宿ロフト支援プロジェクト「Forever Shinjuku Loft」が5月より立ち上がった。13日からは、その第二弾としてドネーショングッズとなるオリジナル抗菌性マスクの受注販売も始まっている。
ライブハウスにおける現状について、新宿ロフト店長・柳沢英則氏と、同店のブッキング担当・樋口寛子氏に話を伺った。
緊急事態宣言以降、ガラリと変わった営業体制

――まずは新宿ロフトにおける新型コロナウィルスの感染拡大防止の為の営業自粛での損失から教えて下さい。
柳沢英則(以下、柳沢):2月の後半頃からですね、公演中止が始まったのは。3月中も多少の公演はありましたが、3月後半以降ライブ営業自体は全くしていません。
――当初は自粛もそこまで強制力のない状況であったと記憶します。
柳沢:はじめの頃はアーティストさんから「中止/延期にしたい」との申し出が多数でした。
――ちなみに先方から「中止にしたい」との申し出の際は、通例通りキャンセル料等は先方負担でしたか?
柳沢:事態が事態なので、うちもそれを汲みつつ相談しながら都度決めていきましたね。
――自粛に踏み切るか? 否か? の判断は他所も新宿ロフトの動きや出方を見てからという、ベンチマーク的存在のひとつであったと思われます。その辺りの「代表して自粛に踏み切る」責任感やプレッシャーはいかがでしたか?
柳沢:やはり周辺からの注目や視線は気にはなりました。その辺りは周りのライブハウスのコミッション等と連携をとり、他の業種や世の中の流れや営業情報等で判断し、自粛突入時期を決めました。
――世間からはライブハウスは3密の要素が揃っており、感染拡大の元凶的な見方もされ、早い段階から自粛の促しに則した印象があります。
柳沢:やはり感染拡大がライブハウスで起こってしまったのは事実としてあったので、それに関しては私個人としては真摯に受け止めました。換気や密みたいな部分はやはり避けては通れない場所でもありますので。
樋口寛子(以下、樋口):当初はこれほど尾をひくとは想像もしていませんでしたからね。一度公演を延期し、「この時期だったらきっと行えるだろう」と組んだ再公演さえも、さらに延期になったものも出てきていますから。
――緊急事態宣言以降は営業体制も変わりましたか?
樋口:ガラリと変わりました。ライブが不可能な関係上、基本私たちも在宅業務が中心になってしまって。
――そんななか、現在はどのような内容の業務を?
樋口:基本、中止や延期になった企画や公演に際する各所への連絡や手続き、お客様への前売りチケット代の払い戻し作業ですね。それと並行して店舗を存続させるための動きを色々と準備や画策しています。ライブはできなくても、店舗自体の家賃や共営費、雇用しているスタッフの人件費は出ていきますから(苦笑)。
――やはり変わらず家賃は払わなくてはいけないんですね。
柳沢:(苦笑)。そこは変わりませんでした……。
次につながる支援とは? を今一歩深く考えた

――今回の営業自粛で最も困ったことはなんでしたか?
柳沢:やはり今後いつまで続くか分からない営業自粛期間の支出ですね。うちは店舗も大きいぶんアルバイトも何人も抱えているので、その雇用や保証……あとは飲食も扱っていることもあり、掃除や、あと音響系の機材も常にメンテナンスをしなくてはいけませんから。その人件費や家賃は悩みますね。こればかりは出ていく一方なので。
樋口:そこから配信やドネーショングッズ等の発想へと結びついたんです。とは言え、ただそれだけでは支援はされるけど次に繋がらなさそうだったので、今一歩深く考えました。
――その新宿ロフト支援プロジェクト「Forever Shinjuku Loft」ですが、思いついた時期から教えて下さい。
樋口:3月上旬ですね。「これはけっこう長引きそうだ」との危機感が芽生え出して。私と柳沢、副店長の河西とでリモートミーティングにてアイデアを出し合いました。
――目標はやはり営業補填?
樋口:ですが、それで全てをカバーできるとは考えていません。あくまでも補填の一部でしょう。とは言え、単に「支援グッズです!」「お金払って支援して下さい!」で終わらせたくなかったんです。せっかく支援金をいただいたのだから、その人にとって意味のあるものや価値のあるもの、そしてきちんと利用できるものを前提にアイテムは絞っていきました。
――それをロフトグループ全体ではなく、あえて店舗独自でやったのには何か訳が?
柳沢:各店舗に独自の支援施策を行っていますが、やはり店によってカラーもお客さんの想いも異なるし、独自性を持っている店舗ばかりなので、そこを活かして各自の施策を尊重しています。うちがこのような動きをしたことで、グループ全体でも感化されたところはあったようで。そのノウハウを教示したり、共有するのも、他の系列店舗に対する我々の役割でもあるかなと。
エンタメにかけるお金の優先順位が低い昨今「支援してくれる方々の気持ちに報いたかった」

――新宿ロフト支援プロジェクト「Forever Shinjuku Loft」の第二弾、オリジナル抗菌性マスクの受注販売が始まり、今後も第三弾、第四弾も控えているとのこと。その辺りも他のライブハウス支援が一過性や一回切りで終わっているのに対しての差別化を感じました。
柳沢:やはり長期に備えてです。
樋口:第一弾の配信番組なんて配信日の一週間前に急遽決まりましたから(笑)。「こんなことやろうよ!」って。よく形になったなと (笑)。新宿ロフトから何も発信しないのもおかしな話だとも感じていたので。
――今回の特性マスクは時期的に必需品でもあるので、かなりタイムリー性もあります。
樋口:役に立つもの、そして実用性のあるものを提供したいという気持ちが強くあったんです。みなさんこの時期苦しいじゃないですか。そんななかエンタメにかけるお金の優先順位は最後になると思うんです。それでも支援にお金を出してくれようとしている。その気持ちに何とか報いたくて。
もちろん他のライブハウスが支援グッズに挙げるTシャツもライブの必需品でもあるし理解はできますが、私はそれ以外で役立つもの、そして繰り返し長きに渡って老若男女に使ってもらえるものを提供したかったんです。私たちも普段は楽しんでもらいたく日々頭をひねりながらブッキングや企画をしていますからね。この機会に更にロフトを好きになってもらいたいし、コロナが明けたらまたみなさんに集っていただきたい。そこにも狙いがありました。
ーー発表後のSNSの反響が凄かったです。その多くが新宿ロフトを象徴する市松模様のステージと同様のデザインに食いついてました。
樋口:あれほどの反響があるとは……と驚きでした。いろいろと思案し、それが報われた気がしましたね。やはり新宿ロフトといえばあのステージの市松模様なので。昔、来ていて今は遠ざかっていた方々にも、思い出すものが多々あったようで、早々から多くの方に支援いただいたのも嬉しかったです。
元通りに営業できるのは、来年以降まで覚悟している

――この先もライブハウスがこれまでのような営業形態に戻れるにはかなり時間がかかりそうですね?
柳沢:個人的には今年中は難しいとの予測をしています。実施できたにしても従来通りとはいかず、キャパシティもかなり減らさなくてはならないでしょうから。元通りに営業できるのは、それこそ来年以降まで覚悟はしています。
――ライブ営業が再開されても様々な対策や制限が必要そうですもんね?
柳沢:入口での入念な体調確認やマスク等の装備やアルコール消毒の絶対等、かなり厳重にならざるをえないでしょう。自粛前もやってはいましたが、それを強固に徹底してやる覚悟です。
――今回の事態を経て新宿ロフトさん的に何か見えたものはありましたか?
樋口:働く環境やライブスペースも含め、今まで当たり前に行ってきたものも実は全然当たり前ではなかったことを実感しました。そしてその当たり前がなくなった今、どう頭を働かせて生きていかなくてはいけないか? その辺りを痛感して。あとはみなさんからの支援のコメント等をいただき、今後も音楽を提唱し提供し続けていきたい気持ちがますます強くなりましたね。これからなりのやり方とともに、多くの方々に喜んでもらえる最良のエンタテインメントを届けなくてはならない使命を改めて決意させてもらいました。
柳沢:キャパが狭まれば、そのぶんチケット代やドリンク代等の入ってくるお金も少なくなるわけで。そんな中、例えばうちの場合はホールとバーの2カ所を使い、ホールでライブをやり、キャパシティ的に入りきれなかった方々は、バーで配信してそれを観たり。様々な面白いアイデアを考えて生き延びていくしかないなと。
樋口:新宿ロフトを今後も守り続けていくためにも、これまでのライブ+そこでのこれまでに比べての損失を何で埋めていくか? は今後も課題でしょう。頑なに「うちはライブだけしかやらない!」では続けていけない。コロナが明けても、そんな時代であることは続きつづける気がして、そこには危機感を非常に覚えます。
それは我々みたいな会場だけでなく、アーティストさんにもきっと言えることで。ライブのキャパシティを減らさざるを得ないことで、これまでよりは収益も変化するでしょうし、それをどう埋めていくのか? そこも次の課題でしょう。
ーー今はライブハウス側、アーティスト側と、各々で支援対策を打ち出していますが、今後は確実にお互いの協力性も必要になってきそうですね。
樋口:それこそ組んで行かないと立ち向かえないことや、収支的に実現できないことも多々出てくるでしょうね。
柳沢:確かに今後はお互いがWin-Winになれることを、より考えていかなくちゃならなくなっていくかも。系列外のライブハウスとも色々と連絡を取り合ったりしていますが、やはりみんな近い悩みや心配を抱えているし、それでも頑張っていこう的な気概を持っているので、今後は一緒に生まれるアイデアもあるかもしれません。また一つ横のつながりも生まれたり、強固になっていくいい機会になったのかも(笑)。ライブハウス全体でこの苦難を何とか乗り切っていきたいですね。
樋口:各店の独自性を活かしつつ、全体としても何とかしたい思いは強いです。ホントお互い頑張っていきましょうって感じです。
――最後にコロナ禍が明け、晴れて新宿ロフトに集いたいと思っている方々へメッセージをお願いします。
樋口:今回の支援マスクにはドリンク券もついておりますので、ぜひ遊びに来ていただき楽しんでほしいです。みなさんとまたお会いできるのを楽しみにしていますし、お店でお待ちしております。
柳沢:営業を再開した暁にはライブを観るだけではなく、その後も交流やコミュニケーションが色々と出来る場所であるとの自負もあるので、それを再び楽しみにまた是非自粛が明けたら、新宿ロフトでお会いしましょう!
「Forever Shinjuku Loft」第二弾について

新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う政府の緊急事態宣言を受け、現在営業自粛中の「新宿ロフト」。このまま営業自粛が続くと、1976年にオープンし40年以上の歴史を持つ「新宿ロフト」の存続が危ぶまれると「新宿ロフト」発信の支援プロジェクト「Forever Shinjuku Loft」をスタート。その第二弾として「新宿ロフト」のイメージを全面に押し出したドネーショングッズとして、オリジナルデザインを起用した抗菌・消臭・抗ウイルス加工の洗濯可能な布マスクを受注生産にて販売します。 (新宿ロフトでの再会を願ってドリンク交換缶バッジ・ステッカー付き)
<新宿ロフト発信の支援プロジェクト「Forever Shinjuku Loft」>
プロジェクト期間:2020年5月13日(水)17:00~6月14日(日)23:59
プロジェクトURL:https://wizy.jp/project/483/
主なアイテム/価格:
[マスク1枚プラン] 3,500円(税込)+送料 200円
[マスク2枚プラン] 6,000円(税込)+送料 200円
※両プランともドリンク交換缶バッジ(1個)/ドリンクステッカー(1枚)/ロフトグループフリーペーパー「Rooftop 2020年4月号」(1冊)がセットになっています。
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※サポートには、クラブレコチョク会員登録/ログインが必要です。
※発送は2020年7月下旬頃を予定しています。
※その他詳細は、WIZYプロジェクトサイトをご覧ください。
・「Forever Shinjuku Loft」特設サイト